朝、家を出る前に身だしなみが整うと、これから始まる1日がなんだか楽しみになりませんか?洋服にシワはできてないか、メイクはしっかりできているか。一つひとつ確認して出発すると、気合も入りますよね。
私は特に、髪の毛がまとまってつややかな日、お気に入りの髪型にセットできた日は、気分も明るくなりワクワクします。自分の見た目は、気持ちを左右するものだと私は思うのです。
ですが、病気などが原因で見た目に症状が出てしまい、明るい気持ちになれないこともあるでしょう。特に脱毛症は、日本人の約1~2%の方が経験するそうです。さらにその4分の1は、15歳以下の子どもたちだと言われています。
今回取り上げる「つな髪」は、「髪でつながる社会貢献」をコンセプトに、病気などで髪に悩みを持つ子どもたちへ、ウィッグを提供するヘアドネーションプロジェクトです。
昨年、soar代表の工藤瑞穂がつな髪にヘアドネーションを行いました。今回はヘアドネーションのこと、そしてつな髪ではどんなことをしているのかなどを、工藤の体験も踏まえて紹介します。
捨ててしまっていた髪の毛を使って医療用ウィッグへ。長さ15cmからできる寄付
ヘアドネーションとは、脱毛症や小児がん、ストレスなどが原因で頭髪に悩みを抱える子どもたちのために、切った髪の毛を寄付すること。ヘアドネーションを取りまとめる団体へ髪の毛を送ると、その髪を使ってウィッグを作り、髪に悩む子どもたちのもとへ届けてくれるのです。
これまでほとんどの団体では、ウィッグを作るために31cm以上の髪を寄付することが必要でした。髪の毛が伸びるスピードは、一般的に1年で約10~15cmと言われています。カット後の髪の長さを考えると、31cm以上切るには大人は背中の真ん中あたりまで、数年かけて伸ばさなくてはなりません。
でもつな髪では、15㎝からのドネーションが可能です。帽子をかぶって使うウィッグの制作を行っていることから、短い髪の毛でもウィッグが作れるのだといいます。
31cmまで伸ばすのは難しいけれど、15cmなら頑張れる。
そんな声が多く寄せられており、これまでに3万人を超える方がつな髪のヘアドネーションに参加しました。
soar代表の工藤がヘアドネーションを行いました
実際に髪を伸ばしてから寄付をするまで、ヘアドネーションはどのように進むのでしょうか?つな髪へ寄付をした工藤の体験とともに、ヘアドネーションの方法を見ていきましょう!
まずなんといっても必要なのは、髪の毛が十分な長さであること。工藤はヘアドネーションをするために3年かけて髪の毛を伸ばしました。
工藤:ずっとヘアドネーションに興味はあったものの、31cmの長さにハードルを感じていたんです。数年前につな髪を見つけて「15cmなら私にもできる」と思い、髪の毛を伸ばすことにしました。
ドネーションの準備が整ったら、つな髪ウェブサイトの登録フォームから名前、住所など必要事項を記入して申請を行います。そしていよいよドネーションカット。美容院は対応しているヘアサロンへ行くか、事前確認をすれば行きつけの美容院でカットが可能な場合もあります。工藤は行きつけの美容院で行いました。
ドネーションカットは、通常とは違った切り方をします。寄付する髪の毛を3~5本の束にしてゴムで止め、1cm上をカットするのです。
工藤が寄付をした長さは15cmぎりぎり。胸のあたりまであった髪を、肩より上まで切りました。前と後ろで長さが違うなど現状の髪型を考慮すると、想像よりも短くなったと言います。
乾いている髪であれば、カラーをしていても大丈夫。白髪交じりの髪でも寄付が出来ます。
髪をカットした後は指定の住所まで郵送すれば、ヘアドネーションは完了です!希望者には数ヶ月後につな髪から認定証も届くそうです。
医療用ウィッグの認知を広げ、髪でつながる社会貢献を目指す「つな髪」
つな髪のプロジェクトを運営するのは、医療用ウィッグの製造販売などを行っている株式会社グローウィング。2016年6月に「髪でつながる社会貢活動」と「医療用ウィッグを幅広く知ってもらう」ことを目的に、企業CSRの一環として開始しました。
ウィッグを受け取るのは脱毛症や抗がん剤治療による脱毛がある、または抜毛症などを発症した高校生以下の子どもたちです。脱毛があっても安心して着用できるよう、医療用ウィッグに関するノウハウを生かして制作をしているのだと、広報担当の谷岡瞳さんはいいます。
谷岡さん:利用される方の中には抗がん剤治療などによって、頭皮が過敏になっている人も多いです。そのためデリケートになった頭皮でもストレスなく付けられるように、オーガニックコットンをベースにしたウィッグも作っています。
さらにつな髪ではウィッグの提供だけでなく、利用者に向けた交流イベントも開催しています。病気のことを周囲に伝えづらいという方や、同じ境遇の方に出会いたいという方たちに向けて、気持ちを共有できる場所を提供しているのです。
これまでに290人以上の方にウィッグを届けてきたつな髪。受け取った方からはお礼や喜びの声もたくさん寄せられています。
「皆さんのおかげで、娘に笑顔が戻ってきました。まるで自分の髪みたい、と喜んでいます。娘の友達にも『かわいい』と言ってもらえ、好評です」
「写真に写りたくないと言っていた子が、笑顔で写真に納まりました。本当に久しぶりで、家族一同笑顔になれました。ありがとうございました」
他にも「寄付するには何ヶ月も髪を伸ばし続けて手入れも大変なので、本当に有難いです。大切に使わせて頂きます」など、髪を伸ばし寄付をしてくれた方のことを思ってメッセージを書いている方もいました。
髪の毛を通じて伝播する喜び。寄付者も笑顔になれるヘアドネーション
一方で髪の毛を寄付をする側にとっても、ヘアドネーションは特別な体験となります。工藤からはこんな感想を聞きました。
工藤:これまでケアをしながら伸ばしてきた髪の毛が、子どもたちの役に立つと思うと嬉しくなりました。今までは切っても捨てられてしまっていたけれど、活かしてもらえるんだなって。もっとこの活動が広まって、必要な人のところへ届いてほしいです。
工藤のように「寄付できたことが嬉しい」と感想をくれる人はとても多いのだそう。カットした髪の毛をつな髪へ送付するときに、思いの詰まったメッセージを同封する人もいるといいます。
ドネーションには、老若男女、様々な人が参加しています。中には小学生の男の子からの手紙もありました。小学3年生の時にヘアドネーションを知り、そこから2年間伸ばし続けたそう。「だいじにつかってください」というメッセージの後に、お母さんからもこれまでの男の子の様子が綴られていました。
(男の子なのに髪を伸ばしていることに対して)あまりにしつこく言う特定の子からの嫌がらせで、何度も心が折れそうになりましたが、それよりは「誰かのために」という気持ちが強かったようです。切りながら短くなった部分をさわって何度か泣きました。やりとげたんだよ、と言うと、とても嬉しそうでした。
誰かの役に立ちたい。
この気持ちはきっと、多くの人が持っているもの。ヘアドネーションを通して、思いを実現することにも繋がっているのでしょう。
利用者と寄付者のどちらにとっても喜びが生まれる
普通に切るとそのまま捨てられてしまう髪の毛ですが、ヘアドネーションに参加することでウィッグに変わります。そして、必要とする子どもたちのところへ届けることができるのです。
ウィッグを受け取った人は感謝を、寄付をした方は誰かの幸せに貢献できる喜びを、つな髪へと寄せていました。髪を通して、見しらぬ人々がつながっていく。それは思いやりが循環していくかのようにも見えました。ヘアドネーションは、利用者と寄付者のどちらにとっても喜びが生まれる機会になっているのだと思います。
毎月10名ほど募集しているウィッグの提供は、すぐに応募がいっぱいになるそうです。必要な人にウィッグが行き届くように。15cmから寄付できるつな髪プロジェクトに、みなさんも参加してみませんか?
関連情報
つな髪 ホームページ
(2019年10月21日より15cm以上31cm未満の髪の寄付は一時的に休止中。詳細はこちら)
(ライター/もりや みほ、写真/松本綾香・工藤瑞穂、協力/田島 寛久)