みなさん、こんにちは。LiD/APDの当事者として、YouTubeなどで情報発信をしている笑歩(えふ)と申します。
APD(聴覚情報処理障害/Auditory Processing Disorder)とは、「聞こえている」のに、「聞き取れない」症状のこと。聴力は正常で「聞こえている」のに、「聞き取れない」、もしくは「聞き取れるまでのスピードが遅い」、「聞き間違いが多い」など、音声を言葉として聞き取るのが困難な症状で、全人口の0.5-1%と推測されており、近年ではLiD(聞き取り困難症/Listening difficulties)と呼ばれることも多いです。(以下LiD/APD)。
私の場合、高校生の頃から、「相槌がおかしい」「前も言ったよね」といった指摘を周りから受けることがありました。でも当時は、LiD/APDの存在を知らなくて、ずっと原因がわからないままで。
就職後も同じ状況が続いたため、複数の医療機関を受診しつつ、自分でも調べていくうちに、LiD/APDについて書かれた本に出会いました。その本に書かれていた内容は、まさに自分の症状そのもので、「あ、これだ」と。ずっと悩んできた症状の正体が、やっとわかった瞬間でした。
その後、22歳でLiD/APDの診断を受け、YouTubeでLiD/APD当事者としての動画配信をスタートしました。YouTubeチャンネル「笑歩APDチャンネル」では、LiD/APDとともに、私が診断を受けているASD(自閉スペクトラム症)やうつの情報とあわせて、情報発信を続けてきました。
LiD/APDについて伝える際に難しいのは、“「聞こえている」のに、「聞き取れない」”という状況を、どう伝えるかということ。この目に見えない部分を何とかして伝えたいという思いがあり、さまざまな方法で情報を伝えることに挑戦してきました。
今はそれとあわせて、LINEで相談受付や、当事者会の企画運営などにも取り組んでいます。そんな私自身の体験とともに、LiD/APDの現状や、情報発信するうえでの思いなどについて、お話していきます。
「え?今その相槌する?」。会話のキャッチボールが難しかった高校時代
私は子ども時代のことはあまり覚えておらず、鮮明に記憶があるのは大体高校生以降のこと。当時私は、家でパソコンや携帯でアニメを観たり、音楽を聴いたりして過ごすのが好きでした。
学校では、周りの友達の会話のスピードが速くて、ついていくのが大変で。私の身近な女性の友人たちは、話題が次から次へと、めまぐるしく変わるんです。そのうえ教室では男子たちが騒ぐので、周りがいつもうるさくて(笑)。楽しかったですが、聞き取りに関してはいい環境ではなかったですね。
そんな環境で、友達と5人くらいでお昼を食べていたとき、一生懸命話している友達に対して、私が「ふうん、そうなんだ」みたいな相槌を打ったことがありました。すると友達から、「え?今その相槌する??なんかおかしくない?」みたいな反応が返ってくるようなことが何度もあって。
具体的には、「そうだよね」っていうところが、ちょっと違ったりするようなのです。「そうだよね」は、一般的には共感するときに言いますよね。
でも私は、質問を受けたときに「そうだよね」と返してしまったり、相手は質問に対しての答えを求めているのに、「へぇ」と返してしまったり。会話がうまくキャッチボールにならないんです。特に頭が疲れているときや、騒がしいお昼休みなどは、聞き取りが難しかったですね。
ただ、当時の自分としては、「聞き取れていない」という自覚はあまりなかったんです。大抵の会話って、「そうなんだ」か「へぇ」か「ふぅん」と言えば、何とかなりますよね。だからそういう反応で、その場をやり過ごしていたのだと思います。
当時の私は、ちょっと「おとぼけさんキャラ」みたいな存在だったと思うのですが、それについて特に悩んでいたわけではありませんでした。それでも「自分の性格や行動がみんなと比べて少し変だな」と感じながら生活していたので、高校時代はとにかくみんなに合わせて、学校生活を平和に送ることに精一杯で、聞き取りについて悩む余裕はなかったのでしょうね。
悩んでいたのは、これだった。「遅咲きの自分探し」でたどり着いた、「LiD/APD」という言葉
高校卒業後は、大学で福祉と心理学を学びました。自分の意志というよりは周りの勧めで選んだ進学先ではあったのですが、そこで自分が悩んでいたうつやアスペルガー症候群について知ることができたので、進んでよかったと思っています。
もともと、高校時代にバイトをした時に、店長から「これ、前も言ったよね」と言われることがあったのですが、大学時代のバイト先でも同様の指摘を受けることもあって。「やっぱり自分、ちょっと周りと違って変だよね」と、自覚するようになりました。
そこで大学卒業後、医療機関を受診することにしました。耳は普通に聞こえているので耳鼻科ではないだろうという思いがあり、脳神経外科や神経内科、内科など探して、調べては受診を繰り返す日々。1年ほどの間に10回以上、いろいろな医療機関を訪ねました。
それぞれの病院で診察を受けたり、MRIを撮ったりするのですが、なかなか原因がわかりません。悩んでいたとき、インターネットで調べて見つけたのが、LiD/APDについて書かれた本『聞こえているのに聞き取れないAPD【聴覚情報処理障害】がラクになる本』でした。
この本は、耳鼻咽喉科専門医として年間200人ほどのLiD/APD患者を診察している著者の平野浩二先生が、LiD/APDの症状や、聞き取りを良くするための対策などについて解説した一般向けの書籍です。その内容が、まさに自分のこれまでの体験や症状そのもので、一読して「あ、これだ」と。これまでの悩みの正体が、やっとわかった瞬間でした。
その後、平野先生の診察を受けることができて、APDの診断が出ました。
さらに「今後の自分のために、症状についてきちんと知っておきたい」という思いがあり、後日、より症状の程度などが詳細にわかるLiD/APDの検査も受けました。聞こえ方から発達障害まで、6時間位の検査を受けて、改めてLiD/APDの診断結果が出てたときは、「やっぱり!」という思いでした。
LiD/APDの背景には、発達障害や心理的問題がある例が多いと言われています。実際私も通院を続けるなかで、ASD(自閉スペクトラム症)の診断も受けました。ASDとは、コミュニケーションや対人関係の困難とともに、強いこだわりや限られた興味を持つといった特徴がある発達障害のことをいいます。
私は、学生時代から集団行動が苦手で、物事を決めつけてしまったり、突き進んでしまったりする傾向があることで悩んでいました。大学の教科書で読んだADHD(注意欠如・多動症)やアスペルガー症候群について、「これは自分のことでは」と思い、心療内科にも通っていたのですが、当時は診断までは出なくて。
ASDの診断が出たことで、自分の症状についてようやくきちんと知ることができました。あわせて、うつの症状にも長く悩んでいたのですが、これもこの頃から治療を開始したのです。
LiD/APDとASDとうつ。これまで漠然と悩んできた症状と向き合う受診や検査の日々は大変でしたが、自分にとっては「遅咲きの自分探し」とでも言うような、貴重な時間だったと思っています。
「聞こえている」のに、「聞き取れない」。それをYouTubeで伝えたい
卒業後は介護職に就いたのですが、仕事の場で、聞き取れないことを指摘される機会が多くありました。その後、LiD/APDが原因というわけではありませんが、メンタル面で不調をきたし、8ヶ月ほどで退職。
ちょうどその頃、世間でYouTubeがはやり始めていたこともあり、夫から「YouTubeやってみたら」と勧められたんです。私は大学時代からタレント業をしていて、退職後はモデル活動をしていたこともあり、表に出ることは楽しいし、喋ることも好きでした。
とりあえず何か発信してみよう。
そんな気持ちから、YouTubeを開始。LiD/APDのあるある話などはもちろん、発達障害やうつ、私生活についても発信をしていました。
それから1年ほど経った頃、LiD/APDの診断を受けました。
せっかくなら役に立つことを発信したいし、症状について知ってほしい。そんな思いから、LiD/APDについての動画を配信することにしました。
開始当初は、LiD/APDが今より知られていなかったこともあり、見てくれる人も少なくて、夫も「ふーん」みたいな反応。それでも発信を続けていたのですが、あるとき聞こえ方を説明した動画が、朝起きたらものすごい再生数になっていました。びっくりして夫に見せたら、夫もびっくりしてましたね。
この動画は、「日常生活の音がLiD/APDの人にはどう聞こえているか」を再現した動画です。
作ったのは、仕事を辞めてストレスで寝込んでいたとき。社会に出てから「さっきも言ったよね」などと指摘されることが増えたのですが、自分としては「ただ聞いてるだけなのに」という思いがあって。そこで、「こういう聞こえ方ってあるよね?」という自分の気持ちを、そのまま動画にしました。
しっかり考えて作り込んだ動画ではなかったので、反響の大きさは全くの予想外でした。これまで、同じ症状の方と話す機会はほぼなかったので、「私もこんな聞こえ方するよ」といった反応をいただいたときは、本当にうれしかったです。私だけじゃなかったんだと。
あわせて、この動画でLiD/APDについて知ったという方も多くいました。LiD/APDの人が抱える困難のなかで、“「聞こえている」のに、「聞き取れない」”という状況を、どう伝えるかという問題があるのですが、こういう伝え方もあるんだなと実感しました。
同じ症状の人と、初めて話した当事者会。感じたのは、会って話すことの大切さ
YouTubeの動画が広まって以降、LiD/APDの当事者の方とつながる機会が増えました。
まずはTwitter(現X)を通じて、LiD/APDの当事者が集うLINEのオープンチャットに参加することに。当時はまだ600人くらいの参加者でしたが、自分と同じような症状の人たちと交流することができました。
また、当事者会にも参加したことで、初めて自分と同じ症状を持つ人と会うことができたのです。20人くらいの方が参加されていて、「同じ症状の人って、結構いるんだ」と思ったのを覚えています。
当事者会への参加を通じて感じたのは、会って話すことの大切さ。参考書などを読むと、症状についていろいろ書いてあるのですが、実際にその人に会って話してみないと、どんな症状なのかはわからないと思うんですよね。
私自身、LiD/APDだけではなくADHDの当事者の方と話す機会が増えて、自分自身が持っていた偏見がなくなっていった実感があります。教科書だけでは学べないことは必ずあるので、まずは会って話してみることを大切にしたいですね。
当事者会には今もたまに参加しているのですが、最近はもう一人の仲間と一緒に自分たちで主催するようになりました。当事者会に来てくれた小学6年生くらいの男の子から、「笑歩さんの動画、見てます」と言われたときは、うれしかったです。
参加者の年齢層は幅広く、中には70代くらいの方もいて、お互いの困りごとを相談しあったり、情報共有したり、当事者同士で交流しています。
当事者会は、「学び」を目的にするよりは、楽しんで帰ってほしいと思って企画しています。たくさん情報共有できたけど、家に帰るとどっと疲れが出てしまうような場にはしたくなくて。
みんなで楽しく話をして、ストレス発散して、気分がぱーーっと楽になって帰っていけるような場がいいのかなと思っています。参加することで、私自身も元気をもらってますね。
LINEで受けてきた相談。背景にあるのは、仕事と人間関係の悩み
当事者会で参加者の皆さんからさまざまな相談を受けるのですが、現在はLINEでも相談受付をしています。これまで200人くらいの相談を受けてきて感じるのは、LiD/APDそのものというより、仕事と人間関係の悩みが多いということ。
一番多いのが、「仕事は何をすればいいですか」など、仕事関係の相談。私の場合、動画編集について何も知らないままYouTubeの配信を始めて、パソコンでの編集などもやりながら覚えていきました。
仕事の問題は、聞き取りや発達障害の問題ももちろん影響するのですが、人間関係や職場環境の問題も関係してきます。「合わなければ辞める」くらいのつもりで、「失敗してもいいから、まずはやってみる」というのも、ひとつの選択肢なのかなと思います。
私が仕事をするうえで大切にしているのは、「わからないときは聞くこと」です。
介護職をしていたときは、2回でも3回でも、わかるまで聞いていました。LiD/APDとは関係なく、わからないから聞いていた部分もあるのですが、それが許される環境だったことはありがたかったです。
介護職は、利用者の方に対して、ゆっくり、何度も尋ねることが当たり前の仕事。LiD/APDと相性がいい部分もあったのかもしれませんね。
聞くことについては、海外の方からこんな相談を受けたことがあります。
自分の国では、わからないときは積極的に聞いていた。仕事ができるようになるには聞くことは必要だと、みんな当たり前に思っていた。でも日本では、1回で聞かないとダメみたいな空気がすごくあって、何度も聞くと怒られることも。日本で働くって大変なんだね。
確かに、日本では子どもの頃から「1回で聞いてね」と教えられる機会が多いように思います。状況にもよるので正解はないのかなとも思うのですが、ほかの国ではどうなのかなど、気になっています。
そのほかに、若い人や学生からよく聞かれるのは、「うまく話したり、聞き取ったりできるようになるにはどうしたらいいか」という相談。
私の場合、YouTubeで配信をするようになり、「どう伝えたら視聴者に伝わるんだろう」というのを考えているうちに、自然と話す力が身についたように思います。やはり回数を重ねて、アウトプットしていくしかないのかなと。例えば、旅に出たり、たくさんの人と会ったりすることも、話す力を身につけることにつながるのかなと思います。
聞き取りについては、YouTubeの動画を1.75倍にして聞く練習をしたりしていますね。
身近な人にどう伝えるか。自然に、時間をかけて共有するという選択肢も
仕事以外で多い相談は、「家族にどう伝えたらわかってくれるか」。
私の場合は、診断を受けたとき、夫には「ふわっと」伝えました。真剣に話すと相手が構えてしまうかなという思いがあり、あえて、あまり正確には伝えなかったんです。YouTubeでの情報発信はしていたので、それを見てくれているだろうという思いもありました。
それから1年くらい経って、聞こえ方の動画でYouTubeに大きな反響があり、その頃から普段の会話のなかに、「LiD/APDだから」「聞こえが苦手」などの言葉を自然に入れていきました。
LiD/APDについてはそんな感じでふんわりと共有していったのですが、ASDについては自分自身もどう説明していいかわからなかった時期があり、しばらくは伝えられないでいました。
今は、普段の会話のなかで、お互いにフランクに話せるようになってきたように思います。例えば、うまく聞き取れなかったら「あ、今のAPDだ」とか(笑)。面と向かって話すというよりは、自然に、時間をかけて共有してきました。
でもこれは本当に状況によって人それぞれで、正解はないのかなと思います。それでもとりあえず言ってみないと伝わらないので、例えばAPDの本を渡してみたり、LiD/APDについてのYouTubeを見ながら「あ、これ私と同じだ」みたいな感じで話してみたり、テレビを見ているときに「あ、なんか聞き取れないな」って言ってみたり。
まずはそんなところから話をして反応をみるのも一つの方法かもしれないと、LiD/APD当事者の方とはお話しています。
防音室やスマートフォンなど、道具や環境を整えることで、聞き取りやすさが変わることも
周りの人にしてほしい配慮については、その人の症状や環境によって、さまざまなのかなと思います。
私の場合は、女性の声は大丈夫だけど、男性の声が聞き取りにくくて、特に低音が苦手です。一般的に、聞き取りやすい話し方としては、年配の方や子どもに話すように、ゆっくり、はっきり、文節ごとに区切るような話し方が伝わりやすいと思います。
夫がしてくれる配慮としてうれしいのは、夫がYouTubeを見ているときに私が話かけると、動画の雑音が入ることで私が聞き取りづらくなることを考慮して、いったん動画を止めてくれるところ。一緒に暮らしていくなかで、どういう配慮が必要か、共有していったからこうなったのだと思います。
学校や職場などの社会環境についても、配慮があるとありがたいところはあります。例えば学校の授業などでは、聞き取りが難しい場合、録画や録音などができる場合もありますが、職場などでは難しいケースが多いのではないでしょうか。最近は、スマートフォンの録音や書き起こし機能の精度も上がっているので、それらの使用を必要な状況で認めていただけたらありがたいですね。
あわせて、仕事では電話を受ける機会があると思うですが、聞き取りが難しい人の場合、音質の関係で、固定電話とスマートフォンで聞き取りやすさが変わる場合もあります。職場環境や仕事内容にもよると思うのですが、柔軟な対応をいただけたら、聞き取りが苦手な方も働きやすくなるのかなと。
職場などの環境としては、防音室など、反響が少ない場がクリアに聞こえます。会議室やビルの中、マイクで話す講演会などは、反響が大きいため聞き取りが難しくなります。
大きな音がなくても、事務所などでコピー機やパソコンの音がぶつかりあうような環境では、聞き取りにくくなることも。屋外など広い場所の場合は、まわりに車など騒音を発するものがなければ大丈夫です。
また、人と話すときは1対1が一番話しやすく、人が多いほど聞き取りにくくなります。4、5人になるとかなり難しいですね。
LiD/APDの当事者会では、20人ほど集まるので、本当は防音設備が整った環境でやりたいのですが、なかなか難しくて。お互いに聞き返しながらやっています。それぞれの状況をわかりあっていたら、そういう環境でも大丈夫かと思います。
LiD/APDとともに生きるために。まずは、日常のストレスをなくすことも大切
LiD/APDと、ASDと、うつ。私の場合、これらは互いに関連しあっていて、最初に出るのはうつの症状です。
うつで何もやりたくないときや動きたくないとき、聞き取りの能力も落ちてきます。私の人生と切っても切り離せないこれらの3つの特性は、自分にとって何なのか、これまでいろいろ考えてきました。
その答えは今も出ていなくて、個性といえば個性で、性格といえば性格で、障害といえば障害だったりします。でも考え出すとキリがないし、最近は、「今の人生が楽しければ、どうでもいい」と思えるようになって、深くは考えなくなりました。
これらの症状とともに生きるうえで大切にしているのは、まずは日常の中のストレスをなくすこと。
以前は昼夜が逆転していたのですが、主治医から「夜はちゃんと寝ましょう」と言われて、昼間は活動して、夜は寝る生活に変えたんです。すると気分が良くなってきました。
健康的に生活して、きちんとごはんを食べて、運動する。シンプルだけど大切なことだと思います。
そして昨年からは、ゴールデンレトリバーと暮らしはじめました。
犬と過ごす毎日の何気ない時間は、気持ちがほっとします。動物がいれば「おいしいごはんを食べさせてあげたいな」とか、そのためにがんばろうと思えますね。
LiD/APDの相談を受けてきて感じるのは、人間関係の悩みが多いこと。
LiD/APDの症状自体に悩んでいる方はたくさんいるのですが、相談を紐解いていくと、人間関係の悩みに行き着くことも多くあります。例えば、「聞き取れないこと」だけに悩んでいるのではなく、もっと人間関係をよくしたいとか、仕事をスムーズに進めたいといった思いがあるけれど、うまくいかない原因の一つとして「聞き取れなさ」があるというか。
LiD/APDはまだ明らかになっていない部分も多くて、症状自体をすぐになくすことは難しいのではないかと思います。でも人間関係の悩みなら他のアプローチができるし、生活を整えてストレスを減らすことで変えられる部分もあるのかなと。私自身、LiD/APDと付き合ってきたなかで、そう感じるようになりました。
LiD/APDに限らず、何らかのストレスを抱えている人は多いと思うのですが、ストレスを抱えたままだと、小さなことでも大きな問題だと思ってしまいます。まずは抱えているストレスを解消して、日常生活を整えたり、環境を見直したりすることも、大切なのかなと思います。
見えないものを、どう伝えるか。試行錯誤しながら挑戦
YouTubeでは、2023年8月から、アニメでLiD/APDを解説する動画の配信を開始しました。1本5分程度でLiD/APDについて学べるシリーズを、月に1、2本配信してきました。
アニメにしたのは、教育にはアニメが適していると考えたから。私自身が文字を読むのが苦手で、アニメで見た方がわかりやすいのではと感じていたこともあり、アニメにすることで見る方の負担を小さくできるのかなと思っています。
アニメにするうえで、どうしたらわかりやすく伝えられるか、構成を考えたり、編集したりすることは難しい部分はありますが、楽しいので続いていますね。学生の頃から、自分で本を書いたり、感想をノートにまとめたりすることが好きだったので、その頃の熱意が今ここで爆発しているというか(笑)。
情報配信をするうえでずっと考えてきたのは、「見えないものを、どう伝えるか」。症状が目に見える病気や障害もありますが、LiD/APDはまったく見えません。見えないものをどうすれば可視化できるかという部分が一番大きなハードルで、アニメにしたのも、そこを何とかして伝えたかったから。アニメについては、「見やすい」という感想をいただいていて、まずは作ってよかったなと思っています。
配信開始から5年。今はいったん休んで、プライベートを大事にしたい
私は2019年12月から動画配信を始めたのですが、当時はインターネットにLiD/APDの情報はほとんどありませんでした。
最初は「こういう聞こえ方ってあるよね」という自分の思い対して、共感を求めていました。そこに共感してくれる人がいて、LiD/APDが以前より知られるようになってきたのはよかったと思っています。
動画のコメントを見ていて感じるのは、「聞き取れない」という人は結構いるんだなということ。普段は口に出していないだけで、一人で症状を抱えこんでいる人は、実はたくさんいるのではないかと思います。私の動画が、そういう人の力になれたらうれしいです。
一時期は無理して毎日投稿していて、動画の企画ネタが出てこなくなった時期があったのですがそこでいったん休んで、マイペースで投稿するようにしたら、余裕が持てるようになりました。
4〜5年前は、「自分ががんばって発信しないと」という思いがあったのですが、次第にLiD/APDの情報配信をする人も増えてきて。今は「私が発信しなくても、誰かがやってくれているから大丈夫」と思えるようになってきました。
「世の中にLiD/APDを知らせたい」という思いで配信をスタートして、今年で5年目。おかげさまでチャンネル登録者数は8,000人になり、あまり頻繁には更新していないのですが、チャンネル登録者数は増えています。
そんななか、先日あるドラマを観ていると、重要な登場人物がLiD/APDの当事者という設定だったんです。演じている俳優さんも人気のある方で、「LiD/APDって、ここまで知られてきたんだ」そんな実感がありました。
この5年取り組んできたことで、当初の目的は、まずは達成できたのかなと思います。そこで、LiD/APDについての動画配信を、しばらくお休みすることにしました(2024年5月現在)。愛犬ルナの動画配信などは続けつつ、まずはプライベートの時間を大切にしたいと思っています。
LiD/APDが世の中に知られてきた今、インターネットに情報はいろいろあります。当事者の皆さんや周りの人が、まずはそれらの情報でLiD/APDのことを知り、その人たちがSNSで情報発信するようになれば、LiD/APDはもっと広く知られるようになります。そうすればLiD/APDの人たちが、もっと生きやすい世の中に変わっていくのではと。
私は、人に対して何かを求めるなら、まずは自分が動くことが大切だと思っています。当事者の皆さんそれぞれがが発信していくことで、LiD/APDについて理解が広がっていったらうれしいなと思っています。
関連情報:
笑歩さん Youtubeチャンネル Twitter(現X)
(執筆/宇都宮雪代、撮影/野田涼、編集/工藤瑞穂、企画・進行/松本綾香、協力/阿部みずほ)