【写真】緑溢れる公園の中で笑顔で立っているここさん

今日あなたは、誰かと会話をしましたか?

したのであれば、それは気持ちの良いものでしたか?

相手と「わかりあえた」と感じられるものでしたか?

日々他者との関わりのなかで繰り返される、さまざまな“会話”。言葉を交わすことで元気をもらえたり、前向きになれたり、喜びにつながったりすることも多いですが、一方でトラブルもつきものです。

気まずい雰囲気で終えてしまったり、「こう言えばよかったな」という後悔がつきまとったり……。その後の人間関係にまで影響する日々のコミュニケーションに、悩みは尽きないですよね。

私も友達や仕事仲間との会話でジレンマを感じることがありますし、一番身近な存在である娘や夫とのやりとりでさえも、大小さまざまなトラブルを抱えています。たとえば、7歳の娘とのこんな言い争い。

私「もう〜いつも散らかして。片付けてよ!」
娘「わかってるよ〜、やればいいんでしょ!?」

お恥ずかしながら、我が家の日常風景。毎回後味の悪さを感じてはいるものの、モヤモヤを抱えたままやり過ごしてしまっています。

なんとかしたいんだけど、方法がわからない……。

そんな漠然とした悩みを抱えていた私は、5年ほど前、友人を通じて「NVC」というコミュニケーション手法に出会いました。

“非暴力”の実践者ガンジーのコミュニケーション等を研究し、アメリカの心理学者マーシャル・B・ローゼンバーグ博士が体系づけたというNVC(Nonviolent Communication)。

「非暴力コミュニケーション」や「共感コミュニケーション」、「人と人とをつなぐコミュニケーション」とも言われ、「平和な自分、平和な世界」を望む世界中の人たちに伝わって成果をあげているコミュニケーション・スキルです。

【写真】書籍『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法』を眺めるここさん

難しく考えず、まずは友人たちと集まり講師の方を呼んで何度かNVCについての手ほどきを受けてみると……。不思議なことに、日常が違ってみえてきたのです。

理不尽に感じていた子どもの言動も、心なく思えていた夫のひとことも、NVCというレンズを通して見ると、なんだか愛しく思えてきました。さらには、自分自身の包み隠したくなるような”醜い欲望”も、自分でOKを出してあげられるように。実践はまだまだですが、コミュニケーションの悪循環から抜け出すための一筋の光が見えた気がしています。

そんなNVCについて、もっと深く知りたい。多くの人と、その価値を共有してみたい。そんな想いで、今回はオンライン講座等を通じてNVCの世界観を多くの人に伝えているkokoさんこと丹羽順子さんに、お話を聞かせていただくことにしました。

kokoさんは、かつてイギリスの大学院で持続可能な社会づくりを学び、エコロジー・サステナビリティー関連のドキュメンタリー制作のほか、NHK報道記者やラジオ局のパーソナリティも務めていた方。

妊娠出産、子育てを機に自分の“外の環境”だけでなく“内の環境”を整える大切さに気づき、海外で子育て中には、ヨガや瞑想、セクシャリティーやコミュニケーション(NVC)など、各種インナーワークを学び、集中的に取り組んできました。現在はオンライン講座やリトリートといった場づくりを通して、その価値を多くの人と共有しています。

NVCの教科書とも言える書籍『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法』(マーシャル・B・ローゼンバーグ著 日本経済新聞出版)に付箋をペタペタ貼って、高まる鼓動を抑えながら臨んだインタビュー当日。初めてお会いしたkokoさんは、ただそこにいるだけで場の熱量を高めてしまうような、ポジティブなエネルギーにあふれる方でした。

【写真】明るい笑顔をカメラに向けるここさん

すべての答えは自分の中にある。

そんなkokoさんのあり方そのものがメッセージでありギフトだと感じた約1時間半のインタビュー。あなたの日常の景色を一変させてしまうかもしれないNVC、そしてkokoさんとの出会いを、一緒に冒険するような気持ちで楽しんでみてください。

このままいったらヤバイ……突き動かされるようにワークショップへ

【写真】向かい合って話をするここさんとライターのいけだ

池田:はじめまして。今日はお会いするのを楽しみにしていました。kokoさんは今、京都にお住まいなんですよね?

koko:そうなんです。東日本大震災のあと海外に飛び出して、タイとコスタリカに住んでいたんですが、娘が中学校に入るタイミングで日本に帰ってきました。今は京都に住みながら、主にオンラインで、NVCや瞑想、マインドルネスを伝える講座をやっています。イベントのMCもしますし、お役目があればなんでも。

池田:じゃあ、全国を飛び回って?

koko:今はまだ子育てがメインの仕事だと思っているので、京都にいることが多いですね。仕事と子育てと趣味の両立をすごく大事に考えているので。

池田:素晴らしいスタンスですね、私もそうありたいです。今回はkokoさんのさまざまなスキルのなかで、「NVC=非暴力コミュニケーション」に光を当ててお話を聞かせてください。コミュニケーションの悩みは誰もが抱えているものですし、個人的にもご相談したいことがありまして…。kokoさんはいつ、NVCに出会ったんでしょうか。

koko:コスタリカに住んでいたとき、7年前かな。

池田:コスタリカ、行ったことはないですが、自然豊かで平和な国というイメージがあります。

koko:そうですよね。でも現実の暮らしはとてもハードで、道もないようなところに住んでたから、電気やガスの配管が壊れたら自分で直さなきゃいけなかったり、すごいサバイバルライフ。そこがまた良かったんだけどね。

さらに当時は人生に行き詰まっていた時期で……(苦笑)。シングルマザーで娘を連れて、勢いで縁もゆかりもないコスタリカに住むことにしちゃって。付き合っていたパートナーとも別れたタイミングだったので、自暴自棄になっちゃってたんですよね……。

【写真】インタビューに応えるここさん

池田:kokoさんにそんな時期があったんですね……。

koko:ストレスが全部子どもに向いちゃって、ガミガミ怒ってばかりでこれはまずいな、と思ってね。そんなとき、「そういえば誰かがNVCって言ってたな、学んでみようかな」って思い立って、2日間、泊まりこみのワークショップに参加したんです。子どもは友だちに預けて、車で5時間かけて首都まで行って。

池田:kokoさんをそこまでさせた何ががあったんでしょうね。

Koko:このままいったら私も娘もヤバイって思ったのかもね(笑)。

その2日間で、まず、NVCの大前提としてある「人は生まれながらにして自分以外の人を思いやり、与えたり与えられたりすることを楽しむ」という考え方を自分にインプットしました。そして、「観察・感情・ニーズ・リクエスト」という文法を日常のコミュニケーションで実践していくだけで、つながりをベースに豊かに生きていけるということを体感として学んだんです。

池田:濃密な2日間だったんでしょうね。

NVCに出会って、コミュニケーションが180度変わった

koko:もうね、すごい洗礼を受けました。NVCをやる前とやった後、もう180度コミュニケーションの仕方が変わったんです。

池田:180度!どのように変わったのでしょう。

koko:わかりやすい例で話しますね。当時6歳だった娘の部屋が散らかっていると、私はカーっとなって、「もう、何やってるの、あなたはいつも散らかして。早く片付けなさい!片付けないとご飯ないからね!」って言ってたんですよね。

池田:わぁ、私のことかと思いました。身につまされます……(苦笑)。

koko:そうですよね(笑)。そうすると娘もふてくされて、「片付ければいいんでしょっ!」って適当に片付けて、ふたりでむっつりしながらご飯食べる、みたいな(笑)。どちらにとっても何もいいことがない感じだったんですよね。

池田:親子の“あるある”な光景ですね〜。

【写真】笑顔で話をするここさん

koko:それがNVCのワークショップに行って帰ってきたら、部屋を見てカーっとなるところは一緒なんだけど、そこでまず、NVCを思い出して心を落ち着けられた。そして4つの基本ステップ「観察・感情・ニーズ・リクエスト」をさっそくやってみたの。

池田:どうなったんでしょう。ドキドキします。

koko:まず「観察」しなきゃって部屋を見て、

Tちゃん、靴下が4足、おもちゃが2個、本が4冊落ちてるね。

次に、“感情”。

ママは悲しい、イライラする。怒っている、キレそうだよ。

そして、“ニーズ”。

ママにとってはあなたの協力が必要で、一緒に暮らす部屋の整理整頓や秩序が必要だよ。

最後に、“リクエスト”。

ママの気持ちを聞いて、あなたはどう思ったか教えて?

って、言い換えられたんですよ。

池田:とても冷静で、丁寧な伝え方ですね。娘さんも「怒られている」とは思わなかったのではないでしょうか。

koko:彼女も対応がガラッと変わったんです。突っぱねることもなく、「Tもね、困っちゃうんだよ。片付け方がわからないから」って、自分の話を始めて。片付け方がわからないなんて思いもしなかったから、私はそれに本当にびっくりしました。

「そうなんだー、じゃあどういうふうにやろうか」って一緒に仕分け方を考えながら片付けて、一件落着。この体験で、私の中でベルが鳴った感じ。「NVCってこうやって使えるんだ!」ってね。

【写真】生き生きとした表情で話をするここさん

池田:まさに180度。同じできごとをめぐる同じ人同士の会話とは思えない、劇的な変化ですね。

koko:NVCと出会う前の私にとっては、批判や評価、分析や説教は、もう日常茶飯事という感じだったんです。周りを自分の思い通りにさせるのが良いコミュニケーションだと思っていたし、常に善悪や損得、勝ち負けの対立構造のなかにいました。

それがNVCをやるようになって、真逆になった。曲がりなりにも、思いやりや理解のある、共感力の高いコミュニケーションに変わったんです。「この私が変われた!」と、今でも驚いちゃうくらいですね。

コミュニケーションが人の関係性も変化させる

【写真】インタビュアーの話をきくここさん

池田:今のお話を聞いて、NVCを使うと自分の伝え方が変わるだけじゃなく、相手もちゃんと気持ちを伝えてくれることに驚きました。

koko:そうそう。それ以降、娘の態度がガラッと変わっていったんです。私と彼女の関係も、私がしつけたり諭すのではなくて、対等になっていきました。本当に私たち親子は、NVCに救ってもらったという感じ。

池田:子どもと対等、私にとって理想です。コミュニケーションのあり方は、関係性まで変えてしまうんですね。

koko:そう、私はNVCって、”全人類必須の生き方の哲学”だと思っているんです。

池田:コミュニケーションツールではなく、”生き方の哲学”なんですね。

koko:NVCの世界観を少しお話しましょうか。まず大前提としてあるのが、先程もお話した、「人は生まれながらにして自分以外の人を思いやり、与えたり与えられたりすることを楽しむ」という考え方です。

池田:この本(『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法』)の第1章、最初の1文ですね。私も強く心に残っています。

koko:普段は社会生活のなかで、この前提が見えなくなってしまっている。だって人間という仕事って、けっこう大変じゃない?

【写真】満面の笑顔を向けるここさん

池田:大変、ですよね。生きることって大変!

koko: 大変よ〜(笑)! NVCは、その人間っていう仕事を非常に良くやらせてくれるツール。このツールを使うために、ぜひ覚えておいてほしいキーワードが2つあるんです。

池田:1つずつ教えていただけますか?

koko:まず1つは「Power within」。これまでの私は「Power Over」、つまり、どっちが正しいか、強いか、勝ちか、という枠組みのなかにいました。そうではなくて、NVCでは「Within」。みんなに等しくニーズがあって、自分の人生をステキにできるパワーがある、という世界観なんですよね。

池田:whithin。力が湧いてくる言葉ですね。

koko:もうひとつ、私がすごく大事にしているのが、この本にも書いてある「人の言動が自分の感情を刺激することはあっても、原因になることはない(第5章冒頭)」。

【写真】NVCの著書を手に取り説明するここさん

koko:これがもう、私にとっては目からウロコだったんです。今まで「あなたが悪い」「社会が悪い」と思っていたその相手はただの引き金であって、自分がイライラしているのは、自分の中の何かが満たされていないからだ、って。「全責任は自分で負う」という、潔い生き方ですよね。

池田:なんだか背筋が伸びる想いです。

koko:私は、自分のなかで決めつけが出てきたり誰かのせいにしそうになったときは、「人の言動が自分の感情の原因になることはない…」「Power withinだ、Power withinだ…」って、頭の中でリフレインしています。

池田:心が落ち着いて、ポジティブなコミュニケーションができそうですね。

”ステップ0”も大事。NVCの基本、4つのステップ

【写真】インタビューに応えるここさん

池田:NVCの世界観が見えてきたら、ますます具体的な手法を知りたくなってきました。

koko:やってみましょうか。さきほどの娘と私の会話を解説していきますね。

池田:ぜひ、お願いします!

koko:繰り返しになりますが、NVCの基本は4つのステップ。「観察、感情、ニーズ、リクエスト」です。でもその前に、すごく大事なのが“ステップ0”。とにかくスローダウン。深呼吸でもして、心を落ち着かせることです。そして、NVCを思い出す。先程のキーワードを頭の中で唱えて「Power whithin、Power whithin……」ってシャワーを浴びるみたいな感じでね。

池田:NVCモードへの切り替えの時間ですね。

【ステップ1:観察】

koko:ではいきましょうか。ステップ1は、「観察」です。そこにある事実を、定量的・具体的に、解釈や評価、分析を挟まずに、切り取って観察して伝えます。

Tちゃん、靴下が4足、おもちゃが2個、本が4冊落ちてるね。

池田:「いつも散らかして!」とは言わないんですね。

koko:言いません。主観だから「汚い」とも言わないし、「必ず」「決して」もNGワード。やってみるとなかなかこれができないんですけどね。

池田:事実を、冷静に。

koko:カメラで撮影したみたいにね。

【ステップ2:感情】

koko:次は感情です。感情はニーズを指し示してくれる信号だから、どんな感情も尊い。どんな感情も表現していい。私の場合は、

ママは悲しい、イライラする。怒っている、キレそうだよ。

と伝えました。

池田:感情のように見えて、実は違うものってありますか?

koko:「無視された」「軽蔑された」などは、被害者意識が入っているので、それは「つながりたかったけどできなくて辛かった」と分解してから伝える必要がありますね。

池田:本の最後に感情の一覧が載っていますよね。

【図】エヌヴィシージャパンのウェブサイトに掲載しているリスト

NVCジャパンのウェブサイトに掲載しているFeelingsのリスト(提供画像)

koko:そう、最初はそれを見て選んでもいい。「NVCジャパン・ネットワーク」のウェブサイトからもPDFがダウンロードできるので、私はいつも持ち歩いています。普段、「今どんな気持ちなんだろう?」って考えないじゃないですか。でもこれを見て心とつながる習慣をつけておくと、語彙も増えていきますよ。

池田:同じ「イライラ」でも、「むかつく」「不愉快」「しゃくにさわる」「もどかしい」など、いろいろな表現に分解できることがわかって面白いですね。「このイライラは、どう表現できるんだろう」って日常の中で立ち止まって考えてみるだけでも、ちょっと変わってきそうです。

koko:私たちから感情を取り除いたら、ただのロボットですよね。感情を楽しむのはすごく大事なことだと思います。

【ステップ3:ニーズ】

池田:ステップ3は、“ニーズ”ですよね。

koko:一番NVCらしいところで、「必要としていること」「大切にしていること」「人生を豊かにしてくれること」とも言い換えられます。ニーズは感情の大もとになっていて、もっと自分の深いところにある。感情が“心の言語”だとしたら、ニーズは“丹田(たんでん:東洋医学で、へその下のあたりのこと。全身の精気の集まるところとされています)の言語”と言われています。

一番やり易いニーズの探り方は、「何が満たされている(いない)からこういう感情になるんだろう」と考えてみること。すべての感情には必ず何かしらのニーズが紐付いているから。

池田:たとえばkokoさんの「イライラする」という感情の奥底には、どんなニーズが?

koko:協力、協調、整理整頓や秩序。もっと心を探っていくと、ちょっと休息が必要だったのかな。穏やかに過ごすにはゆとりや余白、スペースも必要。だから、

ママにとってはあなたの協力が必要で、一緒に暮らす部屋の整理整頓や秩序が必要だよ。

と伝えたけど、「ママの大変さもわかってよ」という事実共有のニーズもあるし、「自分のことはもうちょっと自分でやってほしい」という自立のニーズもあったかな。

池田:「自立」のように、相手のあり方に対するニーズもあるんですね。

Koko:そう。一方で彼女としては、「片付け方がわからない」というサポートのニーズがあったし、「遊び」のニーズもあったと思います。子どものニーズの80%は「遊び」だと言われているんですが、今回の場合は遊んで散らかしていたので、「遊び」のニーズは満たされていた。

池田:だから、彼女の発言からは遊びに関するものは出てこなかった。でも「片付け方を教えてほしい」というニーズがあって、それが言葉に表れたんですね。

koko:そうそう。誰もが普遍的にニーズを持っていて、それを叶えようと思って一生懸命生きているわけですよ。娘は遊びのニーズ、私は整理整頓のニーズを満たそうとしていて、どっちがいいという問題じゃなくて、それを当事者同士が認めあうことが大事。それが”つながる”ということなんです。

「私にはこういうニーズがあるのよ、わかってくれる?あなたにはこういうニーズがあるよね、わかるよ」。ニーズが対立しちゃって満たせないときもあるけど、わかりあっているだけでもつながれる。「お互いのニーズをかけ合わせてなにかできないかな」って考えるのも大事です。

池田:なるほど、「ニーズは満たさなきゃいけないものじゃない」というのは大きなポイントですね。

koko:うんうん。You don’t have to meet all the needs, but hold them. 満たすのではなく、抱きしめればいいんです。

【写真】生き生きとした表情で話をするここさん

【ステップ4:リクエスト】

池田:最後は、“リクエスト”ですね。

koko:これがまた深くて。リクエストは、自分が必要としていること、つまりニーズが満たされていないときに、相手に具体的な要求をすること。

どうすれば相手が思いやりをもって要求に応えてくれるかなって考えると、まず、「Noを受け取る準備がある」ということがすごく大事。そして、目的は相手とのつながりをつくることであって、自分の思い通りにするためのリクエストではないということも、忘れてはいけないポイントです。

池田:つながりをつくるための、リクエスト。

koko:そう、そのために一番いい方法は、小さな一歩を踏み出すことですね。私の場合は、「部屋片付けてくれる?」じゃなくて、

ママの気持ちを聞いて、あなたはどう思ったか教えて?

だったの。行動変容を促す、もっともっと手前で、「今のあなたとつながりたい」と伝えた。

ひょっとしたら「片付けりゃいいでしょ?」って返ってくるかもしれない。そのときは、「そうじゃないよ、ママのニーズが満たされていないと言っているだけ。もう一度どう思ったか教えて?」って伝える。そうすると、「困っちゃうんだよ。片付け方がわからないから…」って、コミュニケーションのズレを調整することができるんですね。

池田:なるほど、小さなところから、一歩ずつつながっていくんですね。でもどうしても相手が「今は無理!」というときは、どうしたらいいのでしょう?

koko:それはよくありますね。子どもは特に、はっきり言ってくれるから。そのときに大事なのが、さっき言った「Noを受け取る準備がある」ということ。「嫌だ」「話したくない」と言われたときに、「なに言ってんの!?」ってならずに、「そっか、言いたくないんだね」と受け取って、そこからは、相手の感情とニーズに戻るか、自分の感情とニーズに戻るか…。

ダンスみたいに行ったり来たりを繰り返してもいいし、中断して「じゃあ話し合いの続きはいつにする?」って言ってもいいんです。

池田:「嫌だ」と言われても、冷静に。やはりそこでも、”ステップ0”の心をスローダウンさせることが大事になりそうですね。

koko:そうそう、スローダウンは一番シンプルだけど難しいことかもしれませんね。

NVCが照らす、”ありのまま”を受け止め合える社会

【写真】向かい合って話をするここさんとライターのいけだ

池田:私も夫が大事なものを食卓に置きっぱなしにして放置するので、それでよく言い合いになっちゃうんです。4つのステップ、家に帰ってみたらやってみたいと思います。

koko:今、やってみましょうか。まず「観察」。

池田:えっ、今ですか…!えっと、「食卓の上に、運転免許証の更新ハガキが置いてあるね」。

koko:そのときの池田さんの感情は?

池田:「私はイライラする」。あとは……うーん(表を見て)、「失望」は言い過ぎかな。困っている感じもあります。

koko:その根底にあるニーズはなんだろう?

池田:物が置いてあると子どもの気が散っちゃうので、食卓ががキレイな状態で食事をすることが大事。「秩序が大事」、「安心が大事」。

koko:じゃあ、なんてリクエストする?

池田:「片付けて!」……じゃなくて、「私が言ったこと、どう思ったか教えて?」でしょうか。

koko:そうそう!それで彼のニーズと感情が出てきたらいいですね。

池田:彼のニーズは、「置き場所がない」かなぁ。ずっと停滞していた議論ですけど、ちょっと前に進めそうな気がしてきました。

koko:うんうん、ニーズは人生を豊かにしてくれるもの。ふたりでニーズを書き出して、掛け合わせてみるといいですよ。スローダウンを忘れずにね。

【写真】インタビューに応えるここさん

池田:このステップを知っているだけで、普段の暮らしの中の心持ちが変わってくるような気がします。これまで「わかりあえない」と諦めていた相手とのコミュニケーションにも、もう一度トライしてみたくなるような。

koko:ガンジー曰く、「NVC=非暴力コミュニケーション」の「非暴力」って、心に敵がいない状態のことなんです。分断じゃなくて「みんながつながっている」という意識から発せられる言葉がNVC。

たぶん1日のうちに何度も敵のイメージって頭に浮かんでくると思うんですよね。それは子どもや旦那さんかもしれない、実家のお母さんやママ友かもしれない。そのとき、必ず「3つの壁」が立ちはだかると言われています。

池田:「3つの壁」ですか。

koko:「あなたは間違っている」、「あなたのせいだ」、「あなたは罰せられるべきだ」の3つ。自分の中を観察すると、そうやって制裁者になっちゃってる瞬間に遭遇すると思うんですよね。NVCの第一歩は、それをキャッチするってことかな。そしてNVCのプロセスを思い出す。

池田:私の場合は「自分のせいだ」って思っていることが多い気がします。以前、友人とNVCの勉強会をやって以来、子どもの気持ちからニーズを読み取って受け入れることはできるようになりました。

たとえば弟がいるのに「一人っ子が良かった」とか言われても、「なんてこと言うの!?」ってならずに、「甘えたいのかな?」とニーズを探るようになって。でも、私のニーズと夫のニーズが一致しなかったときは、相手を優先しちゃうんですよね。自分のニーズには蓋をするイメージ。

koko:それは自分を敵に思っている状態です。「敵はいない」ということを思い出して、自分を罰しようとしているな、今の私の感情とニーズはなにかな、って見ていくといいですよ。

あと大事なのは、人に聞いてもらうということ。感情を出して、「そうなんだね、辛いんだね、心配なんだね」って受け止めてもらうだけで、いろいろなものが溶けていくのを感じると思います。共感のパワーってすごい大事なんです。今は”共感欠乏の社会”とも言われていますが、ちょっと意識して、お互いを認めてあげられる場をみんながつくっていけるといいですね。

私はお仕事の場以外にも、娘やパートナーと、家の中でしょっちゅうやっていますよ。「今から5分あなたの話を聞くから話して」って。話を聞いてると「それはちがうでしょ」とかいろいろな感情も出てくるけど、それは置いておいて、「そうか、あなたも苦しいんだね」って受け止めてあげる。

そうすると、「わかってくれるんだ」って、相手にも心のスペースができる。それで私の話も聞いてもらう、ということをやっています。

そうやってみんなが多様性を受け止め合う余裕を持つことができるといいですよね。

池田:私は仕事が好きでついつい、家事と育児と仕事で日々の時間を埋めてしまっています。でもきっと、1日5分の余裕でもいいですよね。

koko:そう、本当にそうですよ。お母さんが自分の感情とニーズに従って正直に話をすると、子どももその姿勢をよーく見ていて、それが一番いい感情教育にもなると思います。

【写真】笑顔で話をするここさん

池田:最後に、NVCをはじめ、瞑想やヨガ、セクシャリティなど、さまざまなワークを通してkokoさんが体現したい世界、こうありたいと願う社会像をお聞かせいただけるとうれしいです。

koko:そうですね……。

ちょっとありきたりだな、と思いつつも。「全ての人がありのままの自分を生きていく、生きていける、それを受け止めあえる社会、世界」というのが、一番幸せだな、と思います。

「Be yourself, everyone else is already taken.」というフレーズ(アイルランドの詩人オスカー・ワイルドの言葉)が私は好きで。直訳すると、「自分自身になりなさい、他の人はもう取られているから」。

他の誰かになりたいな、こんなふうになりたいな、と思っても、他の人は他の人が上手にやっている。あなた自身が一番うまく生きられるのはあなた自身ですよ、ということですね。

人間だから、ダークに思える感情も絶対に誰でもある。でも、それも全部受け止めて生きて行く。ひとりじゃできなくても、共感しあえる場所で、お互いをサポートし合って、一人ひとりが自分自身を生きていく力をつけていく。それが目指す社会です。

そしてそれをするのは、まず自分から。そうありたいですね。

【写真】笑顔で目を合わせるここさんとライターの池田

最後にいただいたメッセージは、まさにkokoさん自身が体現している世界。「まずは自分から」と言う通り、さまざまな人生の困難を乗り越え、自分自身のすべてにOKを出して生きるそのあり方は、1時間半のインタビューでありありと伝わってきました。それはもう、眩しいくらいに。

【写真】遠くを見つめながら歩くここさんに光が差している

私にはどうしても自分に自信が持てないところがあり、以前の私なら、kokoさんのような人に出会うと、眩しすぎて「私には手の届かない存在…。私には絶対に無理」と思ってしまっていました。でも今回のインタビューを通して、それはまさに「自分を敵に思っている」状態だったと気付かされました。

NVCというレンズを通して、「私は私自身とつながりたい」「心に敵はいない」というところに立ち返ることで、自分のネガティブな感情も「承認」や「自尊心」のニーズとして受け取り、認めてあげることができる。そんな光が、見えてきました。

まだまだ自分を攻撃しちゃうこともありますが、「Be yourself.」というフレーズを忘れず、一歩ずつ、練習を積み重ねてみたいと思います。

コミュニケーションの悩みからはじまり、人の「あり方」の話にたどり着いた今回のインタビューが教えてくれるのは、「すべてはつながっている」ということ。悩みを掘り下げていくと、そこには自分と相手の「感情」があり、根っこには必ず「ニーズ」がある。

それを紐解くことで見えてくるのは、心に「敵」がいて、自分自身や相手の「ニーズ」を抱きしめてあげられていない自分自身の「あり方」です。NVCは、コミュニケーション手法というかたちで、その確かなつながりに気づくきっかけを与えてくれています。

もしあなたの中に「どうにかしたいな」と思う問題があるのなら、NVCのレンズをまとったメガネをかけて、心に敵がいないか、まずは探ってみませんか。その矢印がどこに向かっているか、どんな感情とニーズに紐付いているかが見えてきたとき、あなたがもともと持っている愛や思いやりがあふれ出し、本来のあなたに還る道筋が見えてくるのだと思います。

その先に見えるのは、お互いの”ありのまま”を受け止めあえる社会。そんな未来に、私はワクワクしています。だから、一歩を踏み出そうと思います。

良ければあなたも、一緒にいかがですか?

「すべての答えはあなた自身の中にある」と信じて。

関連情報:

kokoさんが行うプロジェクトを紹介する「imakoko」 ホームページ

(編集/工藤瑞穂、撮影/川島彩水、企画・進行/松本綾香)