【写真】まっすぐとこちらをみているこばやしさんと、やまぐちさんおやこ

口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)とは、唇や、口の中の天井部分に生まれつき裂け目がある疾患です。治療により、多くの場合は裂け目があったことがほとんどわからなくなりますが、出生直後から成人するまでの長期間にわたる治療を必要とします。

この記事では口唇口蓋裂の種類や症状、治療法や症状との付き合い方、当事者やご家族のみなさんの声や、得られるサポートについて紹介します。

目次

・口唇口蓋裂とは
・口唇口蓋裂の症状
・口唇口蓋裂の治療法・症状との付き合い方
・口唇口蓋裂の当事者のみなさんの声
・口唇口蓋裂当事者のみなさんへのサポート
・読んでくださった方へのメッセージ

口唇口蓋裂とは

唇や、口蓋(こうがい:口の中の天井にあたる部分)に裂け目がある状態で生まれてくる、先天的な疾患です。

母親の胎内にいるとき、胎児の顔ができてくる過程で、地図でいうと半島のような突起がくっつくことで形づくられます。しかし一部の突起がうまくくっつかず、裂け目が残ったまま生まれてくることがあります。 原因はまだ詳しくはわかっていませんが、遺伝的要因や環境要因などの複数の要因が重なって起こるという説が有力です。日本では、約600人に1人の割合で現れると考えられています。

口唇口蓋裂の種類

口や顎のどこの箇所に裂け目があるかによって、以下のような種類に分けられます。

  • 口唇裂(こうしんれつ):唇に裂け目がある状態
  • 口蓋裂(こうがいれつ):口蓋に裂け目がのどちんこ(口蓋垂)まであり、口の中と鼻の中の一部がつながっている状態
  • 口唇口蓋裂:口唇裂と口蓋裂が合併している場合
  • 顎裂(がくれつ):上あごの歯茎に裂け目がある状態
  • 口唇顎裂(こうしんがくれつ):顎裂と口唇裂が合併している場合
  • 唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ):顎裂と口唇口蓋裂が合併している場合

口唇口蓋裂の症状

口唇口蓋裂では外見のほか、口や鼻の機能にも症状が現れることがあります。また、ほかの先天性疾患を合併していることもあります。

外見上の症状

裂け目の大きさや深さ、形はさまざまに異なり、裂け目が片側だけにある場合(片側性口唇裂)や両側にある場合(両側性口唇裂)があります。

口唇裂では、鼻の形態や上あごの骨も変形していることがあります。口唇顎裂で上あごの歯ぐきの部分に裂け目があると、歯並びや歯の数などにも影響が出ることがあります。上顎の発達があまり良くないことが多いです。

機能上の症状

母乳やミルクを飲みにくかったり、食べ物が噛みにくかったり、吹きにくかったり、言葉を発音しにくかったりすることがあります。口蓋裂で口の中と鼻の中の一部がつながっている場合は、鼻の中へと母乳やミルク、食べ物が入ってしまうこともあります。

合併症

頭部のほかの部位や手足などの形に関する症状や、心疾患などの先天的な疾患を合併していることもあります。

口唇口蓋裂の治療法・症状との付き合い方

生後しばらく経った時期に、裂け目を閉じる手術を行います。この手術により多くの場合、外見上は裂け目があったことがほとんどわからなくなります。

成長にともない、傷あとが変形してきた場合などには修正手術が行われます。このため、治療は出生直後から成人するまでの長期間にわたることが多いです。

口唇裂の治療

一般的には、最初の手術は赤ちゃんの体重が5~6kgになる生後2~4ヶ月頃に行われます。唇の裂け目を閉じ、唇や鼻の形が左右対象になるような形成が行われます。唇の両側に裂け目がある場合は、両側の手術を同時に行う方法と、片側ずつ2回の手術を行う方法があります。

成長するにつれ、手術した部位が左右対象でなくなってきたり、手術の傷あとが目立つようになってきた場合などには修正手術が行われます。修正手術の時期は症状により異なり、変形が大きい場合は4~10歳頃にも行われることがありますが、最終的な修正手術は骨格や軟骨の成長がほぼ終わる16歳以降に行われます。

口蓋裂の治療

最初の手術は、口蓋の筋肉がある程度発達し、言葉を話し始める前の1~2歳頃に行われます。口蓋の裂け目を1度の手術で閉じる場合と、2回の手術に分けて閉じる場合があり、2度目の手術は1度目の手術の約半年後に行う場合と、6~9歳頃まで待ってから行う場合があります。

顎裂がある場合は、5~12歳頃に裂け目の部分に骨を移植することがあります。移植する骨には自分の腰の骨や、人工骨などが使われます。

その他の治療

口唇裂では、手術後であれば言葉の発音に影響が出ることはあまりないと考えられています。

一方、口蓋裂では軟口蓋という上あごの後方部分(のどちんこの近くの柔らかい部分)の動きが悪かったり、口蓋に孔が残ったりすると発音がしにくく、手術後でも以前の発音のしかたの癖が残っていたり、独特の発音になる場合があります。

このため、言語聴覚士が手術前から定期的に発音などの状態を観察し、必要に応じて言語訓練を行います。 また、特定の歯が生えてこなかったり、歯並びや噛み合わせに影響がある場合は歯科矯正治療が行われます。

疾患との付き合い方

口唇口蓋裂のある子どもは手術後も傷あとが残っていたり、話し方に特徴があったりする場合があり、自分でも気にしていたり、学校で友だちに指摘されたりすることがあるかもしれません。

このような場合は、「原因はよくわからないんだけど、生まれるときにケガをしちゃうこともあるんだって。でも、お医者さんにきれいに治してもらえるから大丈夫よ。」など、子どもが理解しやすい表現で説明すると良いでしょう。

子どもに口唇口蓋裂について説明するための絵本『チーちゃんのくち』も参考にしてみてください。

子どもが大きくなるにつれて、口唇口蓋裂についてより詳しい知識を伝えることが必要になる時期も来るでしょう。

何よりも大切なことは、「子ども本人が自信を持って生きていけるようになること」です。

口唇口蓋裂は、大きな合併症がない限り一般の子と同じで何の差もないということ、自分にも親にも何の責任もなく、人格とは関係がないことなど、正しい知識を子ども本人が得ることが、その一助になるはずです。

大人になってからも、体質によっては手術の傷あとが目立つことがあります。この場合は、傷あとやアザをカバーするために開発された医療用の化粧品を用いて、傷あとをカバーする方法があります。

口唇口蓋裂の当事者のみなさんの声

口唇口蓋裂で自分の個性を制限する必要はない。患者会「笑みだち会」を主宰する小林えみかさん

【写真】こちらをみつめるこばやしさん

撮影:向直弥

口唇口蓋裂についての情報をブログで発信し、口唇口蓋裂のある当事者とその家族が集まる会NPO法人「笑みだち会」を主宰する小林えみかさんには、口唇口蓋裂のほかにも両耳の高度難聴、左耳が通常より小さい「小耳症」、心臓内部に穴が空いている「心室中隔欠損症」などの先天性疾患があります。

この記事では、20回以上の手術を受けてきたという小林さんが現在に至るまで口唇口蓋裂をはじめとする症状とどのように付き合い、自分の個性や生き方についてどのように考えてきたのかを綴っていただきました。

<小林えみかさんが経験してきた困りごと>

・周囲と違う見た目の自分に悩み、自信を無くす

周囲の子たちの自分に対する反応から「私の顔は他の人とは違うの?」と気づいたのは保育園のとき。中学時代には障害のある自分に悩み始め、学校に行くと「健常者との違いを見せつけられてる」ように感じてしまい、自分で自分を責めてしまったといいます。

・治療のつらさ

我慢強い反面、弱音を吐けず溜め込んでしまう性格ゆえ、親の前で涙を見せたのは人生で数える程度しかなかったという小林さん。しかし、手術の痛みや苦しさは、我慢しながらも少しずつ小林さんの中に積み重なっていきます。高校3年生になり、1年に3回の手術を経験したときには溜めこんでいた苦しさが爆発し、親の前で「見た目だけのことで、こんなつらい思いしてまで手術する意味あるん?」と泣き叫んだこともありました。

【写真】耳の上に骨伝導補聴器をつけているこばやしさん

撮影:向直弥

障害があることへの葛藤や治療のつらさなどを経験しながらも、支援学級の先生や理解ある友人たち、「孫とおじいちゃんみたいな安心できる関係」という主治医や両親など、周囲の人たちの温かいサポートを受け、少しずつ将来のことを前向きに考えるようになった小林さん。

治療が落ち着いた21歳の誕生日に「自分にできることは何だろう?」と考え、ブログ「私、重度の口唇口蓋裂です。」を開設。当時は口唇口蓋裂のある当事者による情報発信が少なかったことや、闘病ブログなのに面白エピソード満載であることなどからブログは大反響を呼び、テレビ番組にも出演します。

私の人生は障害や病気があったり、不登校だったりしたけれど、それはいつのまにか人生に深みを増すプラスな出来事へと昇華されました。だから今みなさんにつらい出来事があっても、その”影”は、きっと未来の自分が輝ける瞬間に光となって支えてくれると思うんです。

口唇裂のある亮くんとの出会いで、価値観が広がった。山口哲人・優子さんご夫妻

【写真】笑顔でこちらをみているやまぐちさん親子

撮影:川島彩水

山口哲人さん・優子さん(仮名)ご夫妻の4人目の子どもである亮くん(仮名)には、優子さんのお腹の中にいたときに口唇裂があることが判明します。ご夫妻は葛藤したと言いますが、現在2歳の亮くん(仮名)は他の3人のきょうだいと同じように「普通に」育てられ、地域のたくさんの人にも可愛がられているそうです。

この記事では、山口さんご夫妻がどのようにして葛藤を乗り越え、どのようにして「抱え込まない子育て」にたどり着いたのかについて語っていただきました。

<山口さんご夫妻が経験してきた困りごと>

・子どもが生まれる前に抱いた不安

いじめや治療費、「口唇口蓋裂の子を愛せるのか」という不安などから、当時の哲人さんは「産むべきなのか」と葛藤したそうです。一方、優子さんは当然産むつもりでいましたが、「夫の中に『産まない』という選択肢があるのはつらかった」と言います。

・幼い子どもに治療を受けさせることのつらさ

亮くんは2度の手術を経験。術後の痛々しい姿や、患部を保護する必要から自由に動けない姿を見るのは親としてもつらかったと言います。退院後、家で遊んでいたときに術部をぶつけたために再度縫うことになり、その後も抜糸まで待てずに自分で糸を抜いてしまったときなどには「この年齢で手術してよかったのか」と葛藤することもありました。

【写真】楽しそうに遊ぶりょうくんを山口さんが愛おしそうに見つめている

撮影:川島彩水

亮くんを妊娠中にご両親に相談し、母親から「パートを辞めてでも手伝いに行くから」という心強い言葉をもらったことで産む決意が揺るぎないものになった優子さんを見て、哲人さんも産む気持ちを固めました。そして生まれてきた赤ちゃんを見た瞬間に愛おしい感情が溢れ、「全てがガラッと変わった」と哲人さんは言います。

ご夫妻は亮くんの口唇裂を隠さずどんどん外に連れて行き、「こういう子もいるんだよ」と周りの子どもたちにも見てもらいたいと考えています。どこに行っても「かわいい」と言ってもらえることが救いであり、「見た目が少し人と違っても、大丈夫なんだな」と感じているそうです。

哲人さんは、同じ悩みをもつ方に対し「抱え込まないで、なるべく早くいろんな人に相談してほしい」と考えています。

私の場合は、当事者の知人や信頼できる医療従事者との出会いが、大きな救いになりました。また、口唇口蓋裂の赤ちゃんを迎える家族向けの映像を見て学んだり、わからないことはその都度医師に聞くことを意識していました。「適切な医療を受ければ、この子の口唇裂は治る」と信頼できる医師に言ってもらったことも大きかったです。

口唇口蓋裂を「個性」と思える環境を作りたい。情報交換のためのポータルサイト「Leonine(レオナイン)」を立ち上げた小菅典子さん

【写真】笑顔のこすがさんおやこ

小菅さん親子(提供写真)

口唇口蓋裂のある男の子の母親である小菅典子さんは、口唇口蓋裂のある当事者や家族が気軽に情報交換できるポータルサイト「Leonine」を運営しています。この記事では、小菅さんが「Leonine」の立ち上げに至った経緯と思いを伺いました。

<小菅さんが経験してきた困りごと>

・情報入手の難しさ

小菅さんが出産後に悩んだのは、インターネット上に口唇口蓋裂についての情報はあるものの、必要な情報にたどり着くまでに時間がかかることでした。また、同じ疾患のある方のブログなどがあっても更新時期が古い場合もあり、現在も有効な情報なのか判断がつかないこともありました。

・孤独感

友人には恵まれていたものの、疾患について相談できる相手がいなかった小菅さんは、不安や孤独感に夫婦2人だけで向き合わざるを得なかったそうです。病院の待合室などで同じ疾患のあるお子さんを見かけても、保護者さんになかなか話しかけられなかったのです。

【写真】笑顔でお子さんを抱きしめるこすがさん

小菅さん親子(提供写真)

やがて同じ疾患のある子どもを持つお母さんと出会い、話すことで前向きになれたことから仲間の大切さを実感した小菅さんは、パートナーや他の4家族とともに、クラウドファンディングを経て「Leonine」を立ち上げました。小菅さんは、口唇口蓋裂のあるお子さんが生まれてくるお母さん、お父さんたちに「悲観しなくても大丈夫」と伝えたいと言います。

もちろん、私も息子が成長するなかで『子どものありのままを認める』ことの難しさを実感することがあると思います。でも、理解し支え合える仲間がいれば、そんな自分も受け止められる気がするんですよね。それが最終的に、息子をありのまま受け止めることにつながっていくのかなと思います。

障害や疾患に関わらず、子どもをしっかりと見つめる余裕をもつために一番必要なのは、人とのつながりなのかもしれません。それを忘れず、私も日々子どもたちと関わっていけたらと思います。

口唇口蓋裂当事者のみなさんへのサポート

口唇口蓋裂のある当事者・家族の集まりや支援団体を紹介します。サポートを受けたいと思ったときは、以下を参考にしてみてください。

      • 笑みだち会
      • 口唇口蓋裂のある当事者とその家族が集まるNPO法人で、口唇口蓋裂のある当事者、小林えみかさんが主宰しています。

      • Leonine(レオナイン)
      • 口唇口蓋裂のある当事者や家族が情報交換できるポータルサイト。口唇口蓋裂のある男の子を持つ小菅典子さんが運営しています。

      • メディカルメイクアップアソシエーション
      • 皮膚変色や皮膚障害をカバーするためのメイクアップ技術「メディカルメイクアップ」を提供するNPO法人。銀座と梅田にあるセンターのほか、医療機関でもカウンセリングを行っています。soarで紹介した記事はこちら

        読んでくださった方へのメッセージ

        口唇口蓋裂は、顔という外見上目立ちやすい部位に症状が現れる先天性疾患で、治療も長期間にわたるため、当事者やその家族はさまざまな心理的・物理的・経済的な困難を経験します。

        この記事で紹介した当事者やご家族の方々も、それぞれにつらい時期や葛藤を経験されましたが、周囲の人々のサポートや、同じ疾患を経験する当事者や家族との繋がりを通して、価値観が広がったり自分自身のことを前向きに捉えられるようになったりしていきました。

        情報交換悩み相談を行う当事者会や傷あとをカバーするメディカルメイクアップなど、さまざまな分野でサポートを提供している人たちがいます。悩みを自分ひとりで抱えず、ぜひサポートを利用してください。

        参考文献
        口唇裂・口蓋裂診療ガイドライン:PDFページ
        口腔外科相談室:ホームページ
        口蓋裂(こうがいれつ):ホームページ
        『口唇口蓋裂Q&A140』
        『口腔外科学 第4版』

        監修者:古郷幹彦(大阪大学歯学部附属病院口唇裂・口蓋裂 口腔顔面成育治療センター センター長・教授

        (執筆/岡田直子、編集/soar編集部)