【写真】夕方にお迎えにくるお母さんとお子さん

共稼ぎ世帯が増え、私の周りでも働きながら子育てをしている人はめずらしくありません。「お迎え時間に遅れるわけにはいかない」というプレッシャーを背負って早朝から出勤し、ぎりぎりに仕事を終え、走るように退社する同僚もたくさん見てきました。

そんなときに知ったのが「夜間保育園」の存在です。夜間保育園とは、通常の保育園の時間帯より遅い夜間まで、保護者に代わって保育をする保育園のことです。全国ではまだ数が少ないのですが、その中のひとつに、福岡県で長年夜間保育を続けてきた「どろんこ保育園」があります。

ここで何より大切にされているのは「ファミリー・ウェルビーイング」という考え方。子どもの幸せだけでなく、その背後にある家族の幸せにも目を向ける姿勢が、さまざまな事情を抱える親や子どもの生活を支えてきました。

子どもと親をあたたかく見守るこの保育園は、まるで、もうひとつの「かぞく」のよう。そのあり方は、どのように生まれたのでしょうか。私たちはどろんこ保育園を訪ねました。

歓楽街からほど近い、「夜間まで」やっている保育園

福岡県福岡市博多区にある中洲地区は、日本三大歓楽街のひとつともいわれる場所。飲食店が立ち並び深夜まで賑わうエリアに隣接する住吉地区に「どろんこ保育園」があります。大型ショッピングモールの真裏だとは思えない、明るく開放的な雰囲気の園舎から子どもたちの笑い声が響いていました。

この保育園では、通常の7~18時の時間帯以外に、11時~22時を基本時間とした「第2どろんこ夜間保育園」での夜間保育を行っています。延長時間も含めると、朝7時~深夜2時まで開園している認可保育園なのです。

【写真】どろんこ保育園の前に笑顔で立つあまひささん

天久さん:夜間保育園への誤解が多くて、「夜間だけ」やっている保育園みたいに思っている人がいるんだけど、実際には「夜間まで」やっている保育園なんですよ。

そう話すのは、この保育園を運営する「社会福祉法人四季の会」理事長の天久薫さんです。

たしかに、認可の夜間保育園は、あまり身近な存在とはいえないかもしれません。ニーズは都市部に限定され、しかもまだ全国に81ヶ所しかないのです。

子どもを預かりながら、司法試験の勉強

【写真】どろんこ保育園であそぶ子どもたち

天久さんが、どろんこ保育園の前身となる無認可の夜間保育園を始めたのは、1973年のこと。当時はまだ法学部の学生で、のちに妻になる真理さんと交際中のときでした。

保育士として昼間の保育園で働いていた真理さんが、飲食店を営む保護者から「夜に子どもをみてもらえないか」と個人的に頼まれたのです。司法試験の勉強で夜中まで起きていた天久(薫)さんは、親が迎えに来るまでの間、真理さんの実家の一室で子どもをみていたといいます。

【写真】柔らかい表情でインタビューに答えるあまひささん

天久さん:最初は学生のアルバイトみたいな感じで始めたんだけど、夜間に預けたい親がたくさんいることがわかってきた。そこで、二人で夜間保育園を始めたんです。そのころ、大きなキャバレーには託児所があったけど、子どもはほったらかし。夜間に親が安心して預けられる場所がなかった。だから、私たちが保育園を始めると、どんどん子どもの数が増えていきました。

それは、認可外保育施設の劣悪な状況が、「ベビーホテル問題」としてメディアに大きく取り上げられる6~7年ほど前のことでした。

天久さん:夜間保育を始めた当時は、利用しているのはホステスをされている母親が多かったんですよ。そのうち3分の2くらいが母子家庭でした。女性が一人で働きながら子どもと暮らそうと思ったときに、ほかに仕事が選べなかった時代です。お母さんは労働基準法で守られていないし、子どもたちも児童福祉法に守られている状態ではありませんでした。

【写真】どろんこ保育園の傘立てにはたくさんの傘が立てかけられている。

法律や制度からこぼれ落ちるなかで、一生懸命に自立を目指す親子を支えたいと、天久さんたちは保育園の認可取得を目指します。

その後、ベビーホテルでの子どもの虐待や死亡事故に全国からの注目が集まり、とうとう1981年に認可夜間保育園の制度が創設。天久さんたちの保育園も昼間と夜間の認可保育園として運営を開始しました。

【写真】どろんこ保育園を外から見るととても大きな建物になっている。

夜型になった社会と、広がる夜間保育へのニーズ

現在では、天久さんが夜間保育を始めた当時とは状況も変わっています。どろんこ保育園の夜間保育を利用する半分が会社員で、もう半分ほどが自営業です。

天久さん:いいかどうかは別として、いまは社会全体が夜遅くまで活動しているでしょう。店も公共機関も夜遅くまでやっている。男女雇用機会均等法ができて、女性も男性と同じだけ働くようになったし、残業も多くて共働きの世帯が多い。働き方が多様化するなかで、夜間のニーズが広がってきているんです。

【写真】スーツ姿で子どものお迎えにきた男性

一方で、能力的に事務手続きが苦手だったり、勤務証明がとれない不安定な雇用のお母さんたちが認可保育園に入りにくくなっている面もあるといいます。

天久さん:水商売とか、いますぐ夜間に預けて働く必要があるという人は、翌年4月まで空きを待つということができないんですよ。だから認可外保育施設に預けて、そのままになってしまう。必要としている人たちが入れなくなっているんじゃないでしょうか。

認可外保育施設は、一般的に保育料が高いだけでなく、保育士の人数や保育室の面積の基準もゆるやかなため、保育の質が担保されているとは言えません。

【写真】外の砂場に置かれている砂遊びのおもちゃ

ベビーホテル問題から生まれたはずの認可夜間保育園ですが、その後なかなか数は増えていきませんでした。その理由には、「夜間保育は、子どもの心身の発達にとって望ましくない」という意識が、社会一般にも行政にもあるからではないかと天久さんは考えます。

しかし、全国夜間保育園連盟の依頼を受けて、安梅勅江氏(現筑波大学大学院教授)が夜間保育園を利用した子どもを18年かけて追跡調査したところ、昼間でも夜間でも保育の質さえきちんとしていれば影響は変わらないという結果がでています。

【写真】真剣な眼差しでインタビューに答えるあまひささん

天久さん:子どもの生活時間は、私たちも気にしなくてはいけないこと。しかし、夜まで働かざるを得ない親が多いなか、認可の夜間保育園がないことで、その子どもが家で放置されたり、ひどい環境に置かれるかもしれないことのほうが問題ではないでしょうか。実際に、いまもベビーホテルのような認可外保育施設を利用している人がたくさんいるんです。

どろんこ保育園を利用する多くのお母さんも、子どもを夜間に預けることに負い目を感じ、悩んでいるといいます。

天久さん:それでも夜間保育を利用しなくてはいけない事情がある。私たちがしなくてはならないのは、できるだけ保育の質を高めることです。

仕事を終えて、お迎えにかけつけるお母さんたち

どろんこ保育園では、昼間の定員が110名なのに対して、夜間保育園の定員は55名。夕食の時間がある以外は、お昼寝や散歩、遊びの時間など、昼間の保育園と過ごし方はほとんど変わりません。

登園時間別に、「0歳児」「1・2歳児」「3・4・5歳児」の縦割りでクラス編成がされていますが、夕方の園庭にはさまざまなクラスの子どもたちが入りまじって、元気に駆け回っていました。

【写真】カメラに向かって笑顔でピースをする大勢の子どもたち

「こんにちは!」

「ねえ見て、わたし裸足なの!」

園舎を歩いていると、初対面の私たちにも話しかけてくるほど人懐こい子どもが多く、そばにいる保育士さんも大きな声をあげることなく笑顔で見守っています。

【写真】校庭の遊具で先生を囲んで遊ぶ子どもたち

19時頃に夕食を済ませ、お迎えのお母さん、お父さんたちの姿が増えてくるのは、20時半を過ぎた頃から。夜間保育園というと、深夜のイメージが強いのですが、この時間にお迎えに来る保護者も少なくありません。

【写真】玄関に座り少しずつ自分で靴を履こうとする子ども

「お母さーん!」

保護者の姿を見つけて、子どもが駆け寄ります。

仕事帰りで疲れた様子の保護者もいますが、保育士に子どもの様子を聞いたり、子どもといっしょに絵本を読んだりしてから、暗くなった街を急ぐように帰って行きます。おそらく帰宅したあとも、子どもをお風呂に入れて寝かしつけたり、家事を片づけたりと、忙しい時間が待っているのでしょう。

公務員、自営業、会社員……保護者の仕事はさまざま

【写真】夕方にお迎えにきたお母さんのもとへ駆け寄る子ども

17時とか18時で終わる仕事ばかりではないですよね。飲食業をしていると、どうしても昼間の保育園のお迎えの時間帯と仕事のピークが重なるんです。

そう話してくれたのは、3人の子どもを預けているお母さん。仕事が終わるのは、大体20時頃。夫は朝から深夜までの仕事です。以前は夫婦で飲食店を営んでいたこともあったそうですが、「夜間保育園あっての自営業」だと感じていました。

21時になる頃、図書館で働く公務員だというお母さんが迎えに来ました。最近では図書館も20時まで開館しているため遅番があり、ひとり親なのでお迎えを替わってもらうことができません。どろんこ保育園まで自宅からは少し距離がありますが、遅い時間まで預かってくれる場所の選択肢はほとんどありませんでした。

ここに入れなかったら、認可外に預けるしかなかったでしょうね・・・。

【写真】割烹着姿でお迎えにきたお母さん

また、割烹着姿で子どもを迎えに来たお母さんもいました。夫婦で料理店を自営しており、閉店後の片付けを終わらせて保育園に着くのは、いつも23時頃です。生まれてすぐは夜間保育園の空きがなく、しばらく認可外の保育施設に預けていました。

区役所に通い詰めて、ここに入れてもらった感じ(笑)。ここは融通がきくし、職員さんたちが親の事情をわかって受け入れてくれます。

夜間保育の基本時間は22時までですが、深夜まで延長して利用する保護者も15人ほどいます。お迎えが遅い子どもたちは、20時すぎに別室で就寝します。

真っ暗な部屋をのぞかせてもらうと、保育士さんが絵本を読んだり、背中をトントンと触れながら、子どもたちを寝かしつけているところでした。小さな子どもは、深夜に迎えに来た保護者が、起こさないようにそっと抱きかかえて帰宅していきます。

【写真】子どもの寝かしつけをする先生の姿

延長が可能なのは深夜2時まで。それは、「親が夜型であっても、できるだけ子どもは昼型に育てる」という園の方針から、親が子どもにあわせて起きられるぎりぎりの時間として設定されているのです。

この日、お話をうかがっただけでも、自営業、公務員、会社員、パート、そして、夫が単身赴任中だったり、ひとり親のお母さん、お父さんだったりと、本当にさまざまな人たちが夜間保育を利用していることがわかりました。実際、夜間保育園への入園希望者は多く、空きがなくてあきらめる人もいるほどです。

保育園のソファで読み聞かせをするお母さんと真剣に聞く子ども

この保育園なら子どもを安心して預けられるし、先生たちも親に寄り添ってくれる。ここに入れて本当によかったです。

どの保護者も、笑顔でそう話していたのが印象的でした。

こだわりの食育やモンテッソーリ教育も

【写真】楽しそうにご飯を食べる子どもたち

お母さんたちが、「この保育園でよかった」と言う理由は、夜遅くまで預かってくれるからだけではありません。どろんこ保育園は、その保育の質でも評判が高いのです。

たとえば、上の子どもたちが通っていたほかの保育園からわざわざ変えて、下の子どもたちをどろんこ保育園に入園させたというお母さんが、ここを選んだ理由は「モンテッソーリ教育」でした。

見学に来た時に、子どもたちが何でも自分でやっていて、自由に任せてくれる雰囲気がすごくいいなと思いました。平日は仕事があって一緒にいられる時間が限られますが、そのことで子どもの成長の芽をつみたくない。

ここでは、子どもをしっかり見守ってくれて、家庭ではできないことも経験させてくれます。年長になってからここに移ってきた娘が「お母さん、ここの保育園に入れてくれてありがとう」と言ったんですよ。

【写真】真っ直ぐな表情でお絵かきに集中する子どもたち

どろんこ保育園で取り入れているモンテッソーリ教育では、「子どもは、自らを成長・発達させる力をもって生まれてくる。 大人(親や教師)は、その要求を汲み取り、自由を保障し、子どもたちの自発的な活動を援助する存在に徹しなければならない」という考え方を基本にしています。

保育士は子どもの「やりたい気持ち」を大事にして自由に活動させ、なるべく手出しをせずに見守ります。そうやって自分の力でやることで、自信をつけていくことができるからです。

また、園内のテーブルや教具、給食の食器なども「本物の素材」にこだわっています。

【写真】保育園の棚にかかっている子どもたちの洋服

そんな保育園での様子をみることでお母さんの姿勢も変わっていくと、園長の城戸裕子さんはいいます。城戸さんはモンテッソーリ教育の研修で天久さん夫妻と知り合い、17年前からここで働いてきました。

【写真】保育園で働くきどさん

城戸さん:最初は子どもに大きな声を出していたお母さんも、トーンがだんだん下がっていくんですよね。うちには、子どもが自分ですることを待っていてくれるお母さんが多い。保育園に来て、保育士の子どもへの接し方から、保護者が学ぶことも多いのだと思います。

給食は手作りの玄米和食で、調味料にまでこだわるなど食育にも力をいれているほか、登園から降園までなるべく同じ保育士が子どもを見られるように勤務時間を調整するなど、子どもの成長・発達を考えて保育体制にも工夫がされています。

【写真】和食がメインになっている保育園での給食

「ファミリー・ウェルビーイング」という理念

【写真】保育園の校庭は広々としていて子どもが駆け回っている
さらにもうひとつ、どろんこ保育園の運営を大きく特徴づけているものに、「子どもが幸せであるためには、家族の幸せも大切」という考え方があります。

天久さん:子どもとその家族が、今よりもっと幸せに暮らせようになることを「ファミリー・ウェルビーイング」と名付けて、運営の理念にしてきました。子どもは保育園にいる間だけ幸せだったらいいというわけではない。半分以上の時間は家にいるんだから、やっぱり家族の幸せのことまで考えないといけないのです。

「ウェルビーイング」とは、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念です。どろんこ保育園では、それを個人だけでなく、家族も含めて実現できることを目指してきました。

このファミリー・ウェルビーングの考え方は、職員の保護者への日々の接し方にも表れています。

園長の城戸さんは、職員に「お母さんが笑顔だと、子どもも笑顔になれるんだよ」と繰り返し伝えてきました。それは、子どもが保護者の状態にとても敏感で、影響を大きく受けるからです。

【写真】外遊びに夢中になる子どもを笑顔で見守る先生

城戸さん:子どもが一人ひとり違うように、お母さんだって一人ひとり違います。人によってできること、できないことが違うし、仕事が忙しくて余裕がない人もいる。だから、「お母さんだから、こうするのが当たり前でしょう」と責めないようにはしていますね。

たとえば、遠足のときに出来合いのお弁当をそのまま子どもに持たせたり、子どもの着替えをきちんと乾かして持ってくることができない保護者もいます。しかし、それをダメだとは言いません。

城戸さん:生乾きの着替えは、職員が黙って干し直しています(笑)。もちろんお母さんが出来ることは伝えますし、ときには「お母さん、いけんよ」と言うこともあるけど、その人の事情がみえてくると、難しいんだなと気づくことも多い。お迎えに遅れるときも電話さえくれれば大丈夫ですよ。だって急な仕事で遅くなることもありますよね。ほかの園に比べると許容範囲は広いかもしれません。

「ここがあったから、施設から出られた」

【写真】職員室で談笑をするあまひささんときどさん

この保育園があったおかげで、親子で自立することができたというお母さんもいます。

そのお母さんは、4年前には親子で母子生活支援施設(※)に身を寄せていました。当時、子どもはまだ1歳。周りには仕事がみつからず施設から出られない人も多く、「自分もそうなるんだろうな」と思っていたそうです。そんなときに、どろんこ保育園の存在を知り、すがるような気持ちで電話をかけました。

ここに子どもを預けられたことで、夜の中州で働くことができました。おかげで施設からも出て親子で生活できたんです。普通の保育園だったら『仕事が休みの日は自分で子どもをみてください』ってなりますよね。でも、ここの職員さんは、『休みの日も保育園を利用して自分の時間を作ったらいいよ』と気遣ってくれる。その気持ちが何よりうれしい。私にとって職員さんは家族みたいに何でも話せる相手なんです。

いまは再婚もして幸せだというお母さんは「どろんこ保育園のいいところ、いっぱい記事に書いてくださいね!」と笑います。保育園への感謝の思いが強く伝わってくるようでした。

「職員さんは親にもやさしい」という言葉は度々、お母さんたちから聞きました。なかには、登園や降園のときに事務室に立ち寄って、仕事の愚痴をこぼしていくお母さんもいるそうです。

城戸さん:「今日はイヤなことがあったぁ」と、お母さんが言ってきたら、「それは大変やったね」って職員が話を聞きますよ。ほかで吐き出す場所がないお母さんもいますから、私たちに話してすっきりしてくれるならいい。

夜間保育だけでなく、午後9時までの休日保育、小学生になった子どもたちの学童保育、そして障害児保育など、どろんこ保育園のさまざまな活動は、そうやってさまざまな事情を抱えた親子が、より安心して生活できるようにと広げられてきたものです。

【写真】めいっぱいの笑顔でインタビューに答えてくれるあまひささん

天久さん:話を聞いてしまったら何かしなくちゃと思うから、大変ですよ。だから他の園では、あまりお母さんの話は聞きたがらないんじゃないかな。「ここは保育園なのにお母さんの居場所がある」と言われたことがあります。それは、私たちがそうやって受け入れの幅を広げてきたからじゃないでしょうかね。

しかし、そこまでしていると職員さんたちの負担も大きいのでは、と勝手な心配も沸いてきます。

城戸さん:いちばん忙しい夕食の時間帯には学生アルバイトを増やすなどして、保育士が保護者対応の時間をとれるようにしています。もちろん大変は大変ですが、そういう保育園だってことは職員はみんな知っていて、覚悟して来ています。辞める人も少ないし、10年選手みたいな長く務めている保育士が多いんですよ。

※母子生活支援施設:かつての母子寮。18歳未満の子どもを養育している母子家庭、とそれに準じる家庭の女性が、子どもと一緒に入所できる施設。さまざまな事情で入居した母子の保護とともに、自立に向けた生活支援を行う。

保育園から帰れば、6人の子どもの里親

【写真】たくさんの子どもたちの靴が整理整頓されているくつばこ

この夜間保育園を初めて以来、たくさんの子どもたちを預かってきた天久さんですが、子どもとの関わりは保育園だけにとどまりません。

子ども好きな妻の真理さんは、保育園が休みの日にも知り合いの子どもを自宅で預かってきました。どろんこ保育園に学童保育で通う子どもたちを、週末は自宅に泊めていた時期もあったそうです。

天久さん:かみさんが、学童の子どもたちを週末に自宅へ連れて来て、希望する子にはピアノを習わせたり、プールに連れて行ったりしてましたよ。いま思うと、あのお金はどこから出ていたんやろうか(笑)。休みの日に出かけるときも、いつもどこかの子どもが一緒でした。その頃から夫婦2人で旅行したことは一度もありません。だからといって、イヤだと思ったこともなかったねえ。

さらに、自分の子どもたちが独立したあとにファミリーホーム(※)も開設。いまでは小学校4年生から高校2年生まで、6人の里子を養育する里親でもあります。それまで園長だった真理さんは、城戸さんに園長を譲ってファミリーホームに専念。保育園の事務室には、学校帰りに寄る里子の女の子に勉強を教えるためのテーブルが設けてありました。

ほかに預ける場所のない子どもを保育園以外でも引き受けたり、心配のある子どもたちを自宅に泊めたりすることは、天久さん夫妻にとってはごく当たり前のこと。

「それだけ子どもが好きなんですね」と聞くと、意外にも「いや、私はそうでもない(笑)」との答えが返ってきました。

天久さん:子どもが好きだからやっているとかではなくて、縁があって関わったからには自分にも責任があると思っているんです。本当の親にはなれなくても、つながりはずっと持ち続けていきたい。小さいときにうちで世話をしていた子どもが、大学生になっても「ここは第二の家庭です」と遊びに来てくれる。そういうのはうれしいですよ。

天久さんの話を聞いていると、子どもとその成長を見守る大人との関わり方には、「家族」だけに限らない多様なかたちがあるのだと気づかされます。困っている子どもやその家族がいるのなら、違うつながりで周囲が支えることができるのではないか――夜間保育園も、そうした関わり方のひとつなのです。

※ファミリーホーム:小規模住居型児童養育事業。生まれた家庭で育つことができない子どもを、養育里親等の経験がある者の家庭において養育を行う事業。

子どもと家族がいまよりもっと幸せに・・・

【写真】空は薄暗くなり街のライトが光っている

取材後、夜間保育園を出て福岡の街を歩くと、飲食店やコンビニ、たくさんのビルにまだ明かりがついていました。あの明かりのもとにも夜間保育園のような場所を必要としている人がいるかもしれないと思うと、景色がいままでと違って見えてきます。

夜間に子どもを預けるというのは、手放しで喜べることではないかもしれませんが、いま、夜間保育園を必要としている人がいることは確か。さまざまな関わりをもつことで、子どもたちは安心して成長していけるのかもしれません。

第二の家庭のように見守ってくれる、そんなどろんこ保育園みたいな場所が広がって、「いまよりもっと幸せに暮らせる」家族が増えてほしいと願います。

【写真】お迎えにきたお母さんのもとへ向かう子どもと頭を撫でるおかあさんの様子

soarと認定NPO法人SOS子どもの村JAPANは、「もう一つの“かぞく”のかたち〜これからの社会的養育について考えよう」と題し、子どもたちにとってより望ましい「“かぞく”のあり方」とは何か、読者のみなさんと一緒に考えていく企画を展開しています。

本記事は、その企画のもとに取材・公開された連載記事です。

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関連情報
社会福祉法人四季の会 どろんこ保育園・第2どろんこ夜間保育園 ホームぺージ
全国夜間保育園連盟 ホームページ

<1>親と暮らせないこの子たちに、安心できる家庭をつくってあげたい。「子どもの村福岡」で里親をする田原正則さんと子どもたちの日々

<2>キックオフイベントのレポート:地域の多様なひとが「かぞく」や子どもの育ちに関わる社会に。SOS子どもの村JAPAN、よしおかゆうみさんと考えるかぞくのあり方

<3>福岡は「里親」先進都市って知ってました?まちぐるみで子どもを育ててきた地域の軌跡

<4>どの子どもにも「生きていてくれて、ありがとう」と伝えたい。児童養護施設等から巣立つ子どもたちを支える「ゆずりは」高橋亜美さん

<5>日本でただ一つ、匿名で赤ちゃんを預かる「こうのとりのゆりかご」に託された思いとは?ひとりで妊娠・出産に悩む女性のためにできること

<6>生みの親にも育ての親にも「ありがとう」と伝えたい。特別養子縁組を結んだ家族と暮らしてきた近藤愛さん

(写真/田島寛久)