【写真】笑顔で立っているあづみさん

こんにちは!安積沙矢(あづみさや)です。

私は中学生2人の子どもの子育てをしながら、以前soarにも掲載された、神戸にある介護付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん(以下、はっぴーの家)」で、介護のお仕事をしています。はっぴーの家は一般的な高齢者施設とは異なり、入居者だけでなく地域の人など誰もが集まって自由に過ごす場所。毎日笑顔に囲まれながら、楽しく働くことができています。

私は3年ほど前に、人混みの中で目が回るような感覚になったり、めまいが頻繁に起こるようになり、メニエール病の診断を受けました。メニエール病は原因不明の病気で、私が経験しためまいの他にも、難聴や耳鳴りが起こる場合もあるそうです。

今でも症状が出ることがありますが、治療を続けながら仕事や家事をしています。また症状が辛かった時期からイラストを描くようになり、今も「イラストを描くこと」が私の生活を支えていると感じています。

今回は寝たきりの状態から現在に至るまでのこと、メニエール病との付き合い方や、私が見つけた自分らしい表現について、お伝えしたいと思います。

電車で突然ひどいめまいが。メニエール病の診断を受ける

【写真】真剣な表情でインタビューに答えるあづみさん

メニエール病の症状が出始めたのは2016年、35歳の頃でした。最初に異変を感じたのは、子どもの小学校の行事のために電車で移動している時。

突然、フラッとめまいがして、電車から降りなくてはならないほど気分が悪くなってしまったのです。すぐに病院へ行きましたが、その時は医師から「貧血かもしれないね」と言われた程度でした。

ですがまた別の日、同じように電車の中でフラつきを感じたのです。怖くなった私は急いで電車を降り休みましたが、おさまらず……。

次第に家で家事をしていてもフラつくようになり、ー日中船の上にいるような、常に気分が悪い状態になっていきます。それでも原因不明だったので、治療を受けることはできないまま寝込む日が続き、寝ていても目が回るようにまでなってしまいました。

そして外出すら難しい中どうにかもう一度病院へ行き、ついにメニエール病と診断を受けたのです。

メニエール病は一般的に、回転性のめまいが30分から数時間も続いたり、めまいに連動して耳鳴りや難聴などの症状を併発することがあると言われています。私の場合めまい以外にも耳鳴り、頭痛、吐き気などを感じていました。

また電車や車に乗ると息苦しくなる症状を伝えたところ、動悸や呼吸困難などのパニック発作が突然起こる「パニック障害」の診断も同時に伝えられました。

私はこれから、どうしていけばいいんだろう。

メニエール病は、名前だけうっすら聞いたことがあったものの、症状を知ったのはこの時が初めて。さらに私は離婚をし、シングルマザーとして子育てをしていたので、自分だけでなく子どもの生活にも影響が出ることを想像しました。

原因不明の症状に名前がついたことに納得はしたものの、不安でいっぱいでした。

頭痛、吐き気、グルグルと目が回るなどの症状が一日中続く

医師には薬を処方してもらいましたが、気分が悪くて飲む事すらできず、立っているのがつらいので家事もできません。この頃は、布団とトイレを這って住復するだけの日が、どんどん増えていきました。

【写真】当時のことを思い出し、少し辛そうな表情のあづみさん

症状のつらさ、何もできないことへの焦り、そして子どもや周囲の人たちへの申し訳なさ…あらゆる感情に押しつぶされそうな気持ちでした。

症状がひどい時は、子どもたちを布団の中から「行ってらっしゃい」と見送って、そのまま布団の中で「おかえり」と迎える日もあったほど。グルグル回る天上を見ながら、ただひたすら木目を数えて終わる日や、頭痛と吐き気がひどすぎてトイレで一日を過ごす日もありました。

どうしたらこのトンネルから抜け出せるようになるんだろう。

涙を流しながら毎日考えていました。

子どもたちや両親、友人に支えてもらった日々

私も相当辛かったですが、当時小学生だった子どもたち2人も、毎日弱っていく母親を見るのはすごく辛かったと思います。

動けなかった時、子どもたちは遊びたい盛りなのに文句も言わずに、大半の家事をしてくれていました。すごく支えてもらいましたし、子どもたちがいなかったら生活できなかったと思います。

私は申し訳ない気持ちから、子どもが家にいる間は無理して座っておこうとか、何か用事している振りをして、少しでも元気に見せていました。

ですが子どもはそんな私の気持ちを察しているのか、「(そんなことしなくて)いいよ」といった様子で変わらず接してくれていたんです。

そんな子どもたちに私は、日頃から簡単な手紙を書いて渡すことがあります。これは字を書く機会が減っているからこそ、ありがとうを伝えたいときや、照れ臭くて直接は言えないとき、手書きで想いを伝えたいと始めたこと。

メニエール病で寝込んでいた時も、「〇〇を買ってきてほしい」と書いたメモ書きに、ありがとうの気持ちも加えて書いていました。

子どもからもらった返事や感謝の手紙は、何度も読み返すくらい大切にしています。当時は余裕がなく返事はできなかったけれど、今からできることでたくさん恩返しをしたいと思っています。

他にも、周囲の人にはたくさん支えてもらいました。近所に住んでいる両親や姉に困った時に手伝ってもらったり、子どもを連れ出して遊びに行ってもらったりしていました。

【写真】真剣な表情でインタビューに答えるあづみさん

そしてメニエール病がわかる前からですが、近所の人や子どものママ友からはとても親切にしてもらっていました。

メニエール病はいつ治るか全くわからない病気。それでも、「子どものために早く治さないと」と私は一人で焦っていた時がありました。そんな時あるママ友が「ゆっくりぼちぼちでいいんじゃない?」と言ってくれたことが、強く心に残っています。

他にも人と会話をする気力がないとき、メールの返信すら難しいことがありました。そんな時も「返さなくても見なくてもいい。調子があるときにできることをすればいいよ」という前提で、ママ友がメールを入れてくれていたんです。

私の症状を配慮したコミュニケーションを取ってくれたことで、「喋らなくても伝わっているんだな」と心強く感じました。

こうして支えてくれた人たちのおかげで、辛かった時期をなんとか過ごせたと思います。

寝込んでいたからこそ生まれた「感謝」の気持ちをイラストに

何かできること探そう。

這うようにして過ごしていた日々の中で、少しでも症状が良くならないかと調べていた時でした。色々な情報に触れる中で、「意識を一点に集中するのは、心身にいい影響を与える」とインターネットでみた私は、もともと描く絵を描いたり、文字を書くことが好きだったので「やってみよう」と思ったのです。

最初はただ文字を書き続けていたのですが、気分が落ち込んでいく気がしたので、イラストをつけるようにしました。モチーフを明るいイメージにすることを意識して、例えばお花や、ニコちゃんマークを描いたり…。

やがてイラストを描いていると、夢中になって紙一面に描きたくなること、そして精神が落ち着いていることに気づきました。

さらにイラストに集中しているからか座って作業できる時間も増えて、そこから少しずつ立って行動できる時間が増え、生活が変わっていったのです。

【写真】微笑みながらインタビューに答えるあづみさん

私は症状が辛くて何もできなかった時期があったからこそ、座る、立つなどの動作や、日々のちょっとした出来事、身近な人にも感謝を感じるようになっていきました。そこで、感謝の気持ちを一つのノートにイラストや文字で表現することにしたのです。

ありがとうを伝えたい人、支えてくれた人、身近なものなどの絵を100個描き、全てに笑顔の表情を描き加えていきました。この頃は「にっこり」の顔をつけることで、私自身のテンションを上げていたようにも思います。

病気になってから辛くて笑えなかったけど、周囲に感謝して、イラストを100個描いたことで笑顔になったよ。

そんな気持ち気持ちを込めて、最後のページには笑顔の自分と、両親を描きました。

【写真】あづみさんご本人とお父さん、お母さんが笑顔で立っているイラスト

まずはーつずつ、できる事をしていこう

同じ頃、「まずはーつずつ、できる事をしていこう!」と心に決め、子どもたちが帰って来る時間に椅子に座って迎えることを目標にし始めました。さらに毎日ノートに出来たことを綴って、そこに喜びや感謝の気持ちを一緒に書いていくこともしました。

私が行動できたのは、子どもの影響が大きいと思います。もし子どもがいなくて「何かしなきゃ」と思わなかったら、私は今も寝たきりなんじゃないかなと思うくらい、子どもの存在が支えになっていました。

【写真】遠くを見つめるあづみさん

そうして、ほとんど寝たきりの生活の1年を経て、イラストを描くことに加え、家事も少しずつできるようになっていきました。

といっても本当にまだまだ“少しずつ”で、人の少ない時間を狙って近所のスーパーに出かけるも、カゴを取って、商品を入れて、レジまで行く…というところまでたどり着けず、結局諦めて何も買えずにゆっくりと帰って来くることもしばしば。

それでもとにかく少しずつ少しずつ、できること積み重ねていったのです。

「仕事ができる」喜びから周囲への感謝が生まれた

ある時家の近くにレンタルスペースがオープンし、近所の友人が「喫茶店をしているからお茶しにおいで」と誘ってくれたことがありました。以前なら自転車で5分ほどで行けた場所ですが、メニエール病になってからは自転車には乗れず、家を出て少し歩いては諦めて引き返す…ということを何度も繰り返しました。

【写真】笑顔で立っているあづみさん

日に日に歩く距離を延ばして、ようやくたどり着いたその日。偶然にも今働いている「はっぴーの家ろっけん」代表の、首藤義敬(しゅとうよしひろ)さんが喫茶店でお茶を飲んでいたのです。首藤さんは初対面でしたが私の状況を聞いてくれて、こう言いました。

ちょうど、あと何ヶ月かで近くに介護施段ができあがるよ。

介護資格を持っていた私は体調のことも忘れ、「できあがったら働かせて下さい」と頭を下げていました。すると首藤さんは「体調を整えて、ぜひ働いてもらえたら助かる」と言ってくださったんです。

その言葉が嬉しくて、この後は回復がどんどんと早まったように思います。できあがったはっぴーの家にまず通って、人と会話ができて、時間や曜日を決めて…そんな仕事ができることの喜びをまた実感させてもらえて、感謝の気持ちがどんどんと湧いてきました。

はっぴーの家にプレゼントしたイラスト(提供写真)

この時の感謝はイラストでも表現し、レンタルスペースとはっぴーの家にプレゼントさせてもらいました。その後作品をいろんな人が見てくださるようになり、お世話になった人たちへ次々プレゼントしていくうちに作品が広まり、今ではあちこちのお店に飾ってもらっています。

プレゼントしたイラストを持つ、はっぴーの家の代表首藤さんの家族(提供写真)

「はっぴーの家で働いてから、全てが変わった」無理なく楽しく働ける場所

そうしてはっぴーの家で本当に働くことになった私。オープニング当日は寝込んで参加できなかったり、初めは1〜2時間働くだけでもぐったりと疲れてしまうこともありました。

時間や曜日も、自由にしてくれたらいい。

そう言ってもらえたおかげで、体調に合わせて私のペースで仕事をすることができました。

少しずつ働く時間も増やし、今では介護の仕事全般を担当しています。介護というと大変な仕事だとイメージする人もいるかもしれませんが、はっぴーの家での仕事は笑えることも多いです。

【写真】あづみさんが高齢者の女性の食事のサポートをしている様子

はっぴーの家で安積さんが働いている様子(提供写真)

業務内容だけでなく人との関わりを大切にしているし、おじいちゃん、おばあちゃんと話をするのもすごく楽しいです。ここには入居者だけでなく、地域の人たちなどとにかく色々な人が遊びにやってきます。

イベントごとも多く、去年からは看取りも始まって、自分たちで手作りのお葬式をしたり…とにかく貴重な体験していると感じています。楽しいことがいっぱい起こるので、仕事しながらお釣りがくるなと思えるくらいです(笑)。

【写真】はっぴーの家の集合写真。子供から高齢者の方までおり、楽しそうだ

はっぴーの家で働いてから、全てが変わった。

そう思うほど、今私にとって大切な場所になっています。症状のことを含む、私のことを、皆さんに理解してもらっているので安心感があるんです。

「休んでいいよ」と言ってもらえるし、とにかく無理のないよう働かせてもらっているので、最初に思っていた「仕事だから休めない、どうしよう」という気持ちは、どんどん薄れていきました。

それでも、「頑張らなくては」と私は無理をしてしまうこともあるのですが、一緒に働くスタッフの方が、むしろ私のことを察してくれます。

例えば雨の日は気圧の変動から体調が悪くなる可能性が高いのですが、出勤できた時は、「あ、来れたんだね」と笑って声をかけてくれます。

休むかもしれない前提であらかじめ仕事を組んでくれたり、来れた場合は「来れてよかったね」と受け取ってくれるので、本当にありがたいです。

また私だけじゃなくて、スタッフの人たちが「実は私も〇〇なんだ」と自分のことをさらけ出してくれることもありました。素直に自分を出して働けること、そして笑顔の人がすごく多いので、本当にいい施設だと思っています。

【写真】はっぴーの家にいる人たちを少し離れたところから見守るあづみさん

あなたに合ったかたちの、集中できること、楽しいことを見つけてほしい

そしてメニエール病がつらかった時、100個の感謝をイラストにして描いたノートを、はっぴーの家のスタッフにも見せたことをきっかけに、本として出版されることが決まりました。

感謝の気持ちを忘れないように書き綴ったイラストですが、涙でにじんでいるぺージもあります。反対に感謝をしているとだんだんと嬉しい気持ちが湧いてきて、ニコちゃんがいっぱいいるページも。

つらかったとき、ただただ書いていたノートが、まさか後に世に出る本になる日が来るとは、思ってもいませんでした。

メニエール病を発症してから約3年になりますが、今もずっと一点集中して描く事は続けています。毎日「描く」ことが、イラストや文字で自分を表現することが、私を支えてくれているのかもしれません。

改めて作品を眺めると、病気になり何もできなくなって、気付かせてもらったことがたくさんあるなと思っています。座る、立つ、食べる、笑うなど、日常の全ては当たり前ではないということ。だからこそ今へのありがたみを知り、感謝を重ねているとハッピーな気持ちが増えてきました。

人の痛みや辛い気持ちにも、以前より共感できるようになりました。そして今、メニエール病発症前より私は、前向きに生きているように思うのです。

未だに私は電車に乗ったり、車で遠出したり、人がたくさんいる所などへ行くとドキドキします。普通にしていると、見た目では症状をわかってもらえないのも辛いところです。

自分でも、いつ、どんな時に発症するかがわからないので、約束しててもドタキャンしてしまうことも度々で、申し訳ない気持ちになる事も多いです。

人にわかってもらえない苦しさは、病気の人はもちろん、色々な人が感じること。私は話すことが苦手で、人に伝える事がうまくない分、絵で、作品で、自分を表現していこうと思ってます。

今がつらいと感じる人も、何かしらの抜け出せる方法がきっと見つかるはず。あなたに合ったかたちの、集中できること、楽しいことを見つけてもらえたら嬉しいです。

【写真】笑顔で座っているあづみさん

関連情報:
安積沙矢さん著書 『あなたにありがとう

(編集/松本綾香、写真/木村和博、企画・進行/松本綾香・佐藤みちたけ)