【画像】椅子に座って微笑むさのさん

夜、布団に入ってから、日中の自分を思い出して落ち込むことがあります。

家族の何気ない一言に思ったより強く言い返してしまった。主張しなければいけない場面で頭が真っ白になり、的外れなことを口にしてしまった。苦手な相手なのに、必要以上に愛想よく振る舞ってしまった。

どうして望んでもいない反応をしてしまうんだろう。考えるたびに行き着くのは「性格だから仕方ない」という結論。簡単には変えられないなら、せめて上手に付き合っていくしかない。そう言い聞かせてやり過ごせる日もあれば、何度もつまずく自分に疲れてしまう日もあります。

「その反応は、過去の自分が生き延びるために必要だったものかもしれません」

そう話すのは、認定プロセスワーカー・臨床心理士の佐野浩子さん。心理カウンセラーやスクールカウンセラー、児童養護施設での仕事を経て、2013年に事務所「Presence Bloom」を開きました。 トラウマケアやプロセスワーク(※)を実践するとともに、近年は個人だけでなく社会や集団のトラウマ(コレクティブトラウマ)を扱うグループワークや対話の場にも注力されています。

※プロセスワークは、ユング心理学から発展した心理学。人のなかにある“困った”部分などを、意味のない不調や変えるべきものとしてではなく、まだ十分に気づかれていない何かが現れようとしているサインとして捉え、そこに丁寧に気づきを向けていく。個人だけでなく、グループや場においても、同じように様々な声に耳を傾けるアプローチ。

トラウマと聞くと、事故や事件のような大きな出来事によるものを思い浮かべますが、日常のなかで繰り返される小さな傷つきも、トラウマにつながることがあると佐野さんは言います。

そもそもトラウマとは何なのでしょうか。それを知ることで自分自身や身近な人、ひいては社会との関わり方がどう変わるのか。一見難しそうな概念を、佐野さんと一緒にほどいていく時間を過ごしました。

【写真】笑顔でインタビューに応じるさのさん

佐野浩子さん

児童養護施設などで心理士として勤務した後、渡米しプロセスワークを本格的に学ぶ。2013年に都内に事務所をオープン。プロセスワークのセッションを行う他、2022年からは子どもや家族の声を児童福祉の中心に据える取り組み「ラップアラウンド」に関わる。

心に傷を残すきっかけは、日常のいたるところに

——はじめに、佐野さんが心理領域の仕事に携わるようになった経緯を教えてください。

小学生のときに転校していじめに遭って、それがとても苦しかったんです。その記憶があったからでしょうね。中学生のころ、新聞で「心理カウンセラー」という仕事を知って記事を切り抜いておいたんです。大学は迷わず心理学科を選びました。

大学院を出てからは、スクールカウンセラーや児童養護施設の職員として、親からの虐待などを理由に、家庭で暮らせない子どもたちと過ごしてきました。これを一生の仕事にするのだと思っていたのですが、あるとき燃え尽きてしまい、一度この道を離れたんです。

39歳のとき、プロセスワークを学び直そうとアメリカへ渡りました。現地の研究所では、戦争の影響を受けた家族のトラウマを扱うセッションを見て、圧倒されました。

私が幼い頃には、街に復員兵が溢れていて、街角で寄付を募っていました。その姿を見て「戦争はどうしてなくならないんだろう」と思ってきました。プロセスワークは、社会的なテーマを心理学的な立場から取り扱うので、とても心惹かれました。それが今の仕事につながっています。

【写真】手振りを交えて話すさのさん

——そもそもトラウマとは、どのようなものなのでしょう。

生命を脅かすような、あるいは圧倒的・衝撃的な体験により、それがその人の身体的、感情的、精神的、社会的な機能、あるいはその人のありように永続的に悪影響を及ぼすこと。一つの、または一連の出来事や状況から生じます。 

引き金になる出来事は、大きく3つに分けられます。1つ目は「力の濫用(Abuse)」に関わること。心理的・身体的・性的な虐待や暴力、自分の目の前での暴力、いじめ、サイバーハラスメント、施設内虐待などです。

2つ目は「喪失(Loss)」に関わること。死やネグレクト、見捨てられること、離別のほか、自然災害や事故、テロ、戦争も含まれます。

そして3つ目が、長期的なストレスです。貧困や人種差別、手術などの侵入的医療、コミュニティのトラウマ、世代間で受け継がれるトラウマ、薬物依存などが挙げられます。

※米国・シアトルの若者支援団体 EnRoute が2019年に公開したトラウマ研修資料をもとに、佐野浩子さん訳。

過去に恐怖を感じた状況と似た場面に出会うと、今ここで同じことが起きているわけではなくても、心や身体が反応し、身を守るための反応が起きる。いわば状況を生き延びるために身につけたパターンが、脳や神経の反応として残ってしまうのだと捉えています。

——生き延びるための反応が、その後も続いてしまうのですね。

きっかけとなる出来事が一度だけの「単発トラウマ」なら、時間とともに癒されていくケースは多いと言われています。およそ70%の人が生涯で一度は単発トラウマを受けるという調査もあります。多くの人が、トラウマと、そしてそこからの回復を経験しているんです。

一方で、状況が変わっても長く続くトラウマもあります。

一つは、「発達性トラウマ」です。これは、児童虐待(身体への暴力、ネグレクト、心を傷つける言動、性的な暴力など)に晒され続けたケースは、影響が長く続きやすいと言えます。

もう一つは、差別を受ける立場の人が日常的に浴びせ続けられる「マイクロアグレッション」たとえばSNSなどでヘイトスピーチを耳にしたり、心ない言葉が飛び交うことを見ることもトラウマにつながります。

さらに災害や戦災、感染症のように、集団で受けるトラウマも癒えるのに時間がかかります。

※マイクロアグレッションとは、思い込みや偏見に基づく言動で、相手を傷つけること。日常の何気ない言葉や態度の中に含まれ、発した本人に悪意がない場合も多い。

【写真】事務所「Presence Bloom」の室内にあるピアノ

——トラウマと一言でいっても、きっかけはさまざまなのですね。

トラウマと聞くと、大きな事故や事件によるものをイメージする方が多いかと思います。でも実際には、心に傷を残すきっかけはもっと幅広い。目に見えないだけで、日常の色々なところに転がっているものなんです。

——心身に強い負荷がかかるという点で、「ストレス」とも似た概念なのでしょうか?

トラウマという言葉をストレスに置き換えたらどうかと提案する専門家の方もいて、私も一理あると思っています。ストレスのほうが馴染みのある言葉ですし、自分の身に起きていることとして受け止めやすいですよね。

ただ以前、トラウマを負ってこられた方に話したら「ストレスという言葉に言い換えられると、自分の体験が軽くなった気がする」と言われたんです。なので今は、ストレスとトラウマをはっきりと分けるのではなく、一つの連続体、グレーゾーンにあるものとして捉えるのがいいのかなと思っています。そうすれば、その方が感じている重さに合わせて受け止めやすくなるように思うんです。

——トラウマによって起こる反応には、どのようなものがあるのでしょうか。

単発のトラウマの場合、大きく4つの反応があります。

1つ目は思い出したくないのにフラッシュバックや悪夢として体験が蘇ってくる「再体験」。2つ目は辛い記憶を呼び起こす場所や状況を避ける「回避」です。3つ目は、閉じこもったり、鬱っぽくなったりする「認知や気分の変化」。最後に脳のスイッチが入ったままになり、眠れなくなったり日中も戦闘モードが続いたりする「過覚醒」です。

こうした反応は日常のなかで多種多様な形で現れます。忙しくし続けて止まれない、買い物や過食などの衝動的な行動をとってしまう、同じことを頭のなかで考え続けてしまう。一見トラウマとは結びつかない振る舞いにもトラウマの影響が隠れている場合もあります。

トラウマになる出来事を繰り返し受けてきた方の場合、「自己の喪失」を経験される方も多いです。自分が何を感じているのかわからない、感じていてもうまく表現できない。人と話していると気づけば相手に合わせてしまうといった反応が現れます。危険な状況が繰り返されるなかで相手に合わせることで乗り越えてきたからこそ、自分の感情がだんだんわからなくなってしまうんですね。

いずれの場合も共通しているのは生き延びるための反応だったということです。かつて恐怖や不安から守ってくれた反応が、状況が変わった後も続き、その人を悩ませてしまうんです。

力のない存在だと捉えない。トラウマケアと回復のかたち

——こうしたトラウマに、佐野さんはどのように向き合い、ケアをしていくのでしょうか。

多くの場合は、対話をしながら進めていきます。たとえば、日常の出来事から、その時どんなことが心の中で起こっていたのかを振り返ってみる。反応の出どころを一緒に探ってみたり。眠れない、寝付けないという方には、「ソマティック・エクスペリエンス」という、体の声を聞きながら神経を落ち着かせていくワークを用いたりします。

手法はさまざまですが、常に大事にしている考え方はあります。それは、相手を決して力のない存在だと捉えないこと。トラウマは、その人なりに状況に対処してきた結果でもあります。恐怖や不安を伴う状況を生き延びてきたこと自体、その人のもつ力を示しています。なので、ちゃんと対処してこられた部分も、生き延びてこられた部分もある。そういう一人の人として関わるようにしています。

【写真】インタビューを受けているさのさん

——そうした捉え方の背景には「トラウマ・インフォームド・ケア」という考え方があると伺いました。どのようなものなのでしょうか。

これまでトラウマの視点で見ていなかった行動を「トラウマから来ているのかもしれない」と捉え直すことで、見え方を変えていく考え方です。

たとえばアルコール依存症や非行をした人たち。これまでは周囲に「あいつはダメだ」とレッテルを貼られたり「性格の問題だ」「意志が弱い」とされたりしてきました。

でも「トラウマがそうさせたかもしれない」と新しい視点が入ると、困った人ではなく、つらい状況をその人なりに生き延びてきた人として見えてくる。すると、その人への理解の仕方が変わってくるのです。

——そうしたケアを通して、トラウマを受けた人の回復はどういう形で現れるのでしょう。

「回復」というイメージは、人によって様々だと思います。私のところにいらした方のなかには、トラウマ反応が消えたという方もいらっしゃいますが、「起きてほしくはなかったけど、自分の人生の一部と今は思える」という人もいらっしゃいます。

私が長いこと関わった方のお一人は、生まれてからずっと虐待的な環境のなかで生き延びて、様々な症状を抱えていらっしゃいました。特にそのなかでも「自己喪失」、つまり自分自身がよくわからなくなっている状態でした。

セッションを重ねて、自分自身のなかの様々な部分に開かれるうちに、「これは嫌だ」など、少しずつ自分が何を感じているかを大事にしながら人と関われるようになりました。

セッションが終わって数年後に、「親はいまだに色々問題を起こすけど、今はもう”私”というものがあるから大丈夫」とお手紙をくれました。

自分がない状態から、自分が”ある”という状態になった。それがこの方の回復の姿だったのだと思います。

自分のために、身近な人のために。日常でできるトラウマケア

——トラウマによる反応に対して、自分で実践できるケアもあるのでしょうか?

日常的にできるケアの方法はたくさんあります。

まず、とっさのときに役立つのが呼吸です。ただ「1、2、1、2」と数えながら呼吸するだけでも落ち着くまでの時間をやり過ごせます。

ぬいぐるみやタオル、温かい飲み物など、安心できるものを身近に置いておくのもいいですね。心臓がドキドキしたら心臓に、お腹が痛くなったらお腹にそっと手を当てる。自分の体に触れて感じるだけでも、反応は和らぐはずです。

また、自分を支えてくれる歌を見つけるのもおすすめです。好きなアーティストの曲でもいいですし、自分で歌詞を書いてみるのもいいと思います。

何より大切なのは、自分にとって安全で安心できる環境に身を置くことです。簡単ではありませんが、もし職場や学校などで恐怖や不安を感じる状況が続くなら、環境そのものを変えることも考えてみてほしいです。

【写真】トラウマケアについて話すさのさん

——もう少し踏み込んで、自分の傷つきを和らげるようなワークもあるのでしょうか。

「癒し手を見つける」というワークがあります。これは小さな傷つきを扱うものですから、一人で行ってもらっても大丈夫です。

まずは目を閉じて、意識を自分の内側に向けます。そのうえで、あなたを否定せず理解してくれる人を思い浮かべる。これを仮に「癒し手」と呼びます。たとえ自分や周りが「あれは自分が悪かった」と思うようなことでも「何か大事な思いがあったんだよ」とわかってくれる人です。

友人や家族でもいいですし、映画やアニメの登場人物、あなたの「推し」でもいい。もちろん自分自身でもいいです。一人を選んで、その人と向かい合って椅子に座っている様子を思い浮かべ、名前を紙にメモします。

それから最近あった小さな傷つきを一つ思い出し、引き金になった出来事と受けた影響を、自分にだけわかる言葉で書き留めておきます。

——書き留めたあとは、どうするのでしょう。

癒し手が目の前にいると思い描けたら、今度は椅子から立ち上がり、癒し手のなかに入っていくように、椅子の前に立ってみる。そして癒し手の目から、さっきまで座っていた自分を見てみます。すると、自分はどんなふうに見えるでしょうか。

最後に、癒し手だったら自分にどんな言葉をかけ、何をするかを思い描いて、書き留めます。その言葉をかけられたとき、自分の体がどう変わるかを確かめ、感覚をゆっくりと味わってみてください。

——感覚を味わうこと自体が、癒しになりそうですね。

おっしゃるとおりです。また、癒し手の目から見ることで、自分がどんな傷つきを感じていたのかに、あらためて気づけることがあります。自分ではただ落ち込んでいただけの出来事にも、何か大事な思いがあったとわかるかもしれません。

【写真】インタビューに使用した椅子とテーブル

——ここまで自分でできるケアの話を伺いましたが、専門家を頼ったほうがいい場面はありますか?

「こういう症状が出たら専門家へ」とは、なかなか言いづらいですね。自分のことを一番わかっているのは本人ですし、トラウマは人に話すこと自体がとても難しい。専門家を訪ねるハードルが高いと思います。

何か言えるとすれば、エネルギーが残っているうちに一度試しにカウンセリングに行ってみるなど、専門家を頼ってみてほしいですね。症状が悪化して気力が落ちてから、新しい人に会って話を聞いてもらい「思っていたのと違った」となるのは辛いですから。

加えて、自分を責める内なる声——「自己批判者」に乗っ取られているようなときは、注意が必要です。深いトラウマを受けた人は、自分に対して優しくする部分がなかなか出てくることができず、自らを傷つける部分に動かされてしまうことがあります。そういう時には、専門家の力を借りることを考えてみてほしいです。

——身近な人にケアが必要だと感じたとき、専門家ではない立場からはどう関わるのがよいのでしょうか。

まず大事なのは、よかれと思って一人で抱え込まないこと。「大変な状況だから、話を聞いてあげなきゃ、癒してあげなきゃ」と背負い込んでしまう。あなたの優しさから出てきていることかもしれませんが、聞いていて自分もつらいと感じたら「一緒に専門家に話を聞いてみよう」と提案してもいいと思います。それが結果的に相手のためになることもあります。

また、自分がどう関わるかによって相手の反応も変わります。ですから「自分はどう関わろうとしているだろう」と自身に目を向けることも大事だと思います。「この人はトラウマがあるんだ」と相手を見立てた瞬間に、支援する側とされる側、助ける人と助けられる人、という上下関係が生まれてしまうからです。

——「あの人はトラウマを抱えているから」とレッテルを貼ってしまっていないか、気をつけるのも大切ですね。

おっしゃるとおり「あの人はトラウマがある」と捉えてしまうと、それ以外の側面が見えづらくなり、結果的に、その人自身のもつ力を見落としてしまう可能性もあります。

何かがうまくできなかったときに「傷ついてきた自分が、こういう反応をしたんだ」と認めてあげられると、少しだけ自分に優しくなれる。同じように身近な誰かのことも「辛い状況を生き延びてきた、力のある人」として向き合えるようになる。トラウマという視点は、誰かを裁くためではなく、自分や相手を信じるために使ってほしいんです。

世代を越えて伝わる、社会と地続きのトラウマ

——ここまでは、一人ひとりの抱えるトラウマについてお聞きしました。先ほど、災害や戦争、感染症のように「集団で受けるトラウマ」もあるとお話しされていましたよね。詳しく教えていただけますか?

コレクティブトラウマというのは、大きな災害や戦争、感染症の流行のように、ある民族や地域といった集団で受けるものを指します。そして、コミュニティのルールが作られたり、それまでのあり方が変わったりと、コミュニティのシステムにも変化が起きる。

個別のトラウマとの違いは、支え手がいるか、支え手の余裕があるかどうかです。コレクティブトラウマのときは、その集団みんなが同じトラウマを抱えている可能性があるため、周りも余裕をなくし、疲れ果てている。相談しても受け止めてもらえず、コミュニティそのものの基盤が余裕を無くしている。

トラウマは受けたこと自体よりも、その後どう対処されたかが、回復を大きく左右するからです。守ってくれる人や信頼できる大人が動いてくれれば、人への信頼はつなぎ留められる。でもコレクティブトラウマでは、コミュニティのなかで、みんなが傷ついているために、「支える余裕」をコミュニティとして失ってしまうのです。

【写真】視線を下に向けて話すさのさん

——世代を越えて伝わっていくこともあるのでしょうか。

「トラウマの世代間伝達」と言われます。たとえば、最近では『父と私と家族のこと』という映画が公開されました。そこでは第二次世界大戦で、戦地で人を殺めた兵士が、日本に帰還してから家のなかで暴力を振るい、それが子どもや孫にどう影響したかが描かれています。

また、精神科医の蟻塚亮二先生は、沖縄戦でのトラウマが、80年経った今も影響を及ぼし続けていることについて本を書いていらっしゃいます。

また、ホロコーストを生き延びた人とその子ども世代を調べた研究では、トラウマの影響が生物学的に受け継がれる可能性が指摘されています。

私たちもまた、第二次世界大戦の影響を、何らかの形で受けているのかもしれない。今起きている様々な社会問題の背景に、癒されていない過去のトラウマが関わっているのかもしれない。トラウマ・インフォームドな視点を持つと、個人や社会の見え方も変わってくるように思います。

力が湧いてくる可能性を、一緒に信じて変化を待つ

——最後に、今まさに苦しみを感じている方へ伝えたい言葉を伺えますか。

今、深く苦しんでいる人は、「自分は無力だ」「もう何もできない」と思っているかもしれません。でも、それこそがトラウマの症状の一つなんです。無力な感覚に陥ってしまう。

けれど、プロセスワークでは、変化は必ず起こると考えます。必ず力が湧いてくるときがある。今は気づけていないだけで、もう力をもっているのかもしれない。私はその力を信じて、変化が起きるのを一緒に待ち続けたいと考えています。だから「その可能性を、ちょっと一緒に信じてみませんか」と声をかけたいですね。

【写真】笑顔を見せるさのさん

トラウマとは何かという問いから、自分へのケアや身近な人との関わり、そして社会に残る傷へと広がっていった佐野さんとの時間。お話を聞きながら、夜ごと思い出しては落ち込んでいた反応の見え方が少しずつ変わる気がしてきました。

頭が真っ白になってしまうのも、必要以上に愛想よく振る舞ってしまうのも、傷ついてきた自分が生き延びるために働かせてきた力の跡なのかもしれない。変えようと躍起になる前に、まずは理解してみる。トラウマのレンズは自分を責めるためではなく、自分の力に気づくためにも使えるものなのだと感じます。

このレンズは、周囲にも向けられるはずです。自分には理解が難しい他者の言動や振る舞いに触れたとき、相手をジャッジするのではなく、「何らかの状況を生き延びるためだったのかもしれない」と相手の背景を想像してみる。そうすることで、身近な人との関わりや、社会のなかで起きている摩擦や葛藤との関わり方も変わっていくかもしれません。

きっとまた、布団のなかで反省会を開いてしまう夜もあるでしょう。そんなときは、この日の佐野さんの言葉を思い出そうと思います。心臓のあたりに、そっと手のひらを当てるのも忘れずに。

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(編集・撮影・企画・進行/工藤瑞穂、協力/瀬藤美季)