【写真】笑顔で並ぶ登壇者4人

社会人になってから、いくつかの会社に在籍しました。働きやすい環境のなかで、いきいきと働いた経験もありますが、環境や人間関係に疲れ果てて辞めてしまったこともあります。

また、私自身は穏やかに働いていたとしても、その環境にうまく馴染めず、辞めていく同僚をもどかしい気持ちで見送った経験も。

あのとき、どうすれば私自身も同僚も健やかに働き続けることができたのだろうと考えることがあります。会社の体制が良くなかった、上司と合わなかったなど、私個人ではどうしようもないこともあるけれど、何かできることがあったのではないかと思うのです。

そんな疑問の答えを求めて、イベント「強さと弱さが共存する働き方はどうつくる?個人と組織が向き合うべき『こころ』の技術を考える」に参加しました。

【写真】満席の会場。参加者は真剣に登壇者の話を聞いている

働き方の多様化が進むなかで、組織のなかでも、個々の多様性を認め、弱さを認め合うことの大切さが叫ばれています。

実際に、組織に関わる一人ひとりが健やかな状態でありながら、それぞれが力を発揮し、組織としても成長していく状態はどうしたら可能になるのでしょうか。

今回のイベントでは、心の側面から組織や働き方に向き合っているゲストの3人と強さと弱さが共存する働き方について考えを深めました。

さまざまな立場で“心”と向き合うゲストの3人

今回のイベントには、モデレーターを務めるsoarの副代表・モリジュンヤ、ゲストの鈴木裕介さん、櫻本真理さん、とくさんが登壇。それぞれの自己紹介からトークが始まりました。

【写真】笑顔で話す登壇者のすずきゆうすけさん

昨年開業した「秋葉原内科saveクリニック」で院長を務め、NPO法人soarの産業医でもある鈴木裕介さんは、soarの産業医をやることで、自分自身にも良い影響があったと話します。

鈴木さん:クリニックは、“save point”が意味する安心や回復の拠点というイメージをベースにしています。それに加えて、産業医として自分自身や悩みに真摯に向き合っているsoarの皆さんと接することは、産業医としてだけではなく、僕自身1人の人間としてプラスになっているんです。

【写真】笑顔で話す登壇者のさくらもとまりさん

2人目のゲストは、オンラインカウンセリングなど、メンタルヘルスを主に扱う「株式会社cotree」代表取締役でsoarの理事でもある櫻本真理さん。会社として大切にしているのが、“優しさで繋がる社会をつくる”というビジョンです。

櫻本さん:私たちが提供しているのは、サポートを必要としている人と心理の専門家をマッチングして行うオンラインカウンセリングやそれぞれの性格や特性を理解したうえで行うコーチングなどです。まだまだ小さなサービスですが、私たちの組織のあり方が社会の縮図になるような、優しい社会の実現を目指しています。

【写真】登壇しているとくさん

3人目のゲストはとくさん。外資系ソフトウェア企業にて、経営企画本部長として働くかたわら、うつ病やひきこもりからカウンセリングによって回復した自らの経験をもとに、Twitternoteでメンタルヘルスに関する情報や考えを発信。(とくさんは顔や本名を非公開にしているため、この記事では顔の写っていない写真を使用させていただいています。)

とくさん:僕の人生は浪人してうつ病になり、留学でひきこもり、就職活動でもまたひきこもり…。まわりから「すぐにひきこもるね」なんて言われたりもしました(笑)。30代半ばで認知行動療法に出会い、ようやく自分の人生を歩けるようになったと実感しています。

そんなゲスト3名のリクエストで、参加者の皆さんがこのイベントでどういったことを知りたいかを聞いてみることに。

参加者:長年生きづらさを感じているのですが、どうしたら楽になれるのか、そのヒントをお聞きしたいです。

参加者:弱さを特性として捉えるという視点は少ないと思います。ゲストの皆さんは弱さに対してもポジティブな考えがありそうなので、それを聞いてみたくて参加しました。

このイベント名にも入っている“強さと弱さ”。自分は強いサイドの人間だと感じる方からも意見を聞きたいとモリが会場に問いかけました。手を挙げてくださったのが2名。そのうちの1人がイベントに参加した理由を話してくれました。

参加者:壁にぶちあたった経験はもちろんあるけれど、乗り越えてきました。最近チームに入ってきた新入社員が何を苦しんでいるのか、どうやって手を差し伸べたらいいのかが分からないので、そのヒントを探りたいです。

悩みがない人なんていない。誰しもが弱い一面を併せ持つ

【写真】イベントで使用されたスライド。 「今日お話したいこと みんな悩んでる。自信満々のあの人も。経営における「こころ」の重要性。 では、どんな組織を作っていけばいいのか?」と書かれている。

とくさん:強そうに見える人も、自信満々に見える人も、実は悩んでいるんです。

トークセッションは、とくさんのこんな一言でスタートしました。

経営管理の業務をしているとくさんは、会社の上層部やマネージャー職の方々と日々接しています。そのなかで、強さの塊のように見られる人たちも、実は弱さを持っていると、感じるようになったそう。

それに同意したのが櫻本さん。cotreeでは1年ほど前に、起業家へのメンタルサポートを行う「escort」というサービスを始めました。

櫻本さん:起業家や経営者の多くは強い個性やリーダーシップ、アグレッシブさを持っています。でも、それは“組織に属している一般的な人”とは違う考えを持っている、という意味でもあると思うんです。

“組織に属している一般的な人”とは違う考えを持つからこそ、組織のなかに無理やり自分を適合させるよりも、自分の世界をつくったほうが居心地が良い。そういう思いで起業をしたという人も多いのだといいます。

櫻本さん:彼らが持つ強さはもちろん、社会に価値を生み出しています。でも、そういった組織のトップを対象としている相談機関はとても少なく、まわりに相談できる人がいないというケースも多い。彼らのなかには悩んでいる人がたくさんいるんです。「強い」とされる存在だからこそ、責任を引き受ける苦しさがあります。だからこそサポートが必要だという思いで、起業家や経営者に特化したサービスを立ち上げました。

また、起業家や組織の上層部にいる人たちは、自分の弱みを人に見せられないという人が多いようです。

鈴木さん:僕自身もクリニックという個人事業を開業をしている経営者なので、近いところがあるのかなと思っています。昔から、“一般社会に適合できていないかもしれない”という自覚も確かにあるんです。たとえばクリニックのオープンを夕方にしたのは、僕が朝早く起きるのが苦手だから。もちろん患者さんにとっても、平日の昼に会社を休まず病院に来られたらいいだろうなというのもありました。でも、自分が生きやすい環境をつくってしまった方が楽だなという気持ちも大きかったです。

クリニックを開業して、約1年。今の環境では、鈴木さん自身の“いびつさ”がスタッフたちに受け入れられている安心感があるといいます。自分が苦手なことは誰かに任せたり、頼ったりできる関係性が構築されているのです。

それは一方通行ではなく、双方に通い合うもの。鈴木さんを含めたスタッフ同士が立場を超えてお互いを受け入れているからこそ、良い環境がつくられているのでしょう。

それぞれの意識が生む、心理的安全性

【写真】真剣な表情で話すモデレーターのモリジュンヤさん

誰しもが弱い一面を持っているという考えをもとにさまざまな思いがシェアされ、盛り上がったトークセッション前半。そこでモリが、最近組織を語るうえでよく使われる「心理的安全性」というキーワードを、ゲストがどのように捉えているかを聞きました。

櫻本さん:“不安がないこと”が、心理的安全な状態だと思っています。不安はどこから生まれるかというと、“分からないこと”からなんです。でも、基本的にはこの世は分からないことだらけ。相手のことも、クライアントのことも、チームのことも、将来のことも、本当は分からないんです。でも、安全なチームや組織はその分からないことを減らすのがうまい集団なんだと思います。

それに加えて櫻本さんが挙げたのが怒りの感情について。怒りは、上から下に流れると言われています。上の人が怒っていると、下の人は不安になる。この構図はきっと誰でも経験したことがあるはずです。

でもそれは、上と下がはっきりと分かれているから起こる現象。上下関係ではなく、人対人で接していれば、怒りが上から下に流れることはないのです。

【写真】真剣な表情で話すさくらもとまりさん

櫻本さん:一人ひとりを上下ではなく、人間として対等に見つめる。それはお互いの信頼関係にもつながります。そういう組織のなかには「安心感」が増えていくと思うんです。

同じく心理的安全性には「関係維持への信頼」が欠かせないと鈴木さんが続けます。

鈴木さん:心理的安全な状態をつくるために、お互いに弱さを見せ合い、認め合うことはとても大切なことだと思います。ただ、心理的安全性の上に何を積み重ねるか、という観点がより重要です。立場の違いを超えて本音で苦悩や要求を伝えるのはとってもタフなコミュニケーション。でもそこから逃げてしまうと本当の意味での居心地の良さや生産性の高さは得られないですよね。それは、その人個人にとっても、所属している組織にとってもマイナスになってしまうと思います。

そこで大切になるのが、「関係が維持されること」への信頼です。こんなこと言ったらこの関係は終わるかもしれない、そう思うと大事なことは話せなくなります。リスキーなことを言ってもこの関係は壊れないという信頼こそが、心理的安全性に直結しているのです。

とくさんは、信頼関係に加えて大切なものがあると話しました。それは、失敗を共有できる環境とオーナーシップだといいます。

オーナーシップとは、当事者意識や責任感を意味する言葉。誰かからの指示を待つのではなく、主体的に仕事に取り組む姿勢を指しています。

とくさん:一人ひとりがオーナーシップを持った上で、チャレンジできる、そして失敗することが許容される。こうした環境が揃って心理的安全性が確保されていると言えると思います。

でも、それはしっかりとした経営基盤があってこそ。「心理的安全性」という言葉はGoogleが発信したことでそれがさらに広まりましたが、Googleが成功したのは、しっかりとした基盤があったからです。

心理的安全性は、個人個人の行動はもちろん、経営レベルの事柄とセットになってこそ実現します。経営陣が目指す方向を示すこと、それをきちんと伝えること、それぞれの役割を自覚することなど、できることはさまざまです。経営陣からスタッフ層まで、それぞれが意識することで、心理的安全性はつくられていくものなのかもしれません。

自分の悩みにとことん向き合うことで、解決の糸口をみつける

【写真】楽しそうな様子で話を聞く参加者の写真

ここまでは、どうすれば強さと弱さが共存できる組織に変われるのかを中心にトークが進みました。ここからのテーマは、心身ともに健康に働くために、私たち一人ひとりができること。それぞれがどう変わればよいのか、どんな行動をすれば良いのかを考えました。

はじめに話題にあがったのが、個人の悩みへの対処法です。悩みは心に重くのしかかり、一度悩むとなかなかそのループから抜けられないこともあります。

とくさん:悩みって案外自分でその本質が分かっていない場合が多いんです。僕は、認知行動療法を受けたことで、自分の悩みを鮮明にすることの大切さに気づくことができました。

認知行動療法とは、自分の思考や行動の癖を把握し、認知と行動パターンを変えていくことで生活や仕事上のストレスを減らしていく方法のことです。

たとえば、「自分は仕事ができない」「不甲斐ない」…という悩み。実はこれらは抽象的な思考で、その裏には「同僚のAさんの物言いがキツくて怖い」「明日提出しなければいけない資料がつくれない」など、もっと具体的な悩みや不安が隠れているのです。

とくさん:悩んだときには自分の思いを書き出すことをおすすめします。書き出すことで自分の感情の解像度を高くすることができるんです。自分が何に対して悩んでいるのかはっきりすれば、それに対処する方法を考えるという次のステップに進めます。

抽象的だった不安を、具体的な困りごとへ。それが悩みのループから抜け出すきっかけとなるのです。

とくさん:僕の妻は、悩みを具体的に表現するのがすごく上手。家に帰ってきて「会社でこんな出来事があって、私はこう思うから、真逆のことが起こってすごく辛かった」みたいに。僕はそういったことが苦手なんです。「組織構造がいまいちでさ」とか、ついつい濁して話してしまうので(笑)。

まずは、自分の感情にしっかりと向き合い、言葉にする。そこから悩みや不安に対処する糸口を見つけることができるかもしれません。

パターンや枠組みを知ることで、生きづらさを軽減する

【写真】楽しそうに話す、すずきゆうすけさん

生きづらさを抱える人をクリニックで診察することも多い鈴木さん。生きづらさを克服するために、まずは自分自身の特性やキャラクター、あるいは病気があるとしたら、その病気の特徴などをよく理解することが大切だと話します。

鈴木さん:「自分を知る」ということがやはりとても大切なことだと思います。自分のしんどさがどこから来るかをしっかりと探るんです。こういう病名やこういう特性があると分かることで、自分のしんどさが構造的に理解しやすくなります。

たとえば、これまで全部自分に責任があると自分を責めていた人が、自分の特性を知ることで、責任を分散できるようになったケースも。環境的な要因や病気による症状などが明確になると、ぐっと楽になることも多いのです。

また、生きづらさを抱えている人は、自分が陥りやすい特定のパターンがあってしんどくなることがあります。「勝利の方程式」の逆で、同じような悲劇的な展開をループのように複数回繰り返してしまうことも。

自分が陥りやすいパターン構造を認識することで、おのずとそれに直面したときには、これまでと違う行動がとれるようになるのです。認識していながら「次も同じパターンにはまって苦しみまーす!」という人はあまりいないはずだから。

とはいえ、病名や特性を当てはめて考えることには危険性もある、と鈴木さんは注意を促しました。

鈴木さん:病名や特性、キャラクターを知ることは、自分をよりよく理解することで事態を好転させていくためのツールとして使われるべきだと思っています。勝手にあの人は発達障害だから、あの人は鬱傾向だから…と、他人を特性や病気の枠組みに当てはめてしまうのはとても暴力的なことです。それに、当人が「すべて病気のせいだ」として、自分が動かせる領域の改善可能性や責任まで放棄し、「病名」に閉じこもってしまう危険性もあります。

第三者の存在から、新しい自分を発見する

【写真】楽しそうに話すさくらもとまりさん

ここまでは、生きづらさや悩みを解決するためには自分自身を理解することが大切というトークが展開されました。もちろん、自己理解は大切としながらも、これまでの流れとは少し違った話をしてくれたのが櫻本さんです。

櫻本さん:アセスメントを見ていると、生きづらいと感じている人は、意外と自己理解が高いという結果が出ていることがあります。とくさんと鈴木さんがお話してくださった、自分の解像度を上げることはとても大切だと思います。それと同時に、焦点が自分だけに向くことは生きづらさにも繋がってしまうんです。生きづらい人の言葉を解析すると「自分」という言葉が高い頻度で出てきます。

カウンセリングやコーチングが生きづらさや不安を感じる人に効果的だと言われているのは、そこに第三者の存在があるから。カウンセラーやコーチなどの第三者との会話や問いかけを通して、他者の目で客観的に自分を認識できることがプラスに働いているのです。

自分で自分にフォーカスし続けることではなく、まるで自分を手に取って見つめるような体験をするのがカウンセリングやコーチング。診断結果と照らしあわせたり、「こんな特性があるけれど、どこが人と違うんだろう」と他者と比べることで、新たな自分を発見することもあるのだといいます。

櫻本さん:もし、今このイベントで登壇している私が「何喋ったらいいんだろう。今私はどう思われているんだろう」って考えているとしたら、生きづらそうですよね。でも、「楽しいな。あの人はどんな話をしたら喜んでくれるのかな」て考えていたら、一気に幸福度が上がる気がしませんか?そういう意味でも他者の存在は、生きやすさに繋がっていると思うんです。

それに大きく同意したのが、カウンセリングを受けた経験のあるとくさんでした。とくさんは、カウンセリングを経て、自分で自分につっこみを入れられるようになったと話します。

とくさん:以前は、悩み始めたらもうずっと悩み続けなくちゃいけないというループにはまっていました。でも、カウンセラーさんの力を借りたことで、「いやいや、そうじゃないでしょ!」ってもう1人の自分がタイミングよくつっこみを入れてくれるようになったと感じています。

しんどさを飛び越えて、だれかに“giveする側”に回ることも必要

【写真】登壇しているとくさん

トークは、続いて第三者へのはたらきかけへと移ります。たくさんの人との関わりでつくられる組織。そこで働くからには、自分だけではなく、まわりの人たちがどうしたら健やかでいられるかを考える必要もあります。

モリ:個人の働きかけによって、組織をすぐに変えることは確かに難しいですよね。ただ半径5mくらいの人たちと良い関係を築いたり、身近な人への声がけについてはできることがありそうですよね?なにか行動に移せそうなことはないでしょうか。

そんなモリの問いかけに、とくさんは小説家・村上春樹のうなぎ説を例に挙げました。うなぎ説とは、村上春樹が小説を書く上で、自身である書き手と読者、そして「うなぎなるもの」が必要と話したことからその名前がついたそうです。

たとえば、自分自身のことだけを原稿用紙5枚分書くのは難しいけれど、うなぎについて思うことを書くことはできそうです。でも、その文章を読めば人柄や、その人が世界を見る視点がある程度分かる。それがうなぎ説です。

とくさん:つまり、二者間ってすごく難しいということなんです。第三者を入れることがすごく大切。それは、人でもいいし、プロダクトでもいい。第三の何かを引き込むことで、コミュニケーションが円滑になるんです。

それはビジネスでも、家庭でも同じことが言えます。自社商品を通して、家庭の場合は子どもやペットなどを通して、二者間では知り得なかった相手の気持ちを知ることができるのです。

第三者の存在というトークの流れから、鈴木さんは自分が悩んでいる場合でも、身近で悩んでいる人への声かけでも、覚えていて欲しいことがあると語りました。

鈴木さん:しんどいときに、まずはそのつらさを理解してほしいとか、ここから引き上げてもらいたいと思うのは自然なことです。でも、そのつらさを100%の解像度で理解されることを期待すると、とても苦しくなります。他者の苦しみを完璧に理解できる人なんていないませんから。それを一旦飛び越えて、誰かに何かをしてあげる側、giveできる人間になってしまった方が楽になれる場合があるんです。

「しんどい自分」にばかりフォーカスしていると、不安のあまり周囲の人に攻撃的になってしまったり、逆に逃避的になったりとコミュニケーション不全が起きやすくなり、かえってそこから抜け出しにくくなります。

安心が欲しいのに、安心できる人間関係ができにくくなってしまう。自分ばかりに向けていた視点を第三者にシフトすることで楽になる、ということはよくあります。

自分を理解すること、その上で他者の存在にフォーカスすること。そのどちらもが生きづらさを克服するために大切なのです。

すべてのことは、表裏一体。良い面があれば、悪い面もある

【写真】楽しそうに登壇しているすずきゆうすけさん、さくらもとまりさん、もりじゅんやさん。

トークの終盤、イベントの大きなテーマである強さと弱さの共存について、意見が交わされました。

組織のなかでの強い人というのは、押しの強さや耐久力、スピード感を持っている人を指すことが多いはず。また、そういう人は成果を出すことや、プロジェクトや業務が成功することに一直線だという側面がある場合も多いようです。

もちろん組織にとって、プロジェクトの成功は重要なこと。でも組織の皆が成功にばかり執着することに違和感があると、鈴木さんは話します。

鈴木さん:強さと弱さが組織のなかで共存しているというのは、“サクセス=組織が成功すること”と“ハピネス=働く人の幸せ”が両立していることではないかと思います。いわゆる“弱い”とされている人は、今これを頑張ることが自分のハピネスに繋がっていると感じにくい状況にいる人だと思います。それぞれが働くことの幸せを感じながら、成功を追える組織が理想的な気がするんです。

同時に私たちが覚えておかなければいけないことが、すべてのことは表裏一体だということ。たとえば、堅実性の高さは柔軟性の低さ、ストレス耐性の高さは協調性の低さ…など、すべてに良い面と悪い面があるのです。

櫻本さん:たとえば、自閉症の方々が活躍しているAIのITベンチャーがあります。自閉症は、社会的には弱者なのかもしれないけれど、その企業ではそれが強みとなっているんです。どんな性質、特性にも良い面と悪い面があるからこそ、私たちは立場や上下関係、強さや弱さではなく、その人個人として、その性質を捉えなければいけないと思います。

強さと弱さもまた、表裏一体。どちらかだけで成立している組織は存在しないのかもしれません。組織のなかで人を見るときは、一方向からではなく、多方向から見てその人の特性を探り、どうしたらより活躍できるかを考えるのが大切です。

【写真】楽しそうな様子で話を聞いている参加者たち。

鈴木さん:組織のなかで大切なことを例えるなら、「魔法使い」を「魔法使い」として使ってくれる環境かどうかということだと思います。HPや防御力が高くない魔法使いに棍棒を持たせて肉弾戦に参加させるのはミスマッチ。その人の能力を活かせる環境とは言えないですよね。

そこでとくさんがとあるアメリカの企業の一例を挙げました。ある人がビジネスに貢献していないことを理由に会社をクビに。でもその後会社の経営は低迷しました。あとから、ビジネスに貢献していないと判断されたその人こそ、情報や技術を伝達するハブのような役目として、組織全体をつないでいたことが分かったのだそう。

とくさん:ビジネスに貢献していないとまわりから思われていた人が、実は組織のなかで重要な役割を担っているという事例は日本でも少なくありません。アグレッシブではない人、弱いと言われる人が、実は企業の結節点となって組織を支えているということはよくあるんです。

確かに、リーダーのような目立つポジションではがなくとも、組織のなかで大きな役割を持っている人はたくさんいます。

とくさん:組織を支えているのは、表立った活躍をしている人だけではないと私たち一人ひとりが気付くことが必要です。また、自分のことを弱い人間、弱い立場と認識している人たちが、自分に自信を持つことも大切。なぜなら、組織にいる人は、一人ひとりが役割やそこにいる意味を持つ価値ある人なのですから。

組織のなかにはもちろん、一人ひとりのなかにも強さと弱さは共存している

【写真】笑顔で並ぶ登壇者3人と、モデレーターのもりじゅんやさん

イベントの最後に、とある参加者の方からゲストにこんな質問が飛びました。

参加者:自分のチームや、手が届く範囲では、今日お話にあったことができていると思います。でも手の届かないところでは、休職者が出てしまったりしている現状も…。そういう人たちには何ができるのか、また会社に対してはどんなはたらきかけをすればいいと思いますか?

この日のイベントに参加した人たちの多くが悩んでいるであろう質問に、ゲスト一人ひとりが回答しました。

鈴木さん:なぜか組織のなかには、その人の下で働くと生き生きするみたいな人がいるものです。でもそこには理由があるはず。その理由を探り、それを広げていくことも必要なのかもしれません。

とくさん:逃げる場所があるというのはとても重要なことだと思います。辛い状況にいると、逃げるという感覚がなくなってしまうので、第三者が「ここから逃げても、活躍できる場所はほかにあるよ」と伝えることが大切です。

櫻本さん:やっぱり、いきなり組織全体を変えるのは難しいことです。でも、変わりたいと思っている人は必ずいるはず。そういう人を見つけて、巻き込むことでそれが徐々に大きな動きになることが多いです。仲間を増やすことが次のステップになると思います。

強さと弱さの共存。これまではそのどちらかに自分や第三者を当てはめて考えていました。でも本当は、誰しもが強さと弱さを併せ持っています。それは組織も同じです。強い面があれば、弱い面もある。そしてそのどちらもがポジティブにもネガティブにもなり得ます。

まずは、自分の弱さを認めること。そして併せ持った強さに自信を持つこと。それを、隣の誰かにも。そんなふうに自分を受け入れ、同じように誰かを認めることが、組織のなかで強さと弱さを共存させる第一歩なのかもしれません。

【写真】参加者同士で楽しそうに話している。

関連情報
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とくさん Twitter note

(写真/川島彩水、編集/工藤瑞穂)