大切な人と食卓を囲んで、同じものを食べて、「おいしいね」と笑い合う……食べることが大好きな私にとって、この日常の幸せなひとときは幼い頃からずっと、大切な時間です。
ですが大人になってから、人によってさまざまな食との付き合い方があるのだと知りました。
いつどんなものを食べるか、食べる量などは、もちろん人によって異なりますし、他にも色々な事情から、食事そのものが苦手な人もいれば、人と対面で食事をすることにハードルを感じる人もいます。
そして噛む力や飲み込む力が弱いことで、食事の内容に制限が生じる場合もあります。
そういった食べることや飲み込むことに障害があり、上手く食事が飲み込めない状態のことを「嚥下障害」、嚥下障害のある人でも飲み込みやすい食事を「嚥下食」といいます。嚥下障害のある人の食事の仕方は症状や状況によりさまざまですが、固形を噛んで飲み込むことが難しい場合の多くは、ミキサーなどを使って食べやすくしたペースト食や、胃ろうでの食事をするのだそう。
果物やクリームが使われたカラフルなケーキ、野菜やお肉を使ったお惣菜が詰まったお弁当……
この写真のスイーツやお弁当を見るだけでも「美味しそう」と頬が緩みますが、これは嚥下食であり「インクルーシブフード」の一つです。
インクルーシブフードとは、噛む力や飲み込む力が弱い方でも、特別な加工をすることなく周囲の人たちと一緒に食べることができる食事のこと。柔らかい食感で噛む必要がなく、少しの飲み込む力があれば食べられるのだといいます。
これは嚥下障害がある子を育てる親御さんたちがはじめたコミュニティ「スナック都ろ美(とろみ)」が提案している、食の新しいカテゴリです。
嚥下障害がある子どもも、家族と一緒に食事を楽しめるように。
そんな思いをきっかけに開発されたインクルーシブフードは、名前の通り年齢や障害の有無にかかわらず、さまざまな人が一緒に同じものを楽しめる食事として展開されているのです。
インクルーシブな食の展開にはどんな思いが込められているのか…インクルーシブフードや「スナック都ろ美」の活動とともに紹介します。
嚥下障害のある子どもを育てる親御さんの、食の悩みを相談できる場所、スナック都ろ美
ユニークな名前が目を惹く「スナック都ろ美」は、食事支援が必要な子どもがいる親御さんたちのコミュニティで、子どもとその家族のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上を目的として嚥下食にまつわる情報共有や商品開発などに取り組んでいます。「安心して話せる誰かがいて、気づいたらちょっと気持ちがスッキリしている」そんなスナックのような場を目指して名付けられました。
運営をしているのは、自身も嚥下障害のある子どもを育てる親御さんたち。イベント出展でリアルの場を開くこともありますが、主に「仮想スナック」としてオンライン上でコミュニケーションが取れる場として運営をしています。
スナック都ろ美の誕生は2019年。特別支援学校を“おもしろくする”ことを目的に、教員、家族、クリエイターなどが集まったグループ「特別支援学校を特別おもしろい学校に委員会」により行われた、「特別支援学校の特別おもしろ祭」へ出展したことがきっかけでした。

「特別支援学校の特別おもしろ祭」へ出展した時の様子
ここでタッグを組んだのが、「特別支援学校を特別おもしろい学校に委員会」のメンバーであり、のちにスナック都ろ美を運営することになる加藤さくらさんと、永峰玲子さん。おふたりとも、障害のある子どもを育てる母親です。もともと共通の友人がいたことで知り合った二人でしたが、この機会に「食に関するブースを出展したい」と偶然にも意見が一致。
打ち合わせで「スナックのママをやってみたい」と盛り上がったというお二人は、嚥下障害がある子どもが家族と一緒においしく食べられる「おもしろい食」としてスナック都ろ美を開店し、噛まずに飲み込めるSAWARABI HAPPY FOOD PROJECTの「にぎらな寿司」や、調整食スープ「041 FOOD」などを紹介しました。

当日のメニュー表
嚥下障害とは食べものを飲み込む一連の動作に障害がある状態のことを指し、飲み込めないだけでなく、食べるとむせる、食べ物がつかえる、食べ物が口からこぼれるなどの症状が含まれます。
嚥下障害となる背景は、人によってさまざま。病気の影響もあれば、子どもが食べ方を身につけていく過程で起こる場合もありますし、加齢によって食べることや飲み込むことに必要な筋力が衰え発症する場合もあるそうです。

加藤さくらさんと、にぎらな寿司を食べる娘のマコさん
今回お話を伺った加藤さんは、スナック都ろ美の運営の中心メンバーのひとり。2人の娘を持つ母親で、次女のマコさんは「福山型先天性筋ジストロフィー*」で知的障害もあります。マコさんは2025年2月現在、口と胃ろう*の両方で食事を摂取しています。
*福山型先天性筋ジストロフィーは、生まれつきタンパク質をつくる遺伝子に変異があり、筋肉の変性や壊死が起こるといった症状がある、筋ジストロフィーのうちの一種です。筋力の低下に加え、知的能力障害や目の異常などを合併する場合もあります。
*胃ろうとは、口から食事をすることが難しい症状がある場合に行う医療装置のこと。手術によって腹部に小さな穴を開け、そこにカテーテル(チューブ)を通して栄養剤を注入し栄養を補給します。
嚥下障害の度合いによって多少の違いはありますが、私も含めて食事支援が必要な子どもを育てる親御さんたちは、子どもの食事のことで悩まされていました。もちろん病院で先生に聞くこともありますが、食事は毎日のことですし、細かい悩みが日々生まれるんです。
子どもが食べてくれない、子どもが食べられるものが少ない、外食ができない、ペースト食をあげることに罪悪感がある、嚥下食の見た目が美味しそうじゃないなど、親の多岐にわたる食の悩みを相談する場所がないうえ、情報そのものが少ない。
そんな課題からスタートして、加藤さんと永峰さんは食に関するリサーチを重ね、2020年にオンラインコミュニティとしてスナック都ろ美の活動をスタートしました。
当初は全国各地を回って、摂食嚥下障害がある子どもと親御さんと繋がりを深める予定でしたが、コロナ禍の影響でオンラインに切り替えざるを得ない状況に。そこで新たにスナック都ろ美のウェブページを制作し、オンラインでの活動を展開した結果、今では全国から常連さんへの登録が集まり、年々規模は拡大しています。
2022年には運営元の「一般社団法人mogmog engine」を立ち上げ、加藤さんと永峰さんが共同代表に。現在mogmog engineでは、スナック都ろ美をはじめとするコミュニティ運営のほか、外食支援事業、インクルーシブフード開発事業などに取り組んでいます。
情報共有だけでなく、ときには愚痴や悩みを吐き出すこともできる。“常連さん”同士の繋がり
スナック都ろ美の掲げる活動方針は、「食を楽しむ、外食を楽しむ、人生を楽しむ」の3つ。
嚥下食にまつわるおすすめ商品やレシピ、外食先、お出かけ先などの情報共有、専門家や嚥下障害のある子どもを持つ親御さんによる講座開催、外食産業などの企業への提案や商品開発など、幅広い活動に取り組んでいます。

スナック都ろ美のウェブサイト
スナック都ろ美のウェブサイトから「常連」に登録すると、不定期で開催している交流の場「スナック都ろ美」(2025年2月現在は主にオンラインで、月に2回程度開催)や、LINEのオープンチャットへの参加、レシピ投稿、限定イベントへの参加、商品開発の過程への参加などが可能です。
嚥下障害がある当事者や、そのご家族であれば誰でも“ウェルカム”だそうで、登録は無料。常連さんは希望に応じて、イベント出展など活動の手伝いをすることもあるといいます。
スナック都ろ美で特に大切にしているのは、常連さん同士の繋がりです。「食について相談できるところがない」という自分たちの課題感からスタートした活動ですが、現在の常連さんの数は1,200人ほど。不定期で開催している交流の場「スナック都ろ美」では、常連さん同士でたわいもない話をしたり、食にまつわる専門家などゲストを呼んで学んだり、顔を合わせて交流を楽しむことができます。
いつでもコミュニケーションができるオープンチャットには500人が参加しており、食に関する日々の工夫や情報共有、ときには愚痴や悩みを吐き出すこともできる場として毎日賑わっているそうです。
オープンチャットは、食以外の話もできるように、“部活動”としてテーマごとのチャンネルを作成しているそう。キャラ弁部、アレルギー部、メンタル凹み部、お仕事部などのほか、オムツ部、月経部など話しづらいデリケートな話題も情報共有し合えるチャンネルもあります。

2024年12月には「こども食べすぎ部」「スープストックトーキョー部」「お風呂部」が加わり、この時点で21個の部活動が存在
部活動は基本的に運営側ではなく、常連さん自らが立ち上げて、発起人が“部長”に就任。興味のある人のみがチャンネルに参加し、情報交換をしています。
例えば盛り上がっている部活の一つであるキャラ弁部では、ある常連さんが「ミキサーで作るペースト食がだいたい茶色系になってしまうことで、見た目がほぼ同じで美味しそうに見えないし、嚥下食を用意する親御さん側のモチベーションが保ちづらい」という悩みを持っていたところから、新たなペースト食の可能性の開拓につながった話がシェアされました。
その方はきょうだい児にキャラ弁を作っていた時に、ペースト食でキャラ弁が作れないかと思いついて。試してみたら意外とバリエーション豊かに作れることがわかって、キャラ弁に奮闘するようになったんです!するとこれまでより食事の用意を楽しめるようになり、ペースト食へのネガティブイメージが消えて、彩りや見た目は料理する側にとっても大事なんだと気づいたそうです。
そしてキャラ弁を通して子どもと親はもちろん、子どもと施設のスタッフ間でも「かわいい」「今日はこのキャラだね」などコミュニケーションをすることが増えて、食事中に笑顔が増える。それが親にとっても嬉しい、という経験を伝えてくれたことがありました。
この方の投稿をきっかけに、「私もやってみよう」とたくさんの方がペースト食のキャラ弁に挑戦。彩や形状に制限があるイメージのペースト食ですが、親御さんたちの工夫により色とりどり、多種多様なキャラクターのお弁当が投稿されました。部内ではお互いの写真を参考にしたり、コツをシェアしあったり、楽しみながらペースト食のキャラ弁への熱量を高め合っているそうです。
「子どもと一緒のものを食べて食事を楽しみたい」インクルーシブフードの開発
柔らかい食感で、見た目も楽しめて、おいしい。嚥下障害の当事者と健常者の区別なく、一緒に楽しめる食べ物、インクルーシブフード。スナック都ろ美がその開発に取り組む背景には、嚥下障害のある方の食の選択肢があまりにも狭いという現状がありました。
嚥下障害のある方でも食事の仕方は症状や状況によって異なり、個別性が高いそう。食形態も刻んでとろみをつけまとまりやすくしたもの、ミキサーなどでペースト状にしたものなどさまざま。口からだけでなく、鼻や口から胃まで挿入されたチューブを使ったり、胃ろうで食事をする人、コンディションに応じて口と胃ろう両方で食事をする人などもいます。
飲み込みやすい嚥下食というのは、歯ぐきでかめる軟らかい食事であることと、水分にとろみを付けることが重要だといいます。硬いものは煮込む、蒸す、つぶすといった調理をしたり、サラサラした液体にはとろみ剤でとろみをつけたり、水分が少ないパサパサするものには水分を含ませたり、工夫が必要なのです。
そのため嚥下食というと、健常者の食事をミキサーなどの調理器具でペースト状にしたペースト食や、高齢者向けに開発された介護食が多くを占めています。その他に手軽に手に入れられるものといえば、全粥、絹ごし豆腐、温泉卵、ゼリー、プリン、ヨーグルト、アイスクリームなどがありますが、やはり選択肢は限られるという課題がありました。
スナック都ろ美の常連さんからはこんな声が挙がっていたそう。
「ミキサーで作ったペースト食は“美味しそう”とは思えない。親として自分が食べたくないものを子どもに食べさせている罪悪感がある」
「家族の中で障害のある子ども一人だけ違うものを食べて、『おいしいね』という気持ちの共有ができない。子どもが食事の時間を楽しめていない」
そこでスナック都ろ美では「子どもと一緒のものを食べて食事を楽しむ」ことへの選択肢を広げようと、東京都と東京医科歯科大学、東京大学による共同事業に協働するかたちで2022年からインクルーシブフードの開発をはじめました。こだわったのは、障害の有無にかかわらず誰もが一緒に、美味しさと見た目の美しさを楽しめる食べ物であること。
最初の開発は、8年間介護食に携わり、飲み込みやすいなめらかなケーキを研究してきた、インクルーシブパティシエの志水香代さんとともに取り組みました。
親御さんたちへのヒアリングをもとに辿り着いたのは、「見た目の美しさ」「そのまま食べられるなめらかさ」があり、「食感も楽しめる」ケーキ。加えて、嚥下障害のある人が夏祭り屋台で食べられるものがなかなかないという話が持ち出され、屋台でよく売られているりんご飴の形のケーキを作ることになりました。
飲み込みやすいソースの量の調整など何度も試作を重ね、なめらかでありながら、ペースト食にはないザラザラやサクサクといった食感のあるケーキが完成。食感は楽しめることに加えて、子どもたちが普段よりよく口を動かしながら食べることにもつながったそうです。
「りんごを初めて食べさせてあげられて感動!いつもすりおろしたりんごだと食感が嫌なのか食べてくれず…このケーキは見た目もかわいくて美味しい!」
「普段果物を食べない子なので、最初は反応良くなかったけれど、お口に入れると味わい深く、上手にモグモグしてました!」
試食に参加した親御さんからはこんなポジティブな声が届きました。そして家族やきょうだいと同じものを食べられることで、幸せな食卓になったのだそうです。
他にも、2022年には愛知県の和食料理屋『かんさい』の猿橋央志料理長をはじめとするチームがレシピ開発と調理を担当した、やわらかいお子様ランチ「もぐもぐBOX」がリリース。監修を東京医科歯科大学の戸原玄さん、東京大学の井口はるひさん、アドバイザーをmogmog engineが担当しました。

メニューはサーロインステーキ、唐揚げ、厚焼き玉子、鰈照り焼き、ナポリタンスパゲティ、キャラクターウィンナー、クリームドリア。お子様ランチの定番の旗付き
2023年にはスイーツブランド「toroa」とコラボレーションして、飲めるほどとろけるチーズケーキを誕生させました。
さらにスナック都ろ美の常連さんでチョコレート屋を営む方が志水さんに声をかけ、口と胃ろうどちらからでも食べることができるインクルーシブチョコレートを共同開発することに。一般的な生チョコは口の中で溶けるものの、口内で張り付いてしまうため、嚥下障害のある方は牛乳や水を足して調整して食べる必要があったのだそうですがインクルーシブチョコレートは水分量が多いことから、そのまま飲み込むことができる商品になっています。
こちらは2025年1月に発売となり、mogmog engineは広報を担当しています。
あらゆる方が一緒に食卓を囲み「おいしい」を分かち合える。スープストックトーキョーの取り組み
ここまで様々なインクルーシブフードを紹介してきましたが、次に気になるのは、嚥下障害のある方の外食について。常連さんの中には「一度も外食をしたことがない」「外食という選択肢がない」という人も多くいました。
嚥下食を提供する飲食店が少ないことに加えて、嚥下障害がある子どもの中には、病気や障害の影響でバギーや車いすでの移動が必要なケースもあり、外出にハードルがあるのです。
バギーや車いすでもアクセスしやすく、他のお客さんに気を遣いすぎることもなく利用しやすい場所としては、ショッピングセンターのフードコートなどがあります。ただ、嚥下食が提供されていることはほとんどありません。
嚥下障害のある人が食べられるようなサービスを行っている飲食店は、高級なレストランなどが多いんです。行ける場所があるのはとてもうれしいですが、日常的な利用は難しいので、気軽に外食できる場所が増えたらいいなと思って。
そもそもこういった課題は皆さんは知る機会がなく、声をあげていかなきゃ本当に変わらないなと思い、アクションを起こすことにしました。
加藤さんは、自身も好きな飲食店で、嚥下食とスープに親和性があると感じたことなどから、株式会社スープストックトーキョーに連絡してみました。すると、スープストックトーキョーが創業当初から掲げている、あらゆる人が一つの食卓を囲み、笑い合い、温かな食事を共にできる「Soup for all!」という想いと重なり、嚥下障害のある方も安心して利用できるようなサービスの実施を進めることになりました。
2022年6月からはSoup Stock Tokyoルミネ立川店限定にて、噛むことが困難な方に向けた「咀嚼配慮食」サービスが開始。具がないスープや、舌または歯茎で潰せる程度のかたさの具材が入ったスープなど、具材のかたさの検査を実施し、それぞれのかたさの目安を算出したメニューを用意するとともに、キッチンハサミ、茶こし器、スプーン、マッシャーの貸し出しなどを行いました。
そして2025年2月からは、さらにみのおキューズモール店、スープストックトーキョーが展開するファミリーレストラン「100本のスプーン」全店にて、「食べやすさ配慮食」サービスがはじまりました。
「食べやすさ配慮食」は、年齢を重ねた方、障害がある方、歯の治療中でかたいものを食べられない方など、さまざまな理由で「食べる力」に不安がある方に向けたサービスです。
Soup Stock Tokyoでは、「咀嚼配慮食サービス」のスープメニューの基準を整理し直し、新たに「食べやすさ配慮食」サービスとしてリニューアルしました。具体的なメニューとして、Soup Stock Tokyo ルミネ立川店、みのおキューズモール店では、日本介護食品協議会が定めた規格に適合した「ユニバーサルデザインフード」と、具がないポタージュタイプの「なめらかスープ」を用意しているそう。
100本のスプーンでは学校などの団体利用向けに、お店で提供している料理をもとに、食材や水分の調整、ミキサー等を使用し形態を変えた「なめらかミール」「やわらかミール」を提供します。なめらかミールは噛まずに食べられる程度のかたさのドリアとオムライス、やわらかミールは舌で潰せる程度固形に調整したドリア、オムライス、ハンバーグで、見た目もカラフルです。
ご自身も好きだというスープストックトーキョーのお店で、マコさんも一緒にみんなで同じものが食べれること。そして嚥下障害があっても外食を楽しめる社会に一歩近づいたことへの喜びを、加藤さんは嬉しそうに語ります。
嚥下食はよくわからない、リスクが高いと思っている飲食店も多いと思います。でも私たちにとっては、サービス内容の充実度や、どれだけ完璧に対応してもらえるかより、サービスに制限があっても、お店側のウェルカムな気持ちを感じられた方が嬉しいし、また行きたくなる。
つまり、「心のバリアフリー」が大事なんだと思います。障害の有無にかかわらず皆さんもこういう経験ってあるんじゃないでしょうか。これからも、嚥下食にチャレンジしてくれるお店が増えたらうれしいです。
食事の選択肢にインクルーシブフードがある状況が、当たり前になる未来を願って
インクルーシブフードと食べやすさに配慮した外食の取り組みを、さくらさんがキラキラとした笑顔で話してくれたことが、とても印象的でした。その背景には「マコさんも一緒に食べられる、食を楽しめる」ことへの格別な喜びがあるように思います。
おいしいものは、自分が食べるだけではなくて、大切な人にも食べてもらいたい。「おいしい」を共有したい。
意識することもないくらい、当然のようにそう思って生きてきたことに、初めて気づきました。ですが一部の人にとって、この思いを日常的に実現するのは決して当たり前ではなかったのです。
それでも今回の取材を通して、スナック都ろ美の活動やインクルーシブフードの展開によって、「みんなで同じ食事を楽しむ」ことができる未来への扉が少しずつ開かれているのではないか、と可能性を感じました。
高齢化が進む今の日本では、インクルーシブフードの市場は潜在的には大きいのではないかという見方もあるといいます。
思い返してみると、きっと必要としているのは、病気や障害のある人や高齢者だけではないはずです。離乳食期間の乳児、胃が弱い方、歯の治療をしている方など、さまざまな人がさまざまなシーンで、インクルーシブフードに助けられることがあるのではないでしょうか。
食事の選択肢の中にインクルーシブフードがある状況が、当たり前になる未来がくるように。まずはたくさんの方にインクルーシブフードの存在が広まることを願っています。
(写真/提供写真、編集/工藤瑞穂、企画・進行/松本綾香)