【イラスト】紙を腕にかかえ涙を流す女性

泣き虫。

すぐ泣くなんてズルいわ。

泣いてすむと思ってるんやろ?

今までの人生で、嫌というほど聞いてきたこれらの言葉たち。そう、昔から、私は本当に「泣き虫」です。自分の感情をうまく表現しようとするたびに、自分の心の奥底にある気持ちを誰かに伝えようとするたびに、ポロポロポロと涙がこぼれてきてしまう…。

話したいことがあるのに、泣くことを気にして、うまく話せない。泣いて周囲にめんどくさがられるのがいやで、どんどん自分の気持ちを押し殺すようになっていく。

この「すぐ泣いてしまう」という体質は、私にとって、周囲と心の通ったコミュニケーションをする上で、とても大きな妨げとなるものでした。どうすれば、この体質とうまく付き合うことができるのでしょうか。

私が実際に日々生きながら感じている「悩み」について、内科医の鈴木裕介先生にお話を伺い、その悩みと向き合うためのヒントを模索するコラム連載、第2回。

今回は、「心の奥底にある気持ちを話そうとすると涙が出てきてしまう」という、自分の体質に関する悩みのお話です。

「泣き虫!」と言われ続けた幼少期

冒頭にも書きましたが、私は昔から、よく泣く子どもでした。

幼稚園、小学校のときから、周囲の人にも「ゆかちゃんはすぐ泣く」と言われていました。

友達や家族に今まで言えなかった自分の気持ちを打ちあけようとするとき、誰かに嘘をつかれて自分自身が傷ついたとき、あるいは逆に私が嘘をついてしまって、そのことについて謝ろうとするとき。シチュエーションは違えど、その時々のさまざまな原因によって、私の目からはよく涙が溢れてきました。

ある程度大人になってからも、その体質は変わりませんでした。家族や恋人、友達の前だけには止まらず、会社でも泣いてしまったことがあります。上司とのミーティングで、自分の気持ちを打ち明けることが必要だったとき、会議室の中、涙が溢れてきてしまった。そのときの上司の困ったような、どうしていいのかわからないような顔は、今でも忘れることができません。

「泣く」という行為は、しばしば相手を戸惑わせてしまうもの。「泣かせる方が悪者」という謎の方程式も、無意識のうちにみんなの頭の中に存在しているように思います。だからこそ、こちらが泣いてしまうと、相手が悪者のように見えてしまうのです。

友達や当時付き合っていた恋人、ケンカした相手などには、「泣くなんてずるいわ」と言われることもしばしばでした。

泣きたくて泣いているわけではない

何も、泣きたくて泣いているのではないのです。本音を話そうとすると、どうしても涙が出てきてしまう。昔から、言葉で誰かに思いを伝えることが苦手な私は、気持ちを声にしようとするたびに、喉の奥がギュッと詰まるような感覚になり、喉から出る言葉の代わりに、目から涙という形で気持ちが出てきてしまうのでした。

そんな自分が、それに対する周囲の目が嫌で嫌でたまらなく、私は自然と自分の本音を表現することを諦め、「周りに迷惑をかけないように」と、ヘラヘラと笑いながらごまかす癖がついていきました。「自分の気持ちを伝えること」よりも、「周囲との関係をうまく築き、保つこと」を優先したのです。

当たり前ですが、そうすればするほどに、自分の気持ちを伝える機会は減っていき、たまにやってくる「気持ちを伝えることが必要なシーン」では、涙が出てきてしまう。まさに、自分と、周囲と向き合うことを避けた結果がもたらした悪循環でした。

前提として、私は「泣く」ことは感情表現のひとつであり、全然悪いことではないと思っています。でも、話したいけど話せない。そのことで、私は人とのコミュニケーションや社会での生活に、少し生きづらさを感じていました。

できることなら、泣いてしまう自分をコントロールして、ちゃんと自分の気持ちも表現していきたい。この性質を改善して、改善できなくともうまく付き合っていく方法を知りたい…。ずっとずっと、そう思っていました。

自己開示の訓練をしよう

そもそも、自分の奥底にある本当の気持ちを表現することは、とても難しくて、怖いことなんです。想いを言葉にするのは技術がいるし、伝えることで相手との関係が大きく変わってしまうかもしれない。

だから、相手が自分にとって重要な人であるほど、その怖さは増していきますよね。それに、意図していない涙や赤面などの症状は、大切な感情をずっと抑圧していることが原因であらわれてくることもあります。もしそうだとしたら、あかしさんに必要なのは、「自己開示」の練習かもしれませんね。

私の話を聞くと、ゆうすけ先生は、そのように言います。

たしかに、私は「自己開示」がとにかく下手くそ。これは前回のコラムに通ずるところもあるのですが、誰かの期待に答えること、「いい子」でいることに慣れてしまっていた私は、なかなか、それ以外の気持ちをどうすれば伝えられるのかがわからないのです。

「誰かに気持ちを伝えるのが怖い」「伝えることで、めんどくさがられたり嫌われたりしたらどうしよう」。そういう臆病な気持ちによって抑圧された気持ちが、「涙」という症状になって表れてきてくれている。思い当たる節がありすぎて、「たしかに……」としか言えませんでした。

まずは「話したい」と言ってみる

そしてそれと同時に思い出すのは、私が誰かとコミュニケーションをするときの「癖」のことでした。

私は誰かと話すとき、どうしても「聞き役」になってしまうことが多いのです。人の話を聞くのが純粋に好き、ということもありますが、「自分のことを話したくてもうまく話せるわけがない」という諦めのもと、自ら聞き役に回っている節もないわけではありません。

自分が自己開示することは苦手だけれど、大切な人たちが自己開示できる場所をつくることは得意で、それは、実は私が求めていることだからなのかもしれないな、とふと思いました。

「自己開示が苦手で、誰かと話していても、いつのまにか聞き役に回っていて、話すことができないんです」と言うと、ゆうすけ先生は次のように続けます。

単純なことだけど、まずは「話を聞いてほしい」と、ストレートに頼んでみたらいいと思うよ。信頼できる相手とちゃんと前提を共有しておけば、きっとそういう環境は自ら作り出せるはず。

もしかしたら、「誰かに何かを要求をする」ってこと自体があかしさんにとってハードル高いのかもしれない。でも、自分の言葉で「こうしてほしい」を伝えるのって、フェアな人間関係をつくるにはとっても大事なことだと思うんだよね。

【写真】カフェで、ほほえんでいる男性の横で、嬉しそうな様子で話す女性

たしかに、私は今まで「自分の話を聞いて」と言うことはほとんどありませんでした。黙って聞き役に回り、「ああ、また話せなかったな」と思うことが多かった。「自分の話せる場所」を意識的に作るところから。これがまず、私ができる自己開示の第一歩なのだと思っています。

「自己注目」をやめて、「注意シフト」を心がけてみよう

そうは言っても、26年間積み上げてきた癖ですから、「自己開示」というものは、一朝一夕にできるものではありません。その根深い問題と紐づいている「涙が出る」という性質は、なかなかそうかんたんに治るものではないのかもしれない。でも、できれば改善していきたい…。

「涙が出そうになったときの、即時的な対処方法はありませんか?」そんなことをゆうすけ先生に聞いてみると、このような答えが返ってきました。

「自己注目」と言って、自分の身体感覚とか思考だけに注目してしまうと、その感覚や症状などが悪化してしまう傾向があるんです。

気にしないと思うほど気になってしまう。たとえば「あ、泣いちゃうかも」と意識すればするほどに、涙が溢れ出てきてしまった経験はないですか? そういう時は、注意を自分の外の世界の何かに向けるように訓練するんです。

いま話してる相手が着てる服の色とか、その場で聞こえてくる音とか、匂いとか、なんでもいい。こういうのを「注意シフト」っていうんだけど、試してみるといいと思うよ。

自己注目と、注意シフト。これははじめて聞く言葉でした。たしかに「泣きそう」と思えば思うほどに泣いてしまう経験は、身に覚えがあります。泣きそうになったときは、別のことを考えたり、目線を逸らしてみたりする。このアドバイスはこれ以降ずっと続けていますが、なんとも即効性のあるものでした。

【写真】真剣な表情で周りの人にみつめられながら、涙を浮かべながている女性。窓の外には飛行機が飛んでいる。

周囲の人への理解も欠かせない

以前、Twitterでこの悩みをつぶやいたことがあるのですが、思った以上に大きな反響がありました。

 

そしてそのときにいただいたご意見として、「涙が出る体質について周りに話してみると、意外と受け入れてくれて、それ以降付き合いやすくなった」というものがちらほらと見受けられました。

私はそれまで、「涙は相手に迷惑をかけるもの、だから我慢しよう」と、勝手に思い込み、自分で抑制することに必死でした。でもそれはもしかしたら違うのかもしれない。相手に性質について話してみる。そして、理解を仰いでみる。その努力を、もっとしてみてはいいのではないかと思いました。

「涙が出る」というのは、「人前で話すのが苦手」と同じ程度の「性質」。そこに優劣はないし、引け目に感じることは全然ない。

涙にしても赤面にしても、別に好きで出てる症状じゃないんだから、本人に責任はないんですよ。周囲も、その理解があるだけで付き合い方がわかるし、コミュニケーションはグッとしやすくなると思います。

【イラスト】雨がふっている中、花がさいている河川敷に座り、涙をうかべながら上を向く女性。

ゆうすけ先生のこの後押しもあって、今では会社の上司やパートナーなどに、少しずつ自分のこの体質について話せるようになってきています。

自己開示の練習をしながら、自己注目ではなく注意シフトを心がけ、周囲の理解を仰いで行く。まだまだ道半ばで、この体質との付き合いは長くなっていきそうですが、まずはこの3つを心がけながら、自分の性質と付き合っていければいいなと、今は思っています。

(イラスト/あさののい、編集/工藤瑞穂 )

soarではライターのあかしゆかさんが実際に日々生きながら感じている「悩み」について、内科医の鈴木裕介先生にお話を伺い、その悩みと向き合うためのヒントを模索するコラムを連載しています。

<1>“人からの期待に応える”ことでしか、自分を認められない。そんな私が自分のための人生を歩み始めるまで/あかしゆか