【写真】微笑んで立っているほしけんとさん

もう就活やめたい……。

そうもらした友人の声を、今でも思い出すことがあります。

自分よりも後に就活をはじめた子たちがポンポン決まっていく。どこにも選ばれない自分が嫌いになりそう。

高校3年間同じクラスだった、ユニークで明るい彼女がここまで落ち込む姿を見たのは初めてのこと。

「選ばれない」を繰り返すことで、「社会には自分の居場所がないんだ」と自信を失ってしまったように見えました。

就職活動は、その後の人生を左右する重要なライフイベントです。もちろん、最初の就職で人生が決まってしまうわけではありませんが、私の友人のように自信を失ってしまう人もいるでしょう。

誰にとっても、ときに就職活動は大きな壁となって立ちはだかります。その壁はセクシャルマイノリティである人たちにとっては、さらに大きなものになるようです。

例えば、LGBTに理解がある企業と出会えるかがわからないまま、暗中模索で進むこと。応募書類の性別欄に「男」「女」の二択しか記入できず、選考から弾かれてしまうこと。就職したあとも、啓発が進んでおらずハラスメントを受けるかもしれないこと。

これまで、そんなふうに就職活動でつらい思いをしてきたLGBTを対象にした、就活支援事業を立ち上げた人がいます。自身もセクシャルマイノリティの当事者と公言している、株式会社JobRainbowの星賢人さんです。

株式会社JobRainbowは、「すべてのLGBTが自分らしく働ける社会の創造」を目指すソーシャルベンチャー。LGBTの就活・転職を支援する求人サイト「JobRainbow」の運営や、企業向けにLGBT研修を行い、“LGBTフレンドリー”な企業を増やしています。

【写真】笑顔でインタビューに答えるほしさん

星さんは属性や立場に関わらず、誰もが生きやすい社会をつくることに目を向けています。

私はLGBTの当事者ではありませんが、これまでに知人からカミングアウトされたことがありますし、もしかしたら言えずに苦しんでいる人が周りにいるかもしれません。これから自分の子どもたちが、セクシャリティに悩むことだってあるでしょう。

当事者でない私はどんな意識を持てば、社会の可能性を拡張することにつながるのでしょうか。

幼少期に抱いた嫌悪感から、学生時代に感じた違和感、事業を立ち上げてから現在に至るまで。そして星さんが考える、「みんなが生きやすい社会」について話を聞きました。

「太陽みたいな子」が抱いた嫌悪感

東京で生まれた星さんは、両親と姉の4人家族。「幼少期から小学生時代までが一番楽しかった」と振り返ります。

子どものころはいつもニコニコしていて、家族には「太陽みたいな子」と言われるほど明るい性格でした。小学生のときも、いつも周りに人がいるような、クラスの中心的な存在だったと思います。

【写真】インタビューに答えるほしさんとライターのくりもとちひろさん

当時は、サッカーをしている男の子たちを尻目に、女の子たちとままごとをしているほうが楽しかったといいます。

父親は仕事で外出していることが多く、家ではほとんど母と姉と過ごしていたので、男性のふるまいがわからなかったんですよね。男の子たちと駆け回るのではなく、女の子たちと“ママ友ごっこ”をしていました。「鈴木さん、最近どう?」みたいな会話をしながら遊ぶんです(笑)。

小学生時代には、異性と交際したこともありました。テレビドラマを見て、男性と女性が恋愛するのが普通だと思っていたため、「自分も交際するなら相手は女の子なんだろうな」と思っていたのです。

女の子とばかり一緒にいたので、口調や価値観などが女性的だったという星さんに、お母さんは“男らしく”振る舞うのを望んだといいます。

母に「男の子なんだから男の子らしくしなさい」と言われるたび、「なぜ男に生まれたからって、“男らしく”しなくてはならないんだろう」という疑問が浮かんできて。そのせいで、自分の“男性”という性に対する嫌悪感を持ったこともありました。

セクシャリティを自覚しはじめた中学生時代

星さんは中学受験をして、中高大一貫の男子校へ進みます。一年生のころは小学校時代と同様、休み時間のたびに机の周りに人が集まってくるような人気者でした。

しかし一年の終わりぐらいから、少しずつ状況が変わりはじめます。

【写真】インタビューに答えるほしさん

周りのみんなは性に目覚めるし、自分自身も思春期を迎えて、男の子を意識するようになったんです。中学二年に上がったころには、「自分は女の子じゃなくて男の子が好きなんだな」と、はっきり実感しました。

そのあたりから、だんだん周りと話が合わなくなっていきます。

男同士ですごくじゃれ合っていた同級生が、「自分はゲイじゃない」と強調していて……。そういう話題になったら、気まずいので苦笑いで誤魔化していました。

そう言って星さんは、少し悲しそうに笑いました。その後は同級生の目を気にし始め、「男らしくない」と思われないようにと、だんだん口数が減っていき、自分らしさを押し殺すようになります。

保健の授業でも、テレビドラマの中にも、同性同士の恋愛のロールモデルがありませんでした。「あ、僕のような人間は社会的に認められていないんだ」と思って、周りにバレてはいけないと、とにかく男性が好きな気持ちを隠すのに必死になりました。

さらに、思春期真っ盛りの中学校二年生のとき、“女性的な男性”を表現する「オネエ」ブームがやってきます。あるとき、同級生に面と向かって「お前ってオカマなの?」と聞かれました。そこで星さんはとっさに、「違うよ」と反論をしたのです。

それは、今でも場面が思い浮かぶくらい、ショッキングな出来事だったといいます。なぜなら、自分の口で、自分を否定するような言葉を放ってしまったから。自分のセクシャリティをはっきり掴みきれずにいた星さんにとって、つらい記憶でした。

教室という“小さな箱”を出たら、信頼できる仲間ができた

からかわれることが増えて、唯一の大人である先生ですら授業中に“ホモネタで”笑いをとっていたくらい。学校の教室の中では、ゲイは“いないもの”としてバカにされる存在でした。

学校がすっかり居心地の悪い場所となってしまった星さんは、ネットカフェへ通いはじめます。

学校には5限から顔を出したり、部活だけに行ったりする生活でした。親は、僕がからかわれてるとは思っていなかったようですが、「どこかで遊んでるのかな」と察して、定期的にお小遣いをくれていたんです。あまり深く聞かずにいてくれたことに、このときは救われましたね。

ネットカフェでは、あるオンラインゲームに熱中し、5人で戦うチームの一員として活躍するようになります。

一緒にゲームをするなかで、チームの絆を深めていった星さんは、あるときメンバーの一人に「自分は男性が好き」だとカミングアウトしました。

すると、「そうなんだ。全然気にしないし、君は君のままだから」と言ってくれたのです。

【写真】当時のことを思い出し、涙ぐんでインタビューに答えるほしさん

今まで、学校のクラスにいる40人のなかで信頼できる人なんて誰一人いなかった。でも、その小さな箱を出たとたんに、自分のことを信頼してくれたり、「そんなの全然関係ないよ」って認めてくれたりする人がいる。このとき初めてそう思うことができたんです。

こうして、確かな人間関係を築くことができたことは、何よりも支えになりました。そして、ひとつの詩との出会いが、星さんを勇気づけます。

「読売新聞の『編集手帳』のなかにあるんですけど……」と、静かに唱えるように教えてくれました。

人の心を傷つけて
喜ぶ心さびしき者に
聞く耳はなかろうから、
中傷された君に言う。
蝿たちの集まりでは、
蝶も「キモイ」と
陰口をたたかれるだろう
心ない者たちのうちにも
自分と同じ美しさを探しつつ、
君はひとり大人になればいい

引用元:読売新聞 編集手帳

星さんがこの詩を読み上げたとき、味方のいない教室で一人、孤独に闘っている当時の姿が目に浮かぶようでした。周りと溶け込んで「自分を殺す」のではなく、「自分らしく生きる」と心に決め、美しい蝶に自身を重ねて、気高くあろうとしたのでしょう。

その詩に励まされて、学校でも「何を言われても気にしない」と態度で示せるようになっていくと、徐々に周囲からのからかいはなくなっていきました。

高校でも基本“ぼっち”だったので、寂しくなかったといえば嘘になります。対人恐怖症になってしまい、話そうとすると声が上ずったり、息ができなくなったりもしました。

それでも星さんは、当時を振り返りながら「孤立したことはつらかったけれど、価値のある経験だった」と話します。

もともと人の痛みに鈍感で、自分のなかにある偏見にも気づかず平気で人を傷つけちゃうようなタイプでした。だから、からかわれるようになったときは自分の弱さを受け止めきれずに苦しかった。でも、痛みを経験したからこそ、人の痛みに気づける人間になれたのだと思います。

大学のLGBTサークルで見つけた居場所

転機が訪れたのは、大学に入学してからのこと。中高大一貫校で立教大学へ進んだ星さんですが、早稲田大学にあるLGBTのインターカレッジサークルへの参加を決めます。このLGBTサークルは、セクシャルマイノリティの学生同士が交流できる場であり、セクシャリティについて語り合う座談会や、季節ごとのイベント、LGBTの啓蒙活動なども行っていました。

もちろん大学でも新しい出会いはたくさんあったのですが、仲良くなる前から恋愛の話題が出るんです。そうすると、「この人と仲良くなったら、ゲイであることをいつか言わなきゃいけないんだ」って、結局バリアを張ってしまうんですよね。

だから、最初から自分の性を共有できるLGBTサークルに入れば何か変わるかなと思って。ネットで調べ、日本で一番大きい早稲田のLGBTサークルに行きました。

自分のセクシャリティを打ち明けられる環境を探そうと、たどり着いた場所。そこは星さんの目に輝いて映りました。

【写真】笑顔でインタビューに答えるほしさん

ゲイの方には会ったことがあったんですけど、レズビアンやトランスジェンダーの方には初めて出会いました。そこでは、ゲイの子が部室でマンガを読んでいたり、その横ではトランスジェンダーの女の子たちがモーニング娘。のダンスを踊っていたり。みんなが自分らしく自由に過ごしていたんです。

セクシャリティも含めて自己紹介をして、初対面で「どんな人がタイプなの?」って気軽に話せる。異性愛者同士が恋愛の話で盛り上がる理由が、このとき初めてわかりました。

星さんは自分以外にも当事者がいる場所に身を置いて初めて、これまでいかに自分を押し殺してきたかに気づきます。それは同時に、自分を解放することの心地よさを知った瞬間でした。

のちにサークル内で同じ立教大学の先輩と知り合います。大学内にも非公認のLGBTサークルがあることを教えてもらい、そちらにも参加するようになりました。

学校に申請して何年か続けると、部室が使えたり部費が出たり公認のサークルとして活動できるシステムだったので、大学1年の終わりに代表になって公認の申請などを行いました。ただ早稲田と違って、立教ではサークル参加者全員の名前が必要で、周りに自分のセクシャリティを知られることをおそれる人もいたんです。

LGBTサークルの代表になるということは、星さん自身もセクシャリティを周囲に知られる可能性が高くなります。それでも代表となってサークルを運営しようと考えたのは、何が原動力となったのでしょうか?

自分はすごくつらい経験をしたと思っていたけれど、他の人の話を聞いたときに、もっとしんどい経験をしていました。家族に勘当された人や、自殺未遂を経験した人、ストレスからくる円形脱毛症で髪が抜けてしまった人…。

自分が暗闇のなかにいるとき、オンラインゲームを通じていろんな人に出会えてすごく自信になった経験から、もしかしたらサークルも、誰かの自信につながる場所にできるのではないかと思ったんです。

社会的な偏見が原因で、つらい経験をした人、その渦中にいる人。そんな人たちの居場所をつくりたいと思ってのことでした。

早稲田のサークルは、演劇を通してLGBTのことを伝えるなど、外に向けての活動にも積極的でした。でも、立教のサークルでは大学内に居場所がない人にも安心できる場所をつくりたいと思い、「ぼっちめし回避の会」をすることに。平日のお昼に、キャンパスの一番奥の、誰もこない教室に集まってランチ会をしていました。

ランチ会の場所を「誰もこない教室」にしたのは、周囲に知られたくないメンバーへの配慮でもありました。最初は5〜6人程度の小さな集まりでしたが、星さんが卒業するまでに40人規模のサークルにまで成長し、あらゆる人の居場所になったといいます。

「うちの会社にはそういう人はいない」就職活動で傷ついた先輩をきっかけに事業を立ち上げ

サークル活動をしている真っ最中の大学生のとき、星さんはJobRainbowの活動をはじめます。このきっかけとなったのは、LGBTサークルで知り合ったトランスジェンダーの先輩が就職活動に失敗したことでした。

【写真】真剣な表情でインタビューに答えるほしさん

先輩は、就職活動先の最終面接で、「信頼できるかもしれない」と思った人事の方にカミングアウトしたところ、「うちの会社にはそういう(トランスジェンダーの)人はいません」と言われ、開始5分で帰らされてしまったそうなんです。

当時の星さんは大学2年生。「あのときは、ただ聞くことしかできなかった…」と悔しさをにじませます。先輩は就職活動をあきらめると同時に、大学も退学し、その後は連絡もつかなくなってしまったといいます。

就職活動さえうまくいっていたら、先輩の人生はまったく違っていたはずだ。

そんな思いが、星さんの胸のなかでくすぶり続けました。

その後、大学3年生になった星さんは、株式会社リクルートホールディングスの新規事業の立ち上げに関するインターンに参加。LGBTの就職の課題を解決するための事業を提案します。

残念ながらそのときは事業化には進みませんでしたが、「だったら自分でチャレンジしてみよう」と自主的に事業のプロトタイプをつくることにしたのです。

市場調査としてLGBTの当事者120人ぐらいにヒアリングしていたので、就職の課題を解決する事業は、すごくニーズがあるなと思っていました。LGBTフレンドリーな会社に入りたいと思っている応募者は「探せていない」し、企業側もフレンドリーであることを「伝えられていない」と感じました。

そこで、最初にはじめたのは、現サービスの前身である、就職の口コミサイト「JobRainbow」の運営です。LGBTフレンドリーな企業の評価や、口コミをのせるサイトとしてスタートしました。

自分を受け入れてくれるかわからない企業に、セクシャリティを打ち明けるのはハードルが高いです。そもそもどの企業がLGBTに対して理解があるかもわからないし、男女の性別欄しかないなどエントリーの段階で排除されてしまっている。

LGBTフレンドリーな企業を一覧で見られたら役立つと思い、サービスを開始しました。

当初考えていたのは、サイトの運営にかかる費用をユーザーから月1000円程度の有料課金でまかなうモデルでした。しかし、会社を立ち上げ、事業の成長に専念する予定ではなかったそうです。

すでに内定をいただいていたので、会社に勤めながら副業として続けようと考えていました。3年程度で独立し、あらためて会社を立ち上げようと思ったのですが、JobRainbowのサービスで自分一人が生きていけるくらいには稼げるようになったときに悩み始めました。

会社で働きながら副業としてJobRainbowに関わっていくのか、それとも自分で会社を設立して力を注ぐのか。迷った星さんは、「10年先の社会に対して、どちらの方がインパクトが大きいか」を天秤にかけて、会社を立ち上げることを選びます。

入社の前月までは就職するつもりで、そこから悩み始めたので、心が決まって内定辞退を伝えたのは内定式の2日前のこと。人事の方に謝りにいきました。

結果として迷惑をかけてしまったのですが、尊敬している起業家の方が、「起業家としてできることを学べる最短ルートは起業しかない」と話していて。自分が人生をかけてやりたいことを早くはじめるべきだなと思ったんです。

会社を立ち上げ事業が成長すると、社会的に評価される機会もありましたが、冷ややかな視線を向けられたり、非難を受けたことも。

立ち上げてすぐに、テレビ東京の『ワールドビジネスサテライト』が取り上げてくれたんです。でも放送を見た人たちからは、「ビジネスとしては成功しないでしょ」とか、単純にLGBTというテーマだけで「気持ち悪い」などの批判コメントがきたりもしました。

それでも続けていこうとしたのは、サービスの利用者が確実に増えている実感があったから。はじめた頃は1日の利用者は50人程度でしたが、6ヶ月後には200人、1年後には1500人と徐々に増えていきました。

「ブログで100万PV」みたいな時代なので、数字で見たら多くは感じないかもしれません。それでも1日に1000人もの人が、良い会社に出会おうと、このサイトを訪れてくれている。「就活に役立ちました」と言ってくれる就活生も多くて、すごく価値のある事業だと思えました。

それに、やめてしまったら、こういうサービスが今後何年も現れないかもしれないと危機感もあったんです。

会社設立から3ヶ月後には、企業からLGBT研修の依頼を受けます。

ビジネスコンテストの審査員だった会社の社長さんに「研修やトレーニングはできないか」と相談されて、LGBT研修を行いました。初めて企業に賛同してもらった仕事です。

また、「LGBTであるかないかにかかわらず、平等に採用していることを示したい」という企業からの相談もあり、サイトに求人を載せることに。結果的に「数十人の応募があり、優秀な方もたくさんいた」と企業の人事に喜んでもらえため、求人サイトとして力を入れていこうと方向性が定まっていきました。

【写真】インタビューに答えるほしさん

サイトを見て「口コミを参考にできる」ことと、そこから直接「応募できる」ことには大きなギャップがあります。求人をのせる、イコール企業側に窓口があること。その前向きな姿勢が見えるのは、当事者にとって、すごく価値があるんです。

そのころから売り手市場になっていたことも追い風となりました。こうして、JobRainbowは求職者と企業を結ぶマッチングサービスをメインに、研修やコンサルティングを行う事業を展開していくことになります。

“働く”を通して、社会に働きかける

JobRainbowでは、求職者がサイトに登録する際、セクシャリティやカミングアウトの有無、トイレ更衣室の利用方法までを選んで、オリジナルの“レインボー履歴書”を作成。その条件に合わせておすすめされた企業のLGBTに対する取り組みを一覧で比較でき、選んだ企業に対して「いいね」やフォローをすることによって、企業の人事からスカウトがくる仕組みです。

スカウトの承認や応募があるまでは、個人を特定できる情報は非公開なので、気軽に、かつ安心して利用できます。

現在では月間35万人が利用するサービスへと成長。これまでにマッキンゼー・アンド・カンパニーやソフトバンク株式会社、富士通株式会社など、一部上場企業を含む100社以上が活用し、2000件のマッチングを生んできました。

あるトランスジェンダーの方は、性自認が女性であるが、生まれた性が男性ということで、以前の仕事先では男性用のトイレや更衣室を使わざるをえず、そのことに苦しんでいました。

でも、JobRainbowのマッチングで出会った再就職先で、初めて女性として当たり前に働くことができ、仕事のパフォーマンスが上がったそうです。こういった利用者からの嬉しい声がたくさん寄せられています。

JobRainbowのパンフレット

これまでLGBTであることで居場所が見つけられなかった人たちにとって、LGBTを対象としたイベントや、コミュニティが増えていることは、大きな心の救いになっているでしょう。それに加えて、JobRainbowを活用することができたら、大きく可能性が広がると思いました。

JobRainbowの事業は就職を扱っています。仕事は人の生活に直結する重要なことなので、LGBTの就活生にとっては、人生の大きな支えとなるはずです。

同時に、JobRainbowを通して採用を行う企業側も、「自分の同僚にもLGBTの当事者がいるかもしれない」という意識を持てます。研修を通してLGBTへの理解を深めることで、無自覚に傷つける側だった人の意識が変わり、社会を大きく変えていくことにも繋がるのではないでしょうか。

LGBTの就活生を支えつつ、社会にも働きかけようとしている星さんに、「LGBTの就活生に伝えたいことは?」と問うと、「選択肢を狭めないでほしい」と答えてくれました。

「LGBTフレンドリーな企業」を選ぼうと視野を狭めすぎず、やりたいことを仕事にするのがなにより大事です。やりたい職種の中で、ダイバーシティが進んでいる企業を選んでもいい。これからLGBTフレンドリーな企業を増やしていくし、私たちが社会を変えていくので、怖がりすぎずに選んでいってほしいです。

また、今後は“働く”にとどまらず、LGBTである人たちのライフイベントを支える事業を展開していきたいと意気込みます。

教育であったり、結婚、住宅、金融、介護と、LGBTを取り巻く環境は、まだまだ厳しい現状にあります。例えば、同性パートナーは結婚式場に挙式を断られることがあったり、二人で住む家を探しても拒否されることがあったり。そういった、ライフイベントを支えるインフラになりたいです。

マイノリティではなくても生きづらさを抱えている

2016年に会社を設立し、JobRainbowは2020年1月で丸4年が経ちます。星さんは、一緒に働く人や、社会の変化をどのように感じているのでしょうか。

会社のメンバーにはLGBTの当事者も多いです。この仕事を通して就職活動を支援することで、過去の自分を救ってあげられるような体験ができているのではないかと思います。

社会全体での変化も感じます。3年前までは企業へのLGBT研修で「BLTサンド?」と言われるほど、認識されていませんでした。でも、今は一般的にその存在が知られるようになったし、LGBTへの配慮などが語られるようになってきた。日本人が総入れ替えになったわけじゃないのに、世論が変わってきているように思うんです。

そんな希望を胸に抱くと同時に、自分自身にも新たな変化がありました。

LGBTや障害、外国人など、いろんなマイノリティ性がありますが、言語化できないマイノリティの方がすごく多いと気づきました。その生きづらさを言語化できていないからこそ、コミュニティができにくく、誰かが代弁してくれることもない。生きづらいままだから、攻撃的になってしまうんじゃないでしょうか。

【写真】質問に丁寧に答えるほしさん

例えば、自分を“マジョリティ”と認識したうえで、“マイノリティ”に対して否定的な方もいると思うんです。LGBTに対して「LGBTは優遇されて良いですね」、女性活躍の文脈で「男のほうがつらい」とおっしゃる方もいます。でも、そういう方もきっと、すごく生きづらいんだろうなと感じます。

彼らの生きづらさも解決したいし、そう言わせてしまう社会構造そのものを根本から見直していくようなアプローチをしないといけないと思います。

かつて自分を苦しめた、セクシャルマイノリティへの偏見を持つ人に対しても、自ら歩み寄ろうとすることは、とても勇気あることだと思います。

それでは、星さんが目指す社会とは、どんなものなのでしょうか。

社会ってものすごい微妙なバランスのなかにあるんだと思います。誰かにとって良いことも、誰かにとっては窮屈なことかもしれない。当事者意識は世の中を爆発的に変える原動力にもなりますが、疑いの目を持つことなく他者を攻撃するのは危険です。

だからこそ、そういう世の中の「良い」「悪い」とか「こうあるべき」といった価値観はなくなってほしいと思うし、他者を攻撃していないか、疑いの眼差しを持てるようになってほしいです。

社会を俯瞰して見たり、当事者でありながらも違う目線を持ったり。それぞれの人ができるようになったら、もっとハッピーなのではないか、と星さんは話します。

社会の“居場所”を拡張する

オンラインゲームで出会った“居場所”を原点に、自分でも誰かの居場所をつくることに尽力してきた星さん。今ではJobRainbowの活動を通して、クローズドな場に人を集めるだけでなく、当事者ではない人たちの意識に働きかけ、社会に広く居場所をつくろうとしているのだと感じました。

また、可視化されていないマイノリティにも目を向けて、属性や立場に限定しない、みんなが生きやすい社会を築くことを考えていたのも印象に残っています。

誰かにとって生きやすい場所は、誰かにとっては生きにくい場所かもしれない。

きっと、すべての人が完璧だと感じる世界なんて、ないのだろうと思います。それでも、自分の属性や立場にとらわれず、想像を働かせたり、相手の話に耳を傾けたり、歩み寄ろうとする人が増えたら。それは、他ならぬ私自身にもできることだと思いました。

みんなが生きやすい社会の“居場所”が、少しずつ拡張していくことを願っています。

【写真】微笑んで立っているほしさんとライターのくりもとさん

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JobRainbow ホームページ

(編集/徳瑠里香、写真/川島彩水、協力/小島杏子)