【写真】笑顔でこちらを見るでぃーぴーのいまいさんとライターのさとう

これから先、どうすればいいんだろう。

そんな漠然とした不安が、19歳の僕の心を包み込むことが増えた。

自分の将来のことを描いてみようと思っても全く描けない。キャンバスは常に真っ白。このままではいけないと思っていてもどうすることもできない。無力感に侵されながら布団に入り眠る日々ーー。

高校生の頃はただひたすらに人間関係に悩んでいた。クラスメイトに合わせて、自分が興味もないゲームの話をする。面白くもないところで笑顔を作る。仮面を被った毎日を過ごしていた。それは、一人になるのが怖かったから。

そんな日々を過ごすのに耐えられなくて、高校2年生の夏に学校を辞め、働き始めてからは悩みの種類が変わった。金銭的なことや、将来のこと。人間関係の悩みは無くなったけれど、それまでは全く考えていなかった悩みが出てきたし、それを真剣に周りの大人に相談する機会は片手で数えられるほどしかなかった。

きっと今の10代も人間関係や自分の将来のこと、そして僕には想像もできないようなつらい状況にいたりして、悩んでいると思う。その解決のヒントをくれるのは大人だと僕は思っているのだけど、同時に「大人を頼る」のは難しいことだとも感じている。

大人に優しくされた経験がなかったり、大人はそういうつもりがなかったとしても「裏切られた」と思ってしまうようなことがあるからだ。

高校生の頃の僕もそうだった。僕のことをテストや成績表の点数でしか評価しない大人がいた。そんな人を信用できるわけがなく、反抗心すら生まれていた。

そんなときに「欅坂46」というアイドルグループに出会った。彼女たちのアイドルとは思えないパフォーマンス。何より、大人に刃向かうような強い言葉が並ぶ歌詞に、何度心を救われたことかわからない。デビュー曲である『サイレントマジョリティー』にはこんなフレーズがある。

「君は君らしく生きる自由があるんだ 大人たちに支配されるな 初めからそう諦めてしまったら僕らは何のために生まれたのか?」

(出典:欅坂46『サイレントマジョリティー』)

当時は“大人”が嫌いだったことと、この歌詞が重なってよく励まされていた。

ただ、あれから数年たった今の僕は大人に相談ができるようになったし、信用できるようにもなった。それは認定NPO法人D×P(ディーピー)代表の今井紀明さんとの出会いが大きいと思う。

今井さんと出会ったのは2017年。きっかけはTwitterで知った今井さんの仕事に同行させてもらう「カバンを持たないカバン持ち」をやらせていただいたこと。僕は2回やらせてもらったのだけれど、テレビ番組の収録現場や、D×Pの寄付先である企業との打ち合わせなどに同行させてもらい、世の中にはいろんな大人がいることを実感した。

その後も悩んだり困ったりしたときには、相談してアドバイスをもらったことが何度かあった。なかなか大人を頼ることができなかった僕が、不思議と今井さんには自分の気持ちを話すことができたのである。

今になって思うと、それは「今井さんが僕を評価していない」からなのかもしれない。

今井さんが代表を務める認定NPO法人D×Pでは、通信制・定時制高校の学校現場のオフラインとLINE相談をメインとしたオンラインで10代に人とのつながりを生み出し、進路や就職などの伴走支援を行っている。

事業でもプライベートでも若者と関わっている今井さん。どんな思いで、僕たちのような若者に関わってくれているのか。桜が咲きはじめた3月のある日、僕はずっと知りたかった今井さんの思いを聴かせてもらうことにした。

10代の子供が希望を持つために必要なのは、仕事と住まい、それから「人とのつながり」

【写真】笑顔でインタビューに応えるいまいさん

佐藤みちたけ(以下、佐藤):今井さん、お久しぶりです!

今井紀明(以下、今井):佐藤くん、久しぶり!最近どう?元気だった?

佐藤:最近将来に悩むことが多くて、あまり元気はないですね(笑)。ただ、今回の取材は楽しみにしていたんです。soarでインターンを始めたきっかけは今井さんだったじゃないですか。

今井:あれはかばん持ちのときだっけ?

佐藤:そのときに、soar編集長の瑞穂さんとも一緒にご飯を食べる機会があって。もう2年前のことですね。あれから、soarをよく読むようにもなって、インターンに応募したんです。あのとき、かばん持ちで付いて行って本当によかったなと思います。

今井:それはよかった!佐藤くんsoarの雰囲気と合いそうな気がしていたんだよね。

佐藤:嬉しいです!ありがとうございます。今井さんとの出会いを振り返ってて思い出したんですけど、衝撃だったのがイラク人質事件のことを話してくれたときで。事件は2004年のことだったから、最初に言われたとき、僕は何のことかさっぱりわからなかったんです。当時4歳でしたから。

※イラク人質事件は、2004年に今井さんを含む3人の日本人がイラクで反米武装集団に拘束され、人質となった事件。今井さんは子どもたちの医療支援のために訪れていた。

今井:16年も前だからね。

佐藤:調べてみると、漫画のような出来事が現実に起こってて驚きました。今のD×Pの事業は、イラクの事件での経験がきっかけで始めたんですか?

今井:僕はイラクから帰国した10代のときに、バッシングを受けたり、それが原因で引きこもりやPTSD、対人恐怖症を経験しているんだよね。手紙や電話でバッシングを受けたときはものすごく孤独を感じていたんだけど、恩師や友人と関わることで、未来に希望を取り戻すことができたんです。それが今の事業に結びついているかな。

佐藤:周囲の人間と関わることで、自分の未来に希望を持てるようになったんですね。

今井:その後2009年にザンビアで小中学校の増築に取り組んだり、若者たちに英語を教えていた経験も大きいかな。当時、ザンビアは経済的に大変な国だったけど、しっかり家族や友人と関係性があって、ザンビアの人たちは孤独ではなかった。でも日本に帰ってきて、10代が他者とのつながりがなく孤立してしまっている状況を目の当たりにしたときに、それをなんとかしたいと感じて。

高校生の頃はNGOをやっていたんだけど、そのころからやっていることの本質はそんなに変わっていなくて、「若者を取り巻く不条理な状態を放っておけない」というか…。それにすごく怒りを感じているんだよね。

若者の未来の可能性を阻害をしている行動を見ると、すごい腹がたつ。だから、それを解決するために事業を立ち上げました。

佐藤:だからD×Pのビジョンは「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会」を作ることなんですね。

今井:そうだね。若者の中でもD×Pが特にフォーカスしているのは10代の若者たち。そして、彼らが希望を持って生きるためには「人とのつながり」「仕事」「住まい」の3つが必要だと思っていて。

じゃあ具体的に何をしているかっていうと、ひとつめが「クレッシェンド」。これは、通信・定時制高校の授業のなかで、生徒たちに多様な大人との関わりをつくる機会です。ここには400名近いボランティアさんが協力してくださっていて、1~2ヶ月間、生徒たちと話をして関係性を作ってもらって、生徒に「人と関わってよかった」と思えるような経験をしてもらう。

それに加えて、定時制高校では「居場所事業」もやっていて、そこでは食事提供をしながら生徒たちと雑談したり、仕事や生活の相談に乗っています。他にはシェアハウスを運営する「リバ邸」と組んで住まいも提供してますね。

佐藤:クレッシェンドで「つながり」を作って、居場所事業で「仕事」の相談に乗り、リバ邸で「住まい」の問題を解決しようとしているんですね。

悩みの解決まで伴走してくれる「ユキサキチャット」

【写真】インタビューに応えるいまいさん

佐藤:D×Pの取り組みで特に興味深かったのが、不登校や高校中退者向けにLINEで進学や就職相談にも乗る「ユキサキチャット」。学校現場での支援が受けにくい若者にとって、非常に助けになるサービスだなと思っていて。この取組みは、どのような経緯で始まったのでしょうか。

今井:きっかけは2017年の始めに、Twitterで「かばん持ち」を募集し始めたらDMで連絡がくるようになったことです。そのとき若者たちから、かばん持ちをしたいという以外に、仕事や学校のことなど他の悩み相談も来ていたので、「オンラインでの相談はニーズがあるんじゃないか」って思い始めて。

2018年には、自分で相談対応するのが無理なところまで数が増えたから、相談先をLINEで統一して、スタッフ複数名で対応したほうがいいと判断してユキサキチャットを立ち上げました。

ただ、今の若者ってLINE離れがあるから、去年はひま部(株式会社ナナメウエが学生の新たな居場所を作るために運営していた学生限定のSNS。現在はYay!にリニューアル)と組んだりもして、入り口は広げていってる最中かな。

佐藤:今井さん個人でしていたことが事業に繋がったんですね。今ではどのくらいの若者たちからの相談を受けているのでしょうか。

今井:週に40人くらいからの相談に、現在7人のスタッフで対応しています。その中には悩みが早期に解決していく子もいれば、ずっと相談に乗り続けている子もいます。

※新型コロナウイルス感染症の影響で、取材後の2020年4月から6月の約3ヶ月で登録者が約400人増加。2020年7月現在、累計で1,600人以上の若者がLINE登録しており、そこから企業やNPO、フリースクールなど必要な資源につながり次のアクションに起こせたのは338件。

佐藤:僕もキャリアについて悩んでたときに、ユキサキチャットで相談して岡山の企業の社長さんと繋げてもらいましたね。そのときは、メッセンジャーで相談先と繋げてもらって、その後も今井さんから「どうだった?」と連絡があって。ユキサキチャットでは、その子の悩みが解決するまで相談に乗ってくれるのでしょうか。

今井:そうだね。例えば企業と繋げるときだったら担当者と会うところまで見守るし、就職した場合は、その後も時々LINEで「最近どう?」って状況を聞いたりしているよ。もしアルバイトで入った先が合わなかったりしたら、また違うアルバイトを一緒に探すこともあります。

佐藤:ユキサキチャットで連絡が来るのは、やはり10代の若者が多いのでしょうか。

今井:13歳から19歳が多いね。(2020年7月現在、累計で285人がLINEを通して相談をしている)内容としては一番多いのは就職や進路相談。その次にアルバイト先の問題や、家庭の相談が続きます。

佐藤:進路の相談は「どの大学に行くか悩んでいる」、「経済的に大学に行けるかわらかない」のような悩みでしょうか。

今井:そういうのもあるし、「奨学金とって大学に行く意味ありますか」みたいな悩みもある。「大学受験に失敗して、進学が難しくなったんで、今からどうしよう」っていう相談もきたりします。

オンラインの支援で大切なのは「雑談」と「急がないこと」

【写真】インタビューに応えるいまいさん

佐藤:様々な若者からの相談があるということですが、ユキサキチャットでも普段のやりとりでも、僕自身が今井さんと関わって感じたことが「評価されていない」ってことで。これまで学校生活でも、仕事でも、評価されることが当たり前だったので、今井さんとの関わりは、新鮮だったんです。10代と関わるときに大切にしていることは何かありますか。

今井:ユキサキチャットでいうと、まず“雑談すること”を大切にしているね。佐藤くんはすでに関係性が築けていたから、雑談はあまりしなかったけど(笑)。

佐藤:たしかに、いきなり相談しましたもんね(笑)。

今井:LINEでどこまで信頼関係が築けるかを考えると、悩みについての相談だけだと不十分だと思っていて。だから、最初に来た相談にも乗りつつ、その子の実情を、雑談を通してどれだけ聞けるかっていうのがひとつの大切なこと。

情報提供もしつつ、雑談から関係性を構築して、趣味や家族関係を聞いたうえで、次のステップとして対面やオンラインでの面談を組む。そのうえで、その子に合うつなぎ先を考えていきます。

だから雑談はかなり大切だし、それに加えて、急がないことも大切だね。

佐藤:急がないこと、ですか。

今井:ユキサキチャットで相談に乗っていたある生徒は、1年半経って就職したんだ。その子のためにやっていたことは、仕事の相談ではなくて、2週間に1回くらいビデオ面談で「最近元気ですか?こっちはこんな感じですよ」って事務所の様子を見せること。それで関係性を深めていきました。

別の生徒で地方住まいの子は、「仕事の話は今はいいから、とりあえず最近あった話しよ」って。Google mapを使ってその地域の建物を一緒に見たり、遊ぶ場所はどこかみたいなことを話してもらったり。

その子との関係性づくりは何年かかってもいいと思っているし、雑談からすごい力を発揮する子がいるから、あまり急がずに進めているね。

佐藤:たしかに、私生活でも仕事でも、関係性を構築する上で雑談はとても大切な気がします。雑談の要素として、それ以外に何かあるのでしょうか。

今井:「社会との接点」づくりかな。他愛のない話が、引きこもっていたり、孤立している10代の子にとっては何か始まることになるかもしれない。

話していくうちに「アニメのフェスに行きたいから、お金を貯めたい」「だったら仕事せなあかんよね」って話になるかもしれないし、どういう会話が何につながるかは予測できない。だから、アニメ、音楽、買い物など、その子の好きなものについてよく話します。

佐藤:僕は雑談が苦手で。だからこそ、雑談は能力がいることだと思ってるんですけど、ユキサキチャットのチームはどんな人で構成しているのでしょうか。

今井:チームは元学校教員やキャリコンの資格を持つメンバーで構成されています。みんなそれぞれの分野で詳しいものを持っているんだよね。それで例えばゲームを好きな子が相談に来たら、ゲームが好きなスタッフが対応するなどの工夫をしてます。雑談を大切にしながらも質問されていることや疑問を的確に答えて、まずは信頼関係をつくることが大切だと思っています。

10代の心はわかっていないけど、わかるために日々頑張っている

【写真】いまいさんに質問をしているライターさとう

佐藤:ここからは、D×Pの相談員のあり方についてお伺いしたいきたいのですが、D×Pの相談員が共通して大切にしていることはありますか?

今井:「否定せず関わること」だね。その姿勢をもって、関係性やつながりをつくっていけるかを一番大切にしているかな。

佐藤:僕は大人に相談するときにいつも、「否定されちゃうんじゃないか」と不安になるんです。きっと若者の力になりたいと頭ではわかっていても、そう思ってしまうときもありますね。

10代の若者は特に、周りにいる親や先生などの大人に勉強ができるかどうかで評価された経験があると、自分が「マイナス判定」をされたら否定されてしまうのではないか、という不安を抱くことが多いと思っています。

そんな不安を抱いている若者にとっては、「否定せず関わる」姿勢はとても安心できると思うんです。それが大切だと、どうやってわかったのでしょうか。

今井:大前提として、やっぱり人とのコミュニケーションには信頼関係が大切だから。信頼関係がないと傷ついちゃうよね。10代に限らずだけど、会ったそばから信頼関係ができないまま、何かを言ってくる人って「何だろう?」ってやっぱ思っちゃうし、そういうコミュニケーションがあるから傷ついてしまう人もいると思うんだよね。

佐藤:たしかに、会ったばかりの大人に助言や心配をされても、少し身構えてしまいますね。

今井:でも、信頼関係がある程度できてくると、言えるようにもなってくるし、心配もできるかもしれない。その土台をつくるのは「否定せず関わる」「ひとりひとりと向き合い、学ぶ」そういう僕らが持ってる姿勢だと思ってる。これは創業当時から変わらずやってきてること。それが生徒の一歩の土台をつくるものになると思ってる。

佐藤:たしかに僕がユキサキチャットで相談したとき、これまで相談してきた大人と対応が違うと感じたんです。僕の気持ちを汲んだ上で聞いてくれてるような気がしました。

今井:その子の気持ちを知っていくには、こちらが質問ばかりしないことも大事だと思います。質問ばかりされたらうざいじゃない(笑)。だからいろんな話を組み合わせながら、その子にあわせて話を進めていくのもすごく大切だと思う。

佐藤:そうなんですね。なんというか、D×Pのスタッフさんの対応って、10代の心をわかっているなと感じているんです。

今井:いや、全然わかってないと思うよ。だって若者の悩みにある程度のパターンはあるかもしれないけど、困りごとは基本的にはひとりひとり違うし、パターンが似ていたとしても背景が違うから。むしろ若者たちの気持ちがわかっていないからこそ、わかるために日々頑張っているんだよね。

それに、当たり前だけど、今の10代は僕が10代だった頃とは環境が違うから。例えば働き方だと、昔はリアルで働くのが普通だったけど、今は在宅でリモートワークもできるよね。

実際に、在宅ワークの話をしたらずっと引きこもりで、お母さんと一緒じゃないと外に出られなかった子が、今はもう初任給もらって旅行に行きたいってなってて。その子がそうなるなんて、想像できなかった。

だから、わからないし、わからないものとして関わっていかないと。わかったつもりで接していると、その子の方向性を狭めてしまうかもしれないし、その子の可能性を潰してしまうかもしれない。いろんな角度でアプローチすることは大切だよね。

佐藤:わからないからこそ、ひとりひとりと向き合ってその子にあった関わり方を見つける。「わからない」と思って接することって大切なんですね。

今井:そうだね。それに、言葉遣いも変えるようにしていて。タメ語がいいっていう子と、馴れ馴れしいのが嫌だから丁寧語がいいっていう子がいるから、言葉遣いも変えるようにしていたりして。オンライン面談をやる前は丁寧語だけど、終わった後は少し崩したりするときもあります。一人ひとりにあわせて自分たちの関わり方を変えていくことは、とても大事だね。

10代のリアルな相談「やりたいことがないのですが、どうしたらいいですか?」

【写真】いまいさんとライターさとうが椅子に座って向き合い話をしている

佐藤:先ほど、就職や進学に関わる相談が多いとのことでしたが、それは将来に悩んでいる若者が増えてきていることだとも思っていて。その背景としてあるのが、僕もそうなんですけど「やりたいことがない」ことだと思うんです。そういう悩みの相談もあるのでしょうか。

今井:いっぱいあるよ、多くの若い子はその悩みを持っているよね。ただ、やりたいことがないのは「普通の悩み」だから。放っておいてもいいじゃんって僕は思うかな。

佐藤:SNSで、若いのに好きなことを仕事にしているインフルエンサーが出てきて、自分と比較してもどうしようもないことはわかっているんですが、比較して焦るんです。「この人は自分と同い年で好きなことに熱中しているのに、なんで自分はまだ見つけられていないんだ!」って。

今井:「やりたいことがある人は社会の2割くらいだ」ってくらい気楽に構えていいと思うよ。生徒にも「やりたいことなんてなくて良いよ」って話をずっとしてる。基本的にそれを持っている人はすごいレアだから。でも「今日はこれを食べたい」とかはあるでしょ?

佐藤:ありますね。お腹減ってる日の夜ご飯は焼肉がいい、とか(笑)。

今井:そうだよね。あとは「楽しんで生きたい」とかさ、そのために何ができるのかを考えれば良いんじゃないかなって思うよ。僕たちは、自分の将来の方向性が決まってないとしても、何か欲求があるんだったら、そのために何をしていくかを一緒に考えようっていうスタンスです。だから「やりたいことを持たないといけない」と強要するつもりは一切ない。

僕自身も社会からのプレッシャーを感じて生きていたときはある。「仕事して稼げるようにならなきゃ」「ひきこもっていちゃダメだよな」とか。でも、プレッシャーは捨ててしまっていいと思っている。

何もできていなくたっていいし、ひきこもっていたっていい。これまで甘えてこれなかったら甘えてもいい。そうやって余裕が生まれることで社会との接点を考えられるようになるから、プレッシャーなんて捨ててしまう。捨てれば次に進めることは、きっとあると思うんだよね。

それに人生の休暇とか、何もしていない瞬間を大切にできれば、自分や未来のことを考えられる。そういう瞬間を認め合うのは、めっちゃ必要だと思っていつも生きてるかな。

佐藤:今の僕がそうなんですけど、やりたいことがないときに、難しいのが方向性を決めることなんです。

今井:やりたいことがないんだったら、知らない分野を10代や20代前半のうちに経験しておくといいと思うんだよね。それが繋がる瞬間ってあるから。

たとえば、僕は食肉の商社でカッティングをしたり、漁師や銀行の窓口で働いてたことがあるんだよね。それは、一見役に立たなそうに見えるけど、すごい今に活きていて。あれを20代前半でやっていたのはすごい良かったと思ってるから、流されるままにやってみるのはアリなんじゃないかな。

【写真】なにかに思いを巡らせながらインタビューに応えるいまいさん

佐藤:20代につながる、30代につながるって言われても、理解はできるけどいまいち納得はできないというか…。大人がやった方が良いって言うことって、絶対にやった方が良いこととは限らないじゃないですか。

今井:そうだね、だから学校って大切なんだと思うんだよね。社会的な立場としても守られているある程度決められた時間のなかで、学校での職場体験やプライベートでの様々な体験をすることが、あとで大きな意味があったりするから。

佐藤くんの場合は、自分で稼ぎながらやらないといけないから、体験できる仕事の範囲は狭まるのは事実。その現実感は持ちつつ自分が信じるままやってみるのがいいんじゃないかなと思うよ。

佐藤くんなりの答えを失敗しながらも見つけていったら、必ずそれが役に立つと思うから。自分で決めていってほしいね。

アライアンスを組んで、一緒に若者のセーフティネットを作っていきたい

佐藤:相談までいろいろ聞いてもらってありがとうございます。悩むことはまだまだ多いですが、自分が信じるままにやっていこうって思えました。最後に、まさに今、進学や就職だけではなく、家庭環境など、様々なことに悩んでいる子たちに必要なのはどのようなことか、お伺いしたいです。

今井:一番大切なのは、社会や人とのつながりををつくることだと思う。大人を頼れなかったり、信頼できなかったり、普通に学校に通っているけど、つながりが少ないケースが多くて。でも、3つ以上の居場所や頼り先があるからこそ人って自立していくものだと思っているから、多くの依存先を作ることが必要だと思います。

そう考えたときに、周囲に親と先生と友達しかいない子に、D×Pがそれ以外のつながりをつくっていけるんじゃないかと感じてます。

ただ、けっしてD×Pがベストじゃないこともあると思っていて。D×Pとの相性がよくなかったり僕らでは力になりきれない場合は、他の団体や支援先、企業なら解決できるかもしれないから、生徒の同意を得た上で情報を伝えて紹介をしているんです。

それを広げて、より多くの若者たちに支援を広げるために、今は様々な組織とアライアンスを組もうとしてます。

佐藤:D×Pは寄付で活動を応援するサポーターも多くて、本当に若者たちへのサポートの輪を広げていますよね。

今井:そうだね。D×Pは寄付でモデルをつくって、いろんな人と一緒に若者のセーフティネットを作っていきたい。

月3000円の寄付で、1回分のオンライン進路相談の費用になります。仕事とプライベートで忙しくて時間がないけど、若者のために何か行動したいと思っている方とは、そういうことでご一緒できたら嬉しいなと思っています。

佐藤:D×Pにはマンスリーサポーターだけでなく、クラウドファンディングで支援したり、ボランティアだったりと様々な関わりの形がありますよね。僕も自分に合った形でD×Pに恩返しができたらなと考えています!

否定されないことが信頼につながる

この取材を3月に終えてから、新型コロナウイルスの感染者数が増え、緊急事態宣言が発令され、突如として状況が変わった。

学校現場(オフライン)で会うことが難しい今、オンラインで相談できる「ユキサキチャット」の需要は高まっている。

ユキサキチャットの登録者数は、緊急事態宣言後から約3ヶ月で396人増加し、相談件数は去年の10倍にもなった。

就職・進学の相談が増えたことに加え、それ以外の経済的な困窮相談なども増えたのだそう。アルバイトのシフトが減り収入がなくなった、食べるものに困っているなど「明日の生活」に不安を抱える若者からの相談も来ている。

D×Pではこういった若者たちに食糧支援や現金給付、さらには在宅ワークに関心がある若者にパソコンを給付し、ユキサキチャットで継続して相談にのっていく取り組みを行っているという。

D×Pは若者とそれを取り巻く社会の状況に応じて変化し、次々と彼らの生きる力となるサポートを展開しているのだ。

一方で、僕もこの数ヶ月で自分の進む道が決まってきた。それは「安定してお金を稼げるようなスキルを身に付けられる」道に進むこと。

それが決まったのは、今井さんをはじめとする、周りの大人たちに相談をしたり、話を聞いてもらったりして、頼ったことが大きいのではないだろうか。おそらく一人で悶々と考えていたら、もっと長い期間悩み、苦しんでいたと思う。

10代の悩みはとても多岐にわたる。10代の僕でも想像できないようなことで悩み、苦しんでいる人がいると思うし、周りの大人に相談しづらいことも多いかもしれない。

そんなときは、D×Pを頼ってみても良いのではないだろうか。大人に反抗心を抱いていた、10代の僕が自信をもってそう言える。

D×Pの方は否定しないで関わってくれる。そんな優しい方々と話していると、もしかしたらキャンパスに描く絵が少しずつ見えてくるかもしれない。

僕は今年20歳になる。いわゆる「大人」の仲間入りをするが、それによってまた違う悩みが出てくるだろう。そしたら、また信頼できる大人に相談してみようと思う。

その困りごとはすぐには解決しないかもしれないけど、誰かに相談することでその苦しみが少しでも軽くなる気がするから。

【写真】いまいさんとライターさとうが並んで桜並木の中を歩いている

関連情報:

認定NPO法人D×P ホームページ

(編集/工藤瑞穂、撮影/川島彩水、協力/小島杏子、企画進行/佐藤みちたけ、木村和博)