【写真】並んでほほえむタカヨシさんとチアキさん

こんにちは。北海道倶知安町(くっちゃんちょう)でお菓子屋「お菓子のふじい」を経営している、藤井千晶です。

お菓子屋は祖父が1950年に倶知安駅からほど近い場所に創業し、私が3代目になります。現在は、和菓子職人である夫のタカヨシさんと両親、社員・パート含め10名ほどでお店を運営しています。

2014年頃に、タカヨシさんが香害による化学物質過敏症という病気を発症し、他のスタッフと働くことが困難になりました。化学物質過敏症は後天性の疾患であり、洗剤や柔軟剤、シャンプーやリンス、タバコや農薬など常的に接するものに含まれる極微量の化学物質(香害)に反応して、精神・身体症状を示す病気です。

原因となる物質は様々で、そこから引き起こされる症状も、結膜炎や鼻炎、気管支炎、動悸、けいれん、不眠、うつ状態など、人によって症状は多岐に渡ります。世界的に見ても認知度が低く、まだ治療法も確立されていないため、薬などはなく、今できることは「原因物質を避けること」と、食事や運動などに留意し自己免疫能力を向上させること。

私はタカヨシさんの発症をきっかけに、2019年8月から同じ病気の人を雇い入れる工場兼寮を作り、一般就労の場として「お菓子のふじい」を運営しています。

タカヨシさんが化学物質過敏症と診断されるまでの過程や夫と共に周囲から理解を得るためにどのように行動していったのか、タカヨシさんと共に生活していく上で大切にしていることや化学物質過敏症のあるスタッフと共に働く上で意識していることを綴らせていただきます。

ある日、夫が原因不明の体調不良に

2006年からお菓子のふじいは、両親に加え、タカヨシさんと私の4人で経営していました。そこから少しずつ事業が忙しくなり、アルバイトスタッフを雇うように。しばらくして、フルタイムで働いてくださる方もでてきたので、2014年には社員雇用がスタートし、一緒に働く仲間が増えていきました。

その頃からタカヨシさんの体調不良がはじまったのです。

ある特定のスタッフとタカヨシさんが近づくと「目が痛い・鼻水が出る・くしゃみが出る」など、花粉症のような症状が出はじめたのです。最初は気のせいだと思っていましたが、そのスタッフが出社すると同じ症状が繰り返し出るように。私には症状がなく、タカヨシさんにだけ症状が出ていました。

最初はアレルギーかと思い、アレルギー科を受診しました。しかし、血液検査しても、軽度のハウスダストと出るだけで原因は全くわかりません。そのまま少しずつ症状が悪化していき、半年経った頃には、タカヨシさんは、倦怠感に襲われ、数時間寝込むことが増え、なんとかを仕事している状態になりました。

【写真】防護マスクをしてお菓子を製造するタカヨシさん

防護マスクをしてお菓子を製造するタカヨシさん(提供写真)

その当時、彼は40代後半。30代まではヘビースモーカーでお酒も飲むし、ジャンクフードも好き、香水などの香りも比較的好きな方。特に大きな病気やアレルギーも持っていませんでした。

何か病気があるのかもしれない。

そう思った私とタカヨシさんは、内科・循環器系・総合内科・眼科などなどいろんな病院へ行き、検査をしてもらいました。しかし、医者からは「健康です」と返されるばかりでした。

なんで『俺だけ』がこんな苦しい思いをしなければいけないのだろう?

タカヨシさんは、ずっとこう思っていたそうです。

客観的に発信されている情報によって生まれた周囲からの理解

タカヨシさんの体調不良がはじまってから、私は原因を知るために夫を観察をしていました。

ちょうどその時期は、海外がらのニオイつき柔軟剤が流行り始め、洗剤会社各社がこぞってニオイつきの柔軟剤を販売を開始したタイミングでした。タカヨシさんが一緒に働くと症状が出てしまう特定のスタッフからは、一般的に言われる「お花のいい香り」のようなものがあることに気づいたんです。

このニオイが原因かもしれない。そう思った私は、そのスタッフに事情を説明し、柔軟剤の使用を停止してもらいました。するとタカヨシさんの症状がやや改善。

そこから柔軟剤や洗剤が原因になる体調不良をネットで調べ、「化学物質過敏症」という病気に辿りつきます。タカヨシさんの症状とかなり類似してたことから、「ようやく原因がわかった!」と二人で喜びました。

しかし、この病気は2009年にカルテや診療報酬明細書に記載するための厚生労働省が作成する病名リストに登録されたばかりの新しいものでした。病院に行っても認知が低いために医師からは「何ですか?」「そんな病名は知らない」と言われてしまいます。複数の病院に行ったのにも関わらず、同じようなリアクションをされてしまったため、タカヨシさんも私も「もうあの病院には行かない」と思うほど憤りを感じていました。

原因らしきものはわかったのに、医師ですら理解してくれない。

みんなこの病気になってみたら大変さがわかるのに。

周囲からの理解のされなさから夫は、こうつぶやいていました。

辛かったのは、病気が認知されていないからこそ、洗剤や柔軟剤による体調不良ということ対して、両親も半信半疑だったことです。そんな状況のなかでさらに症状はひどくなっていき、他のスタッフと同じ時間に働くことはできず、深夜や早朝に時間をずらしてでなんとか対応していました。しかし働く時間が不規則になったせいか、さらに体調を崩してしまい、メンタル的にも不安定な状態になっていたように見えました。

そんなある日、たまたま母が北海道新聞で化学物質過敏症を取り上げた記事を見つけました。そして、客観的に発信されている情報を見て初めて、「これがタカヨシさんの病気?」と理解を示してくれたのです。そこで両親の理解が得られるようになったのはとても助かりました。

夫も「同じ病気の人が世の中にいることを知ったことが支えになった」と語っていました。しかしながらその記事の内容は当事者として希望を持てるものではなく、「理解してもらえない・ただ大変」というイメージを強く感じたのも事実です。

その結果、タカヨシさん は「もう、きっと外には出れない。引きこもりになる」と宣言したのです。

発症から3年以上の期間を経て、やっと診断がおりた

症状の原因に目星がついた段階で、私はどうすればタカヨシさんの症状がよくなるのかネットで調べ続けていました。しかし、出てくるのは「原因になるニオイを避ける」ことしか書いていないページばかり。原因かもしれない洗剤や柔軟剤の代わりに何の洗剤を使ったら良いのかもわからず、常に手探り状態でした。

また化学物質過敏症について医師に言っても理解してもらえなかったこともあり、家族と職場のメンバー以外には特に相談もしていませんでした。

しかし、私自身がタカヨシさんのことや職場のこと、家族のことを考えて行動していくなかでメンタル的にも業務量的にも追い詰められてしまいます。そのときに、手を伸ばしたのが、この状況をブログに書くということでした。

「洗濯の洗剤を変えてほしい」とスタッフにお願いしたとしても、きっと納得感を持って理解してもらうのは難しい。スタッフが理解してくれたとしても、スタッフのご家族に理解してもらうのはさらに難しい。自分が直接伝えるだけでは限界がある。であるならば私が書いたものを読んでもらった方がご家族にも理解しやすくなり、洗剤などを変えてもらえる可能性もあるのではと考えたんです。

実は彼は柔軟剤・洗剤・などのニオイで
目が痛くなる・鼻水が止まらない
場合によっては寝込んで仕事ができない、
ひどい時は動悸で胸を抱えこむという
「香害」というものが原因で3〜4年前に
「化学物質過敏症」っというもの発症

(中略)

世の中には増えてるらしいけど、同じ症状の人
直接みたことがない
誰か、同じ経験してる人いませんかーー
そして、皆様にもお願いがあります
それは、同じ境遇にいる人が
実は近くにいるかもしれなくて
それで苦しんでる人に理解をしてほしいってこと
理解してもらえないことが一番つらいから

(2017年9月4日のFacebook投稿より)

そのブログをFacebookに投稿したところ、どんどんシェアされていきました。友人からはもちろん全く知らない人からも「こんな病気があるんだ」「大変なんだね」「知ってよかった」など、コメントや電話をいただきました。「私も化学物質過敏症なんです」という当事者からも連絡があったんです。

それを塞ぎ込んでいた夫に伝えると「同じ症状の人が他にもいるんだ」「症状的にもまだ軽いかもしれない」と、少しづつ明るさを取り戻していきました。

ちょうどその同時期にたまたま化学物質過敏症を扱う、『香害(こうがい) そのニオイから身を守るには』(岡田 幹治 著)という本に出会います。そこで化学物質過敏症の症例や専門医がいる病院の存在を知り、札幌にある病院へ行くことにしたのです。

そこで正式に化学物質過敏症と診断。症状が出てから3年以上経過した頃でした。

根本的な治療法はないと先生から伝えられましたが、事前に調べていたこともありそのこと自体に驚きはしなかったです。帰り道にタカヨシさんと、「病院の先生が診断したという事実が大事だから、これでちゃんと病気だと伝えられる」という話をしたのが印象に残っています。

また「多くの人が化学物質過敏症で苦労をしている」という話を先生が共有してくれました。

ご家族にも、職場にも理解してもらえているのはラッキーですよ。

私はこの言葉に「???」となりました。

会社のいちスタッフの立場の人がこの症状になった場合、多くは職場に理解してもらうのは難しいし、退職せざるを得なくなり、その後復帰することのハードルも高いんです。働けないだけでなく、家族からも理解してもらえず、孤立する方が多くいます。

その言葉に衝撃を受けました。

それまで、家族として、タカヨシさんの症状を理解をして対処をするのが普通のことだと思っていました。事業主としても、お店の主軸になる製造長の雇用を守るために対処することが当たり前だとも。しかし、それらが普通でも当たり前でもなく、かなり特殊な例だということに気づいたのです。

化学物質過敏症で働けない人がいるならうちで雇おう

先生から診断を受けた当時、お菓子のふじいは人手不足でした。スタッフに化学物質過敏症の説明をして協力をしてもらっていましたが、なかにはその状況にストレスを感じる人もいて退職者が増えてしまっていたのです。

診断の際には、過去にある職場の経営者がこの病気を発症された時、職場からニオイのない状態を作り最後まで働いて引退された方がいることも教えてもらいました。

そこで私は「働けない人がたくさんいるなら、うちで雇えばいいのではないか」と突然思い立ちます。

同じような症状の人が先生のところには集まるはず。病院に求人を貼ってもらえばいい。

そう思ってすぐ行動に移しました。

先生に話をすると驚きつつも、北海道新聞の化学物質過敏症の記事を書いた記者の方を紹介してくれました。そして2018年4月1日、北海道新聞の記事になったんです。

化学物質過敏症のある人を対象にスタッフ募集をしていること、タカヨシさんと同じような悩みを持つ人の「働き方のモデルケースになれば」といった思いを書いてくださった記事は、ネット上でも広がっていきました。その結果、全国から1ヶ月で60件以上の電話や、メールでの問い合わせをいただくことになったのです。その後も半年間くらいは月に10件以上ご連絡をいただきました。

反響があること自体はとても嬉しかったです。しかし、本当の求人に関する問い合わせは1割以下。それ以外は、一般の方からのご意見や励まし、化学物質過敏症当事者からの相談や理解してもらえない悲痛な叫びから憤りまでたくさんの声が届いたのです。。反応をもらえることは嬉しかった一方で、事業主としてこれらの連絡に向き合うのはきつい部分もありました。

しかし、そこでたくさんの情報が集まります。
 
顔出しで化学物質過敏症だと公表してる方が少ないこと。ネット上の情報はあっても匿名の方が多く、信頼できるかわからない状況で、どこの病院がいいのか、日用品で使っているものはなにか、対処方法などの情報が見つけにくいこと。

また、周囲の人の自身の症状を理解してもらえるようメディアで報道された物を印刷したりして理解を求めてるが、それでも職場や近隣に住む人たちに耳を傾けてもらえない場合が多い。そして働く意欲があっても、公共交通機関を利用した移動があるとそこがハードルになる現実があって働けない。

化学物質過敏症になった時のハードルは「知ってもらう」「理解してもらう」ことなんだという事をあらためて実感した出来事でした。

当事者の家族であり、雇用主だからこそできることがある

化学物質過敏症についてた当事者の現状を知ってもらう事が必要だと感じて、「お菓子のふじい」の事業にすることも見据え、2018年に立ち上げたのが、任意団体であるカナリアップです。この団体は化学物質過敏症や香害の認知を広めながら、当事者が安心して訪れることができるお店・施設、働ける場所を増やしたりしていくことを目指しています。活動の資金調達のために、これまでクラウドファンディングを2回実施させていただきました。

【写真】クラウドファンディングのトップページにうつるタカヨシさん

化学物質過敏症の事を調べると、特効薬などはなく、生活が大変、理解されない、などネガティブな話題が非常に多い。つまり、当事者は知ってもらおうと必死に伝えようとしているのです。私自身夫の苦しむ姿を見ているので、その気持ちはとてもわかります。でもそれじゃ伝わらないこともある。

私は化学物質過敏症の当事者ではなく、当事者の家族であり、雇用主。こんな立場の私だからできることもあるのではないか。伝えたいことが受け取ってもらえるように、あくまでわからない人の立場の目線を忘れずに活動することで認知が進むかもしれない。

そんな思いからカナリアップは生まれました。かわいいロゴと名前をつけて、そこで作ったグッズやクラウドファンディングなどの取り組みを接点にして知ってもらえるように工夫しています。

最初のクラウドファンディングでは、結果として200万以上、83人の方からの支援をいただきました。また、同時期に、化学物質過敏症のある方が働ける寮と工場建築ができないか検討していました。潤沢な資金があるわけではなかったのですが、働きたくでも働けない当事者が多くいること、その人たちが働ける場所の事例の一つを作ることで、希望を生み出せるのではないか。そんな思いで着工を決めていたのです。

しかし、資金は足りず、再びクラウドファンディングを実施します。そこでも367万円、174名に支援いただき、工場と寮を無事建設することができました。私やタカヨシさんの力だけではカナリアップの立ち上げ、ましてや工場の建築も実現できなかったと思います。ただ情報を発信したことで、たくさんの人に助けを得られることができたんです。

【写真】完成した寮兼工場の外装

完成した寮兼工場の外装(提供写真)

【写真】完成した工場の内観

完成した工場の内観(提供写真)

「どう働きたいか」「具合が悪いときどうしたいか」は本人の言葉で伝えてもらう

化学物質過敏症のある人と暮らしていると、多くのサポートをしているのでは?と思われる方もいるかもしれませんが、私自身にはサポートをしているという感覚はあまりありません。それよりも共存していくために、必要なことをただやっているという感じです。

その一つは自宅で使うシャンプーやボディーソープ、会社のユニホーム用の洗濯洗剤・食器洗い洗剤・手洗い洗剤を全て、無添加のシャボン玉石けんへの切り替えたことです。

私とタカヨシさんは職場と自宅が共用なので、外出する機会は多くありません。しかし子供は学校に行くと、学校でニオイをつけて帰って来ます。そのため二世帯で住んでる母の家で服を洗濯してもらい、タカヨシさんが生活する部屋に入る時は全部着替えてもらっています。髪の毛にもニオイがつくので、きつい場合はすぐにお風呂に入るなどをして対応しています。

【写真】タカヨシさんと二人のお子さん

家で楽しそうに遊ぶ、タカヨシさんと二人のお子さん(提供写真)

職場では、自宅で使う洗濯洗剤をスタッフに無償で支給。自宅で使う物を無添加にする場合は社割で購入できるように。また、寮に関しては寮の共用費用に洗剤類は全て入ってるので、同じ物を使うようにお願いしています。

一緒に働くスタッフへの説明としては、求人段階から化学物質過敏症のスタッフがいること、ニオイに配慮してることなどをしっかり記載しています。

工場ができて夫と一緒に働くことがないスタッフでも、空間にニオイが残ることで、体調不良を発症しかねません。なので入社時は、ニオイについてお願いをさせてもらうことがあります。それを伝える上で気をつけているのは、“人格の否定にならないようにすること”です。ニオイの話は人によってはセンシティブな場合もある。だからこそ、しっかり人格と事実を切り分けてお伝えしています。

多くの協力を得て、ニオイのない環境を作り出したことで、タカヨシさんは、以前はダメだったニオイでも体調を崩しづらくなりました。症状が穏やかになり、化学物質過敏症だという意識が薄まっていくことで、お互に精神的な負担が減り、健やかに一緒に過ごせる時間が増えて嬉しかったです。

タカヨシさんの問題ではなく、あくまで職場環境の課題としてとらえていったことで、タカヨシさんも他のスタッフも病気があることを当たり前のものとして、感じられるようになっていったと思っています。

【写真】スタッフと共に働く環境についてディスカッションしている様子

スタッフと共に働く環境についてディスカッションしている様子(提供写真)

2019年8月からスタートした化学物質過敏症のスタッフが生活できる寮の定員は4名のところ、現在は3名が住んでいます。これまで、一定期間住んで退社した方は2名、試用期間で住んでみたけれど入寮しなかった方は2名でした。

お菓子工場を建築し、寮を作ってあらためて気づいたことがあります。同じ化学物質過敏症という病気でも人それぞれ症状の出方などが違うということ。症状がすぐ出る人、夜になったら出る人、体の痒みや倦怠感、反応する物質も人によって異なります。頭では理解していたつもりでしたが、こんなにもいろんなケースがあるんだと実感しました。

【イラスト】おかしのふじいの工場の環境を説明するイラスト。芳香剤や香水の禁止、香料合成界面活性剤不使用の洗剤を利用していることなどが書かれている

工場の環境を説明するイラスト(提供画像)

最近の課題として、ひとまず働けることが「ゴール」になってはいけないということです。

そもそも、他で働くことが難しかった方が働ける環境は大切。しかし、ただ働ける環境があるだけではなく、「なぜ働くのか」「自分にとってのやりがい」を感じてもらえる環境でありたいと思いはじめています。ただ働ける環境を与えてもらっているだけでは限られた場所に依存してしまう。

そのためにも「どう働きたいか」「具合が悪いときどうしたいか」は極力本人の言葉で言ってもらうようにしてます。

なぜなら化学物質過敏症は他者が関わってくる病気です。自分にとって何が問題になるのか伝えないと相手にはわからない。それを自ら伝えられることも大切だと思うのです。もちろん言いやすい環境は大切ですが、自ら伝えることも同じくらい大事だと考えています。

自立して生きていけることを信じて共に生活する

実は、カナリアッププロジェクトは、今現在止まっている状況です。それは実際に工場や寮を動かしている中で、方向性について悩んでおり、そして化学物質過敏症の当事者に寄り添える団体は多く存在するようになったからです。

今後は私たちは当事者を支援することを目的にするのではなく、たまたま化学物質過敏症のある「〇〇さん」がいてくれて良かったと思える仕組みを作れたらと思っています。たとえば人手不足の会社と当事者の仲介をしたり、すでに当事者がいる会社に私たちのノウハウを提供して働きやすい環境を提供したり。事業主に化学物質過敏症の理解を促すことで、大切なスタッフがやめなくて良くなるようにしたい。当事者とこの病気を知らない人の橋渡し的な存在になりたいんです。

そのために、お菓子のふじいでも大切にしていることがあります。それは、単に病気への配慮でニオイのないものを使っているとするのではなく、ニオイがないことの価値をちゃんと知ることです。無添加の洗剤などを使うことで環境にも配慮してるし、毎日使う洗剤を無添加のものにすることによってスタッフの健康にも配慮ができる。ニオイがない環境だと食品の風味を生かすことができるというメリットもある。

ただ「体調が悪くなるからニオイのある洗剤などはやめましょう」だけではなく、「美味しい商品・環境に配慮するために、ニオイのある洗剤は使わないようにしましょう」の方が、きっと当事者以外の人にも伝わると思っています。

私は、タカヨシさんや一緒に働く化学物質過敏症のある人たちは、自分の力で自立して生きていけると思っています。だからこそ一緒に生活していく上で起こる出来事、事実と生まれる感情を切り分けてわからないことは伝え合い共に生きていきたい。

【写真】製造機のうしろからこちらを見て微笑むタカヨシさん

製造機のうしろからこちらを見て微笑むタカヨシさん(提供写真)

他者に理解されづらい痛みを持っているかもしれない。そのことで悩んでしまうこともあるかもしれない。それはそれでよいと思うんです。ただどこかで同じ思いをしている人はいるし、理解してくれる人もいます。そのことがちゃんと届くようにこれからも活動していきます。

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(編集/工藤瑞穂、企画・進行/木村和博)