
6月初頭、ある日曜日。海開き前の稲毛海浜公園は、見事なまでの曇天にもかかわらず、多くの人々でにぎわっていました。
海岸に集う人たちは、本当にさまざま。家族連れや若者のグループ、犬を連れた人たちなどが、写真を撮ったり、走り回ったり、波打ち際で遊んだりと思い思いに過ごしています。

公園の桟橋のすぐ近くには、細長い青いマットが敷かれていました。近づくと、そこには「誰でもビーチ」と書かれた看板が。立ち止まって看板を眺める人もいれば、ベビーカーや犬を乗せたカートでマットを通ってみる人もいて、反応はさまざまです。

それでも、多くの人は看板やマットを特別なものとして意識することなく、ごく自然にその上を歩いたり、横切ったりしていきます。マットが違和感なく海辺の風景に溶け込んでいるのです。
ここは、「来ようかな」と思ったらいつでも来られる場所。「来ちゃったー!」「お、来た来た」ってフラットにいられるんですよね。
そう話してくれたのは、この日「誰でもビーチ」を訪れていた、障害のある子どもとそのご家族です。砂浜に敷かれたマットを利用しながら、それぞれ思い思いに海での時間を楽しんでいました。
一人旅が好きな私は、日ごろ予定を立てず時間も決めず、あちこちに足を運んでいます。でも、それが当たり前のことではなく、恵まれた趣味だというのは、ほとんど意識したことがありませんでした。
けれど、砂浜では、車椅子やベビーカーを利用する人、歩くことに難しさのある人は、思うように前へ進むことができません。そのため、「海へ行こう」と思っても、海へたどり着くこと自体が大きなハードルになることがあります。
この「誰でもビーチ」は、障害や病気、年齢に関係なく、誰もが海へのお出かけを楽しめることを目指して生まれた場です。
砂浜には、車椅子やベビーカー、バギーでも波打ち際まで移動できる特殊なマット「モビマット(Mobi-mat®)」が敷かれ、水辺では砂浜や海に入るための水陸両用車椅子「モビチェア」が用意されています。さらに、海浜公園で開かれるさまざまなイベントとも連携しながら、多くの人が海を楽しめる場づくりが行われているそう。

でも、私が現地でもっとも印象深く感じたのは、そうした物理的な環境だけではありませんでした。
目の前に広がる空と海。砂浜に流れる笑い声や音楽。そして、屈託なく笑う西田匡吾さん。NPO法人「ユニバーサル・アクセス・デザイニング」の代表であり、誰でもビーチの主催者です。
海のことを楽しそうに話し、立ち寄った人と自然に言葉を交わす姿を見ているうちに、この場所を心地よいものにしているのは、設備だけではなく、西田さんのあり方そのものなのだと感じました。
そんな西田さんと、誰でもビーチで過ごした時間について、お伝えしたいと思います。
どんな人でも砂浜を楽しめるモビマット、モビチェア

モビマットの手前で、唐揚げを片手に立っていたのが、南国風の格好をした西田匡吾さん。
隣には、アコースティックギターをもつ男性の姿があります。聞けば、最近ビーチで顔を合わせることが多く、どちらからともなく声をかけて以来、なんとなく一緒に過ごすことが多いのだとか。「名前も知らないけど仲良し。そういう人が30人くらいいます(笑)」と西田さん。
まず西田さんに、誰でもビーチにはどのような設備や工夫があるのか案内してもらいました。
誰でもビーチを構成しているのは、青い「モビマット」と、水陸両用車椅子の「モビチェア」の2つ。
モビマットは、車椅子やバギーのタイヤが砂に埋もれることなく走行できる特殊なマット。このマットが敷かれていれば、杖や歩行器ユーザー、ブーツやヒールを履いた人など、誰もが足をとられずに砂浜を進めます。

取材日は多くの方がペットカートでモビマットの上を通っていた
モビチェアは、砂浜だけでなく海に入ることができる、水陸両用の車椅子です。

西田さん:長さの異なるモビマットをつなげて、波打ち際に向けて敷いています。斜めに敷いた最初の5mは、夕日が沈む角度に合わせているんです。ただ敷くのではなく「サンセットを楽しむきっかけにしてもらいたい」という意図もありますね。
さまざまな人が自由に通ることができる誰でもビーチですが、ここを目指してやってくる人の中には、障害があって車椅子に乗っている子どもとその親御さんもいます。車椅子のお出かけにはハードルを感じやすく、行きたい場所に行けない家族も多いといいます。
西田さん:誰でもビーチって、障害がある子どもを一人で連れて来るお母さんも多いんです。シングルマザーの方もいますし、「パパはあまりお出かけは好きではない」というご家庭もあって。
障害や病気の内容もそうですけど、置かれた状況は家族や人によってさまざまですよね。でも海って、誰でも楽しみやすい場所だと思うんですよ。障害のある子どもだけじゃなくて、ママもパパも、みんなががお出かけを楽しめる場になったらいいなと思って、この活動を続けています。
現在、運営は基本的に西田さんお一人で行っています。西田さんの立ち位置は「利用者をサポートする支援者」というわけではなく、モビマットを敷き、モビチェアを準備して、ただビーチに座っているような存在なのだそう。
モビチェアを利用したいという方が来たら、西田さんがモビチェアを引いて、ライフガードの方々が常駐する夏の海水浴期間であれば海に入って、それ以外の期間は波打ち際で、ビーチを楽しむお手伝いをしています。
稲毛海浜公園で誰でもビーチを開くにあたっては、公園の管理を行う株式会社ワールドパークとも連携をとっているそう。担当者の方と相談したうえで、マルシェなどのイベントを開催するときにもモビマットを活用しているといいます。
車椅子が通りやすいだけでなく、台車を使った搬入時の芝生の養生や、お客さんへの導線づくりにも役立つため、出店者の動員にもつながっているのだとか。
西田さん:週末になるとDJイベントが開催されているんですが、いかついDJや若者たちも、車椅子の子が来ると「おう、久しぶり」と声をかけて迎えてくれます(笑)。僕が何か言ったり、間を取り持ったりすることもなく、さりげなくなじんでいますね。
この日も十分に人出が多かった稲毛海浜公園ですが、晴天だった前日は「10倍くらい人がいた」とのこと。そんな誰でもビーチは、どんな思いから生まれ、続けられているのでしょうか。ときおり気まぐれに奏でられるギターの音をBGMにしながら、砂浜で人々を迎える西田さんに、お話を聞きました。

「世の中、どんな人もいる」ことが当たり前だった
――西田さんにとって、子どものころから海やビーチは身近な存在だったんですか?
母方の実家があった茅ヶ崎は、ココナッツやサンオイルの匂いがする街でした。海岸沿いには太い道や松林があって、そこを抜けるとすぐに「わー!海だ!」みたいな感じで、この稲毛海岸も似た雰囲気があって、自分にはしっくり来たんです。時間があれば家族みんなで海に行き、レジャーシートを敷いて、持ってきたお弁当を食べて、貝殻や海藻を拾い、ひとしきり遊んで帰る。しょっちゅう遊びに行くけれど、何をするでもない。それが、自分にとっての“ビーチ”でした。
それから、我が家には両親の友達がしょっちゅう遊びにきていたんです。同年代の子たちとも遊ぶけれど、大人と遊ぶことも多かった。ありとあらゆる大人が周りにいて、「世の中、どんな人もいるな」というのが当たり前でしたね。
この「どんな人が来ても、いい意味で何も思わない」というのは、誰でもビーチにつながる原体験かもしれません。

稲毛海浜公園内にはビーチだけでなく、広大な敷地の中に芝生やプール、美術館などが併設されている
――誰でもビーチをはじめとする取り組みは、どんなふうに始まったんですか?
僕が今代表をしているユニバーサル・アクセス・デザイニングの前代表で、今も理事を務めているわたなべただひろさん(現・千葉市議会議員)が、大学時代の友人なんです。彼は筋ジストロフィーの当事者で、車椅子ユーザーです。
出会いのきっかけは、エレベーターでした。大学の授業が終わった直後、電動車椅子に乗っている彼が、満員でなかなか乗れないエレベーターを延々と待ち続けているのが目にとまって、「向こうにもエレベーターがあるよ」と声をかけたのが最初です。
その後ほかの授業で再会して、連絡を取り合う仲に。海外やフェスなど、好きなものが自分と近かったので、友達として遊ぶようになりました。

ユニバーサル・アクセス・デザイニング立ち上げ時のわたなべさんと西田さん(提供写真)
――好きなものが同じだったから、馬が合ったんですね。
そうですね。僕はおしゃれな街が好きなので、行きたいお店を見つけたら、何も考えずに彼を誘っていました。それで二人で出かけると、入口が坂道や石畳だったり、階段しかないビルの2階だったり……せっかく行っても、店に入れないことが多々あったんです。
先に調べればいい話ではあったんですが、二人とも行き当たりばったりなお出かけも好きだったので、行ってみてから「物理的に無理だな」ということが本当に多かった。行きたかったお店に入れなかったら、そこから別のお店を探してウロウロするのって、まあ面倒くさいんですよね。それが回り回って、今の活動につながっている節はあります。

砂だらけでおしゃべりしながら「当事者目線」を探る
――ユニバーサル・アクセス・デザイニングは、もともと「お出かけ」を支援する団体として始まったのでしょうか?
この団体は「ユニバーサル・アクセス」という概念を提唱していて、誰もがさまざまな機会に平等にアクセスできるような社会の実現を目指しています。
最初はわたなべさん自身の経験をベースにして、大学院などの進学に関する相談受付をするつもりだったようで、当事者や保護者からの進学相談や、学生をサポートする教員からの相談を受けていました。
その活動の中で、進学以前に「障害者はそもそも家から出ることが少ない」という現状に気づき、まずはバリアフリー調査を行うようになりました。その後、モビマットを使ったビーチでの活動をするようになってから、自分自身も活動に深く関わるようになりました。
――わたなべさんの実体験がきっかけで活動を始め、その後で西田さんが代表を引き継いだのですね。
そうですね。代表を引き継いだきっかけは、彼が市議会議員になり、多忙になったことです。NPO法人としての存続も難しいという話も出たタイミングで、僕がそれまでの仕事を辞めて代表となり、今に至ります。
――「外に出るきっかけづくり」を中心にしていた中で、ビーチでの活動を始めたきっかけはなんだったのでしょう。
湘南バリアフリーツアーセンターというNPO法人が、湘南のビーチでモビマットを敷く活動をしていたのですが、そのうち、彼らが「千葉も同じ東京湾だし、何かやりなよ」と言ってくれたんです。
それではじめてモビマットを借りたのが2017年です。何回か借りているうちに、以前NGO勤務時代に助成金を担当していた経験もあり「これ、助成金で買えるんじゃない?」と思ったのがきっかけでした。実際、うちのモビマットは2020年にラッシュジャパンからいただいた助成金で買ったものです。

――西田さんの視点は、自身も車椅子ユーザーの前代表・わたなべさんとは少し異なる部分もあるのではと思います。代表を引き継いだとき、「こんなことをしたい」というビジョンはありましたか?
意識していたのは「僕は砂だらけになろう」ということ。硬い言葉で言えば「当事者目線」みたいなことかもしれません。
ここに来てくれる人たちと実際に話さないと、彼らが何を必要としているかはわからないですよね。来てくれた人たちと、砂浜でおしゃべりしていると、ちょっとした話のなかで「こんなことができたらいいな」という思いつきが生まれます。こればかりは来ないとわからないから、とにかく僕が朝から晩まで常にここにいる。今も日々、新しい出会いがあって、そのなかで思いもよらなかった課題や目標が生まれ続けています。
――ユニバーサル・アクセス・デザイニングの活動としては、現在は誰でもビーチのほか、どのように運営されているのですか?
「ちばユニバーサル観光センター(CUTC)」という名前で、千葉県内のユニバーサル観光の支援や推進事業を担っています。自治体やイベントなどへのモビマットの貸出事業をしており、そちらが主な資金源です。
以前は組織的なイベント運営をイメージしてマネタイズしようと、寄付受付なども考えたんですが、この自然な雰囲気を維持するにあたり、かかっているお金は僕の交通費と昼食代くらい(笑)。だったら、誰でもビーチはもう「仕事とは違う枠組み」ととらえればいいのかなと、最近ようやく思えるようになったところです。
個人としては、カメラマンや英語・日本語の講師の仕事をしています。自分の生活費はそちらで稼いで、誰でもビーチのほうは休日にただ来て座っているだけ、というスタンスです。
――お住まいの埼玉県から稲毛海岸までは2時間かかるそうですね。通い続けるのは大変だと思うので、そこまでできる原動力が気になります。
よく聞かれるんですけど、愛しかないですね。友達のような存在だからできる。「あのママにこの海を見せてあげたい」というだけです。
行き帰りの電車で誰でもビーチのSNSを更新したり、いただいたメッセージに返信したりしていると、2時間はあっという間です(笑)。自分以上に何時間もかけて遠方から遊びに来るご家族もいますし、大切な友達に会いに行くような気持ちです。

西田さんの役割は「お花見の場所取りをしているお父さん」
――誰でもビーチは、海浜公園にごく当たり前になじんでいますよね。雰囲気や場をつくるうえで、意識していることはありますか?
取材に答えるためのメモをつくったとき、最初に書いたのは「ビブスを着ない」でした。次が「でしゃばらない」(笑)。
ストレッチャーに寝たきりの障害のある子どもをつれた親御さんからも、「ここは、特別じゃないのがいいの」と言われます。もし僕がビブスを着て、のぼり旗を立ててお母さんと話していたら、「あ、障害がある子の親御さんとサポートする人かな」という目で見られると思います。でも、僕がこんなふうに、唐揚げを片手に笑っていれば、「ただ海に来ている人」でしかないですよね。
専門的な支援を必要とする人がいる一方で、大掛かりな支援ではなく、「自分たちが特別視されることのない場所」を求める家族もいる。そんな人たちにとっての選択肢を増やしたいと思っています。
それに最初の何回かは、のぼり旗を立ててみたり、イベントらしくやったほうがいいのかなと試行錯誤したのですが、自分としては違和感があって。
ここにいる人たちはそれぞれ、思い思いに海辺を楽しんでいます。貝殻を拾っていたり、海を眺めたり、砂のお城を延々と作っていたり……。ストレッチャーや車椅子、歩行器を使っている子がいたとしても、その家族が「イベント参加者」ではなく、ほかの人たちと同じように「不特定多数」として、いつもの海の風景を過ごせるのを当たり前にしたいと考えています。

車椅子で訪れた方もモビチェアに乗り換えて、ビーチを楽しむことができる
――西田さんとお話ししていると、インタビューというより、なんだか「楽しくおしゃべりしている」という感覚です(笑)。それもまた、西田さんのお人柄や、自然体なスタイルがなせる技だと感じています。
僕のスタンスを一言で表すならば「お花見のときのお父さん」。桜が綺麗に見える場所にレジャーシートを敷いて、「場所取りをしておいたから!」と手を振っているお父さんのイメージです。みんなでお花見をするにあたって、公園に詳しい僕が「じゃあ先に場所をとっておくよ」みたいな感じですね。
もう一つ近いのは、「ディズニーランドに詳しい友達」かな。パークを外から見るだけじゃなく、何度も足を運んでいる人だからこそ「この店はこう」「このアトラクションはこう」といった楽しみ方がわかりますよね。一つの正解があるわけではなく、その人に合わせて提案して、その日の気分でどうするか決める。そんなふうに、「友達が来るから案内する」というスタンスです。

稲毛海浜公園内の段差が少ない飲食店。西田さんはこうした情報を案内することもあるそう
――特別なことはせず、あくまで友達に対する接し方なのですね。
根本には、「子どもに必要なことは保護者がいちばんわかっている」という思いがあります。障害がある子どものご自宅にはたくさんの装備があるはずなので、必要なものをこっちで揃えるよりも、普段から使い慣れているものを保護者に持ってきてもらったほうがいい。
僕がやるのは、「ここはこんな環境だよ」と伝えるだけです。それさえ伝えれば、あとはみんな、自分たちなりの過ごし方を見つけていけると思っています。
誰でもビーチに初めて来る人は、「海ってどんなところだっけ」と思い出すところから始まります。親御さん自身が、障害がある子どもが生まれてから海には行ってないことが多い。だから、海に来ると「レジャーシートを持ってこなかった!」「替えのパンツを忘れてきた!」みたいなことになるんです(笑)。
でも、一度ここに来れば、海がどんな場所だったかを思い出せます。そして、「次はこうしよう」と思えますよね。そんなふうにニヤニヤしてほしくて、自分にできることを考えています。

車椅子からモビチェアに乗り換えて、数年ぶりだという海を楽しむ方も
「ハードルが高かった海に、こんなに簡単に来られるなんて!」
実際にビーチを訪れる人たちは、西田さんとの友達同士のようなコミュニケーションを楽しんだり、波打ち際に近寄ってみたりと、思い思いの過ごし方をしています。この日、誰でもビーチにやってきた人たちにも話を聞きました。

一組目の3人家族は、お子さんに障害があり、車椅子に乗っていました。西田さんと親しく話す様子に「よく来るんですか?」と声をかけたところ、なんとこの日が初めての訪問だったそう。
ずっと来たいと思っていて、今日ようやく来られました。海ってもうちょっと冷たいのかと思ったら、ぬるいんですね。海はなかなかハードというか、家族で来られるところじゃないと思っていました。それが、この公園は環境が整っていて、「だれでもトイレ」もあるのがうれしいです。こんなに簡単に来られるんだったら、また遊びに来たいですね。

稲毛海浜公園の多目的トイレにはオストメイト対応設備やユニバーサルシート(大人用ベッド)が備わっている
次に訪れたのは、西田さんいわく「僕が主催する場にしょっちゅう来てくれている」というご家族。お子さんのうちの一人に障害があり、車椅子を使っています。お父さんは子どもと一緒に誰でもビーチのピクニック企画に参加することもあるそうで、この日は家族4人で遊びにきていました。
砂浜って、車椅子にとってはハードルが高いんです。抱っこで行っても砂で汚れるし、大変なんですよね。でも、モビマットを敷いているんだったら行こうかなって。
この日の朝、西田さんのInstagramでの告知を見て、遠方から3時間かけてやってきたそうで、西田さんの作る場だけでなく、人柄にも魅力を感じているそうです。

この日ご家族はモビマット上で車椅子を押して、何度も海岸を行き来していました
西やん(西田さん)って、誰にでもフラットなんです。我が家は割とフットワークが軽く、あちこちに出かけますが、どこかで少し迷惑をかけているというか、誰かにお手伝いいただかないといけないタイミングが多い。だから、普段は「お邪魔します」みたいな感じで行くんですよ。それが、ここだと「お邪魔します」と言う前に、西やんが「ああ!来た来た!」と迎えてくれるので、こっちも「来ちゃったー!」って言える。それは西やんの魅力ですよね。
僕がいなくても、家族だけで楽しめるようになっていってほしい
――利用者さんのお話を聞くと、「助けてあげよう」というのではなく、西田さん自身の人柄や関係性を含め、家族が安心して楽しめるヒントを出しているのだなと感じます。一方で、利用者さんによっては手助けが必要になる場面もあるのではないかと思いますが、その線引きについてはどう捉えていますか?
それで言うと、一人できょうだい(障害がある当事者の兄弟姉妹)を連れてくるママが少なくないんですよね。車椅子の子と、動き回るきょうだいがいるときに、「僕がこの子とおしゃべりしてるから」と言って片方を見ることはあります。でも、それは子どもを預かるサービスのような支援ではなく、単に誰かしら人手があったほうがいいからという程度の話です。
それから、時間があれば、海浜公園内の施設をよく案内しています。多目的トイレや過ごしやすいカフェ、駐車料金の減免手続きなどなど、一緒に回ることで、次からはもっと安心して過ごせるかなと思って。
せっかくだから、ママ自身に海を楽しんでもらいたいんです。稲毛の海は間違いなく「また来たい」と思える場所だから、「次来たときはこうしよう」とニヤニヤしてもらいたい。そのためにできることをやっている、という感じです。

――先ほどのご家族が、「海に出かけるのはハードルが高い」とお話ししていました。海以外でも「お出かけ」にハードルを感じる人はいるのではないかと思います。
Instagramで寄せられたそうしたメッセージがきっかけで、「誰でもビーチ的お出かけ」という活動も行っています。「行きたいけれどなかなか行けない」「今後は家族で行けるようになりたい」と思う場所に、1~2組の家族と僕とで一緒に出かける活動で、一組1,000円程度の参加費を寄付としていただいています。
おしゃれな街に自分たちだけでいきなり行くのは大変だけれど、僕はお店を知っているし、「こっちの道のほうが歩きやすい」とかがわかっているから、「家族だけで出かける前に、みんなで一緒に下見してみない?」というスタンス。昔からおしゃれな街でよく遊んでいて、気になるお店のリストを作っていたものの、それがこういう形で活かせるとは思ってもいませんでした。
――西田さん自身が行ったことのあるスポットを紹介してもらえるのは、家族にとってもきっと心強いですね! お出かけに欠かせない設備や、ユニバーサルな場を見つけるコツはあるのでしょうか?
設備でいうと、障害のある子と出かけるときには「ユニバーサルシート(※)」の場所を知っていると安心です。なので、プライベートで出かけているときも、ユニバーサルシートがありそうな気配を感じると、思わず多目的トイレをチェックしに行ったりしてしまいます。でも、ユニバーサルシートが街のあちこちにあるわけではないですし、ユニバーサルシートがあると言っても、トイレであることには変わりないですし。
ユニバーサルシートは、言い換えれば「着替えとゴロンができる場所」です。だから僕はいつも、ソファ席・ベンチ席があるお店や、畳の空間などがある場所を探します。ただ、お店の人が「大丈夫です」と言ってくれれば、その場でゴロンも着替えもできるので、それで十分なこともあると思います。
※ユニバーサルシート:多機能・バリアフリートイレ内に設置される、大人が横になれるサイズや強度の大型折りたたみ式ベッド。
誰でも、いつでもビーチを楽しめるように
――ビーチもお出かけも、西田さんの活動では「誰でもお出かけを楽しめるように」というゴールに向けてさまざまな試行錯誤を繰り返しているのですね。ビーチの名前にも入っていますが、この“誰でも”は、具体的にはどんなイメージですか?
まず障害という意味では、病名や症状を問わず「誰でも」です。それだけでなく、たとえば色を識別できない人にもサンセットの美しさをわかってほしい。そのためにはどうしたらいいのかと考えたりもします。
さらには、おしゃれなヒールを履いた子、ローファーで走り回る高校生、家族の荷物をカートで引きずるお父さん……と、挙げればきりがないです。本当に「ありとあらゆる誰でも」ですね。
――「誰でも」に加え、ビーチは特別なイベントではなく、「いつでも」開催されているのも大きな特徴のように思います。
バリアフリービーチの多くは、夏にイベントとして開催されます。お子さんによっては、暑くて体温調整が難しいとか、自閉症のお子さんなど人混みが苦手だから刺激が少ない時期がいいとか、参加にあたっていろいろなハードルがありますよね。そういうことを気にせず、「来ようかな」と思ったタイミングで来てほしいという思いがあります。
もちろん、夏のイベントが好きな人もいますから、そこは好みに合わせて選んでもらえればいいと思っています。あくまでも、数あるビーチの選択肢の一つとして、誰でもビーチを提供できればなと。

――誰でもビーチを始めてから、西田さん自身には何か変化がありましたか?
西田:どんどん、本来の自分らしくなっていると感じています。それは、今のこの状況が、自分の好きなことをやり続けた結果だから。単純に自分が好きでやってきたことが、誰かの可能性につながっている……これって幸せですよね。
一方で、障害のある子やそのママは、「うちの子はこんな障害です」「これができません」からスタートしがちです。“自分”について語るときに、どうしても話の一言目がそれになりやすい。誰しも「自分らしさ」を考えると思うんですけど、そのことに、ずっとモヤッとしていて。
でも、このビーチに来る人たちは、もはや「障害児の保護者」ではありません。単純に、海が好きで来ている人。海が好きなパパやママがお子さんを連れていて、その子がたまたま車椅子やバギーに乗っているというだけです。そんなふうに「障害」じゃない側面が出てくると、次のステージに進んだなという感じがします。
ビーチもお出かけもそうですが、障害のある子どもと家族に関わる場面では「できる」「できない」の二択で、「できるようにしなきゃ」となりがちです。でも、病気の進行などによって「じゃあ来年の夏来ます」と言えない人もいる。その事実がいつも胸にあって。だから、いつでも来られて「来週来ます」と言ってもらいたい。
時間や手間をかけて「できる」ようにすることも応援するけど、今の「できない」状態のままで、ありのままで楽しめることもあるよと伝えることを、まず優先したいという気持ちです。
最終目標は、僕が手助けをしなくても、家族が今のままで楽しめるようになること。何度も僕と一緒にお出かけするというよりは、卒業していってほしいと思っています。究極的には、誰でもビーチも開催しなくてすむようになったら最高です。

誰でもビーチを訪れる前は、「車椅子でも砂浜を通りやすいなんて、どんなすごいマットなんだろう」と、モビマットそのものに関心をもっていました。けれど実際に訪れて感じたのは、あまりにも当たり前に西田さんがいて、マットはただ敷いてあるだけだということ。
障害のある子や家族も、そうでない家族や若者たちと同じようにそこにいて、思い思いに楽しんでいました。
障害があることや、車椅子を利用していることで配慮が必要な場面は、もちろんあります。一方で、西田さんの在り方が教えてくれたのは「ただそこにいる」という寄り添い方でした。
障害の有無だけでなく、性別や年齢、国籍も違う人たちが、同じ海で思い思いに過ごす。そんな稲毛海浜公園や誰でもビーチに、私自身もまた足を運びたいと思いました。次は晴れた日に、マットの先へと沈む夕日を見てみたいです。

(執筆/湖東沙耶、編集/工藤瑞穂、撮影・企画・進行/松本綾香)
